映画評「ボーン・アルティメイタム」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督ポール・グリーングラス
ネタバレあり
三部作流行りの昨今、本作も「ボーン」シリーズの三作目にして最終作とのこと。
CIAの特殊戦力となって元来の記憶を失ったジェイソン・ボーン即ちマット・デーモンが過去にたどり着く為に単独で調査を続けロンドンの記者と接触を図る。逆襲を恐れるCIAに監視されていることに気付いたボーンがプリペイド携帯を使って記者に逃走の指示を与えるこのシークェンスが最初の大々的な見せ場で、スリル満点である。
結局記者を殺された後記者の情報源であるマドリッド支局長に遭いに行って空振りに終わるが、彼の部下であるジュリア・スタイルズの情報でモロッコのタンジールに飛ぶ。支局長はCIAの暗殺者に爆死させられ、犯人と目されたボーンが警察に追われながらジュリアを見守りつづ殺し屋を追いかけるシークェンスが本作最大の見せ場として繰り広げられる。
追われながら追いかけるというシチュエーションは文句なく面白く、隘路でのバイク・アクションや屋上での疾走など見応え十分。
そして最後はCIA本部のあるニューヨークでまたまたボーンが局員たちを巧みに攪乱して、遂に彼を巻き込んだ作戦を企画した張本人の前に立つ。
趣味としては第1作のスパイものらしい香りが好きだが、面白さでは断トツで本作である。展開のスピードも抜群で、臨場感も高い。しかし、僕はポール・グリーングラスの演出は不満である。
まず全編にわたる手持ち若しくは肩掛けカメラの使用。臨場感は増す一方で、ふらふらして落ち着かず、実話の再現という目的を持った「ユナイテッド93」では良くても純然たるフィクションであるサスペンス映画で全編を通して使うほどのものではない。
それ以上に気になるのは細かく刻まれたショットの多用である。目が疲れるという側面もさることながら、被写体の全体像やアクションの流れがきちんと把握できないので古い映画で育った人間にはイライラが募る。せめて一つのアクションくらい通しで撮ってほしいもので、こんな劇画のコマのような非連続的なカット割りではアクション自体の素晴らしさが脳裏に残らないどころか、拙いアクションの誤魔化しと言われかねない。この手の演出が流行り始めて既に20年は経つが、特に本作の場合は折角のホームラン性の大飛球がファウルになってしまった感ありで、勿体ないと思う次第。
劇画育ちが映画を作るとこうなるのかな。
2007年アメリカ映画 監督ポール・グリーングラス
ネタバレあり
三部作流行りの昨今、本作も「ボーン」シリーズの三作目にして最終作とのこと。
CIAの特殊戦力となって元来の記憶を失ったジェイソン・ボーン即ちマット・デーモンが過去にたどり着く為に単独で調査を続けロンドンの記者と接触を図る。逆襲を恐れるCIAに監視されていることに気付いたボーンがプリペイド携帯を使って記者に逃走の指示を与えるこのシークェンスが最初の大々的な見せ場で、スリル満点である。
結局記者を殺された後記者の情報源であるマドリッド支局長に遭いに行って空振りに終わるが、彼の部下であるジュリア・スタイルズの情報でモロッコのタンジールに飛ぶ。支局長はCIAの暗殺者に爆死させられ、犯人と目されたボーンが警察に追われながらジュリアを見守りつづ殺し屋を追いかけるシークェンスが本作最大の見せ場として繰り広げられる。
追われながら追いかけるというシチュエーションは文句なく面白く、隘路でのバイク・アクションや屋上での疾走など見応え十分。
そして最後はCIA本部のあるニューヨークでまたまたボーンが局員たちを巧みに攪乱して、遂に彼を巻き込んだ作戦を企画した張本人の前に立つ。
趣味としては第1作のスパイものらしい香りが好きだが、面白さでは断トツで本作である。展開のスピードも抜群で、臨場感も高い。しかし、僕はポール・グリーングラスの演出は不満である。
まず全編にわたる手持ち若しくは肩掛けカメラの使用。臨場感は増す一方で、ふらふらして落ち着かず、実話の再現という目的を持った「ユナイテッド93」では良くても純然たるフィクションであるサスペンス映画で全編を通して使うほどのものではない。
それ以上に気になるのは細かく刻まれたショットの多用である。目が疲れるという側面もさることながら、被写体の全体像やアクションの流れがきちんと把握できないので古い映画で育った人間にはイライラが募る。せめて一つのアクションくらい通しで撮ってほしいもので、こんな劇画のコマのような非連続的なカット割りではアクション自体の素晴らしさが脳裏に残らないどころか、拙いアクションの誤魔化しと言われかねない。この手の演出が流行り始めて既に20年は経つが、特に本作の場合は折角のホームラン性の大飛球がファウルになってしまった感ありで、勿体ないと思う次第。
劇画育ちが映画を作るとこうなるのかな。
この記事へのコメント
このシリーズは3作全て鑑賞してますが(記事にはしていませんが)、私も本作が一番おもしろいと思います。
ただ、仰る通りカット割りがね、私は基本的に割る画は好きなのですが、ここまでこまかく割られる(無意味に)と、ひとつのアクションで全体の動きの流れがかじられず、スピード感はたしかにありますが、コマ切れという印象が強いですね。随所にみられると効果的ではなくなるんですね。
まあ、私的にはアクションなどをひきの画で、割らずにみせらるよりはまだいいんですが、押し流されるだけで、逆に迫力感が失われる気もしますね。
では、また。
>私も本作が一番おもしろい
そうでしょ!
