映画評「あなただけ今晩は」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1963年アメリカ映画 監督ビリー・ワイルダー
ネタバレあり

「アパートの鍵貸します」で大評判を取ったビリー・ワイルダー監督とジャック・レモン、シャーリー・マクレーン主演コンビが再び組んだコメディーで、25年前に映画館で観て以来の再鑑賞になる。

パリ、新米警官レモンは真面目で融通が利かない為にホテルにしけこんだシャーリーら娼婦を逮捕するが、見て見ぬふりをすることが慣例となっている上に客の中に署長がいて、なおかつヒモたちの賄賂が知らぬ間に入っていたので、忽ち首になってしまう。

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という序盤はさほど笑えないが、中盤以降はおとぼけ度が高くなっていよいよワイルダー喜劇らしさが出てくる。

自棄(やけ)になったレモンがシャーリーのヒモを酔った勢いでやっつけ、後釜になるものの、根が真面目なので彼女を何とか更生させようと英国紳士に扮する奮闘ぶりが傑作と言える出来栄えである。即ち、不能の紳士が週に二度寂しい心を慰めに貰いに来るのを相手にするだけで彼女の手元には大金が入るので左団扇で暮らせるという図式で、何でも経験しているヘンテコなカフェの親父が貸した金は流れ流れて親父の手元に返ってくる算段だが、大ボスになった為に資金が回らず、結局彼女が寝ている朝方に中央市場を駆けずりまわって仕事をこなす羽目になる。

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映画の始まりで、この市場の模様をたっぷり紹介していることがここで意味を成すわけで、さすがにワイルダーとI・A・L・ダイアモンドの脚本は上手いです。
 この辺りも既に相当にナンセンスなわけだが、今度はシャーリーが英国紳士に熱を上げたことに嫉妬して、彼が英国紳士を“殺害”して川に投げ込んだ罪で服役することになる、という辺りに至ってはナンセンスを通り越した可笑しさと言っても良い。

さてカフェの親父の協力で脱獄したレモンは英国紳士が川から上がってくる様子を警官たちに見せて冤罪を晴らした後更生した彼女とめでたく結ばれて、ジ・エンド。
 シチュエーション・コメディーの可笑しさは大概嘘や誤解がベースとなるわけで、本作でもレモンの偽装が誤解の上に誤解を呼んで笑わせてくれる。こうした腰のある笑いは近年のコメディーではちょっと味わえないだけにご機嫌でござる。

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それに加えられる小ネタがこれまた興味深く、映画ファンなら膝を叩いて喜ぶのが戦争映画のネタのオンパレード。「戦場にかける橋」に始まり、「ビスマルク号を撃沈せよ」「激戦ダンケルク」「「ナバロンの要塞」「アラビアのロレンス」「遙かなる戦場(進め龍騎兵)」「ガンガ・ディン」「ベンガルの槍騎兵」そして「戦艦バウンティ」といった具合である。
 また、本作が日本で封切された時(1963年11月)にはまだ舞台だけで映画になっていなかったのでピンときた日本人は少ないだろうが、レモンが英国紳士の発音を練習する場面で「マイ・フェア・レディ」の「スペインの雨」が使われているのが大変面白い。

レモンとシャーリーについては言わずもがなで、特にシャーリーのとぼけた可愛らしさが抜群。

彼女が可愛がっている酒好きの小犬も愉快。「皇帝円舞曲」同様犬を活躍させているところを見ると、ワイルダーは犬好きなようであります。

この記事へのコメント

2008年07月05日 19:07
記念すべきマイブログ記事第一弾の映画で
ございました。
プロフェッサーのUP画像がとても
懐かしく嬉しくなってしまいます♪

観るお客さまを何とかして楽しませようと
してくれる小粋なユーモアと小ネタの数々。
ワイルダー、レモン&マクレーン!
親分とホンと役者が揃えば、
いいシャシンがおのずと転がるってね(^^)

>「スペインの雨」

ガッテン承知之助でござんす!^^
オカピー
2008年07月06日 00:20
viva jijiさん、こんばんは。

おおっ、そうでしたか。
もう一月遅ければ丁度3周年記念になりましたね。
ちょっと残念。^^

>UP画像
結構画像化したい良い絵が多いのですが、本作の象徴的な場面のショットを取り込んで(字を消す細工などして)3つUPしましたです。

ナンセンス度から言えばワイルダー作品の中でも最高でしょうが、面白く出来ていましたねえ。今時このお話で140分を超える作品なんてまず作れません。ワイルダーはニューシネマ以前ハリウッドで一桁しかいなかったという編集権を持った監督だったのでしょう。

>「スペインの雨」
さすがでやんす。^^
それから、ホームズの「バスカヴィル家の犬」のネタもあって、7年後に「シャーロック・ホームズの冒険」というオリジナル作を作る準備でもしていたのかななどとも思いましたよ。
翡翠(ひすい)
2008年07月06日 17:24
この映画、好きです。「アパートの鍵貸します」のコンビで
ああいうカンジだと思って見た一回目は、それほどピンとこなかったんです。(子供だったからかな)
二度目に見たときは、本当に面白くて面白くて
主演の二人が可愛くて、楽しくて仕方がなかったんです。とても不思議な不条理な、ナンセンスコメデイというのか、
そういうありえないような設定が、妙に心をくすぐりました。
そして最近、また見直したのですが、やはり面白かったです。
セットとか衣装とか色彩もおしゃれだなあと、あらためて
感心しました。
オカピー
2008年07月07日 01:12
翡翠さん、書き込み有難うございます。

「アパートの鍵貸します」は非常に良く出来た人情コメディでした。ワイルダーの喜劇の中で恐らく一番お気に入りだと思います。

>二度目に見たときは、本当に面白くて面白くて
そういうことはよく僕も良くあります。少なくとも高校生若しくはそれ以前に観た作品の印象なんてまず当てにならないなあと思います。

>セットとか衣装とか色彩もおしゃれ
この映画の町並みのセットは良いですね。適度に作り物らしく適度にリアルなところがこういう作品に大変合っている感じです。
色彩では、ヒロインの拘る緑が印象的でした。犬のリボンや餌用トレイまで緑でしたね。
十瑠
2008年07月10日 22:48
マクレーンはこの時まだ二十代なんですよね。スタイルは良いし、面白いし、声は可愛いし・・・。
姐さんとこと同時にTBしましたが、あちらは夜は届かないようです。

「皇帝円舞曲」も「ワン・ツー・スリー ラブハント作戦」も録画済み。観るのは先になりそうですな。
オカピー
2008年07月11日 02:54
十瑠さん、こんばんは。

>マクレーン
彼女のこのとぼけた可愛さを発掘したヒッチコックの慧眼(「ハリーの災難」)を褒めないといけないようですね。^^

>姐さんとこ・・・夜
当方とはそんなことはないようです。但し、先方から来ないと貼りつかないんですけどね。^^;
こういうのは設定の問題の可能性もありますね。

>「ワン・ツー・スリー」
は10年以内に観ているので、避けてしまった。
「皇帝円舞曲」は高校生の時に観ただけかと思っていたら、これも10年くらい前に観ておりました(どうも最近記憶力が…)。だったら「昼下りの情事」を優先するのだったなあ。

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  • あなただけ今晩は

    Excerpt: (1963/ビリー・ワイルダー監督・共同脚本/ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、ルー・ジャコビ、ハーシェル・ベルナルディ、ホープ・ホリデイ、ポール・デュボフ/146分) Weblog: テアトル十瑠 racked: 2008-07-10 22:37
  • あなただけ今晩は

    Excerpt: あなただけ今晩は ¥3,799 Amazon.co.jp アメリカ 1963年 ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、ルー・ジャコビ、ハーシェル・ベルナルディ、ホープ・ホリディ、ポー.. Weblog: 映画を観よう racked: 2008-07-31 13:02
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