その点については文句なし。
>カット割り
いくら何でも刻み過ぎですよ。
アクションは、ややロングで全体を取った後、寄って数秒単位のアクションなら切らずに撮るぐらいで丁度良いのではないかと思いますね。
個人的には60年代後半~70年代前半のアクションくらいがベスト。ドン・シーゲルが理想じゃないですか?
>逆に迫力感が失われる気もしますね
何でも使いすぎは逆効果ですよ。
「湖中の女」という一人称映画がその典型的な例。ずっと主観ショットなので客観ショットと大差がなくなり、切れがある分客観ショットのほうがマシだったというわけです。
P様の「折角のホームラン性の大飛球がファウルになってしまった感あり」が、私の「う~ん、感想は微妙!」となるんでしょうね。ノンストップアクションは見ている間は面白かったけど、私の場合、本作ではドラマが感じられなかったんですよね。
ただ、本作をみていてCIAの網の目のように張り巡らされた市民管理システムって、アメリカでは国民に管理番号が振られているから、実際にこれくらいだったらありうるんだろうな、当たり前なんだろうなって思うと、ちょっと怖い。
理由は違えど、
勿体なかった作品ということになるのでしょうかね。^^
>ノンストップアクションは見ている間は面白かったけど・・・
土屋好生という映画評論家が異口同音に同じことを仰っていました。
僕はジャンル映画として観ましたから、逆にドラマが入り過ぎると展開が停滞しがちなので現状で良いとして、ショットの数の異様な多さに辟易し、楽しみつつ楽しめなかったというのが実情。
>市民管理システム
ありそうななさそうな。
アメリカというより、寧ろロンドンの監視カメラの多さは有名ですから、ちょっと皮肉っぽい感じもしましたですねえ。
動態視力をきたえるにはいいと思われますが、
なんだか新しい視力検査みたいで落ち着かないですね。(笑)
そうですね、ひとつくらいはじっくりとアクションみせてくれてもいいのになと思いますね。
多分、シリーズの1作目はそんなところがあったんではないかな?
>動態視力
確かにねえ。
30年くらい前ならドラマのショット数は600から800で、サスペンスではその1.5倍くらい、例えばヒッチコックの「鳥」で1360と言われています。また、「サイコ」の有名なシャワー・シーンは45秒の間に70カットですから当時としては異常な多さ。しかし、作品全体としては1000くらいでしょう。
多分この映画は一番少ない部分でも1分間に15、多いところでは50くらいあるのではないでしょうかね。そうすると2時間で4000くらいありまするよ。何とかしてくれませんかね(笑)。
相手を蹴飛ばす、相手が倒れる。これくらいは1ショットで撮って欲しいですね。それでも4秒くらいですよ。
>シリーズの1作目
監督が違うので、全然違った印象です。
明らかにもっとじっくり撮っていましたね。
それでも現在の作品なのでショット数は相当あったでしょうが。
>三作目にして最終作とのこと
監督もM・デイモンも4作目を作る気満々のようです。
もうジェイソン・ボーンではないので、デビッド・ウェブ3部作にするつもりでしょうか。
>4作目
昨年の段階ではデーモンは「ボーンが記憶喪失にでもならない限りない」と言っていましたが、仰るように本人に戻っての活躍ならありえそうですね。
個人的には、グリーングラスの臨場感最優先演出は勘弁して貰いたいですが。