映画評「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年フランス=イギリス=チェコ映画 監督オリヴィエ・ダアン
ネタバレあり
昨年本作の題名を見て1973年に作られ翌年日本でも公開された「愛の讃歌 エディット・ピアフの生涯」のリバイバルかと思ったが、新作と判明してびっくり。また、1983年にはクロード・ルルーシュが「恋に生きた女ピアフ」を作った。
シャンソン史上最高の歌手ピアフが今でもそれほど人気があることを証明する現象と思うが、尤も前者は前半生だけを扱い、後者はピアフだけに集中していないので、本作が全生涯に焦点を当てた最初の作品かもしれない。
1915年にふしだらな路上歌手を母に生まれたピアフは、娼館を営む祖母に暫く預けられた後大道芸人の父に引き取られ、偶然歌を歌って好評を得たことから母親同様に路上で歌う道を歩み、クラブの支配人(ジェラール・ドパルデュー)に認められる。
というのが少女時代。僕はこの前半のほうがうらぶれた市井ムードが堪能できて好きである。
支配人が死んで苦悩する彼女の前に現れるのが作詞家・作曲家レイモン・アッソで、彼の厳しい訓練のおかげでその後の彼女があるのかもしれない。戦後妻子あるボクサー、マルセル・セルダンと恋に落ちるが、彼女の依頼で乗った飛行機が墜落して彼は死亡。
彼への愛を綴った名曲がかの有名な「愛の讃歌」で、ルルーシュ版ではこのロマンスが軸になっていたが、本作では極めて幻想的に扱われている。以下の如し。
眠っているピアフを彼が起こす。しかしこの彼は幻想で、彼女の前には関係者が呆然と立ち尽くしている。彼の死が告げられ、別の部屋に出ていくとそこがステージとなっていて、やがて「愛の讃歌」へと繋がっていく。この場面は大変気に入った。
しかし、共同で脚本も書いている監督オリヴィエ・ダアンのこうした才気が全体としては悪い方に出て、59年に倒れた後の晩年と年代順の中心場面とを頻繁に往復する為にじっくり見られず、解り難い箇所もある。この手法により行間から彼女の感情を浮き彫りにしようという狙いは解るし、上手く行っている部分もあるが、僕にはやり過ぎのように思え、余り感心しない。
「ピアフの我儘な態度に感情移入できない」といった青臭い批判を読んだが、彼女が何故あのような態度を取るようになったのか取らざるを得なかったのか洞察しようともせずに安易に感想などを述べるべからず。そこを読むのが人間劇、ドラマである。
若い音楽家たちが彼女の許に聞いてほしいと曲を持って来る二つの場面を見られよ。最初は翌日に出征する若い兵士、二番目は「私は後悔しない(水に流して)」という曲を書いた若者たちで、彼女には曲を聴き良いものはすぐに認める素直さがあるではないか。「私の人生そのものだ」と彼女が認めた曲で締められる幕切れに思わず目頭が熱くなる。
大人になったピアフを演じるマリオン・コティヤールが大力演。アカデミー主演女優賞に値すると思うが、英国資本が絡んでいるとは言え、事実上のフランス映画に外国語映画賞以外の賞を与えるところにアメリカ映画界の野望が垣間見えるような気がしないでもない。
ビリー・ホリデイと誕生年が同じと自慢するピアフは大変可愛らしい。
2007年フランス=イギリス=チェコ映画 監督オリヴィエ・ダアン
ネタバレあり
昨年本作の題名を見て1973年に作られ翌年日本でも公開された「愛の讃歌 エディット・ピアフの生涯」のリバイバルかと思ったが、新作と判明してびっくり。また、1983年にはクロード・ルルーシュが「恋に生きた女ピアフ」を作った。
シャンソン史上最高の歌手ピアフが今でもそれほど人気があることを証明する現象と思うが、尤も前者は前半生だけを扱い、後者はピアフだけに集中していないので、本作が全生涯に焦点を当てた最初の作品かもしれない。
1915年にふしだらな路上歌手を母に生まれたピアフは、娼館を営む祖母に暫く預けられた後大道芸人の父に引き取られ、偶然歌を歌って好評を得たことから母親同様に路上で歌う道を歩み、クラブの支配人(ジェラール・ドパルデュー)に認められる。
というのが少女時代。僕はこの前半のほうがうらぶれた市井ムードが堪能できて好きである。
支配人が死んで苦悩する彼女の前に現れるのが作詞家・作曲家レイモン・アッソで、彼の厳しい訓練のおかげでその後の彼女があるのかもしれない。戦後妻子あるボクサー、マルセル・セルダンと恋に落ちるが、彼女の依頼で乗った飛行機が墜落して彼は死亡。
彼への愛を綴った名曲がかの有名な「愛の讃歌」で、ルルーシュ版ではこのロマンスが軸になっていたが、本作では極めて幻想的に扱われている。以下の如し。
眠っているピアフを彼が起こす。しかしこの彼は幻想で、彼女の前には関係者が呆然と立ち尽くしている。彼の死が告げられ、別の部屋に出ていくとそこがステージとなっていて、やがて「愛の讃歌」へと繋がっていく。この場面は大変気に入った。
しかし、共同で脚本も書いている監督オリヴィエ・ダアンのこうした才気が全体としては悪い方に出て、59年に倒れた後の晩年と年代順の中心場面とを頻繁に往復する為にじっくり見られず、解り難い箇所もある。この手法により行間から彼女の感情を浮き彫りにしようという狙いは解るし、上手く行っている部分もあるが、僕にはやり過ぎのように思え、余り感心しない。
「ピアフの我儘な態度に感情移入できない」といった青臭い批判を読んだが、彼女が何故あのような態度を取るようになったのか取らざるを得なかったのか洞察しようともせずに安易に感想などを述べるべからず。そこを読むのが人間劇、ドラマである。
若い音楽家たちが彼女の許に聞いてほしいと曲を持って来る二つの場面を見られよ。最初は翌日に出征する若い兵士、二番目は「私は後悔しない(水に流して)」という曲を書いた若者たちで、彼女には曲を聴き良いものはすぐに認める素直さがあるではないか。「私の人生そのものだ」と彼女が認めた曲で締められる幕切れに思わず目頭が熱くなる。
大人になったピアフを演じるマリオン・コティヤールが大力演。アカデミー主演女優賞に値すると思うが、英国資本が絡んでいるとは言え、事実上のフランス映画に外国語映画賞以外の賞を与えるところにアメリカ映画界の野望が垣間見えるような気がしないでもない。
ビリー・ホリデイと誕生年が同じと自慢するピアフは大変可愛らしい。
この記事へのコメント
>マリオン・コティヤールが大力演
ちょっと過剰演技っぽいとこも感じ、痛々しいと思うとこもありましたけどね…。
>59年に倒れた後の晩年と年代順の中心場面とを頻繁に往復する為にじっくり見られず、解り難い箇所もある。
同感ですね。ある程度ピアフの半生を知っていたから読み取れたけど、逆にここもうすこし丁寧に、じっくりピアフを描いて欲しいわぁって思うとこもありましたけど、前半の生い立ちなどで、後半のピアフが理解できたと思います。彼女の歌に感じるドスの聞いた声、迫力はこんなところから生まれてきたんだなってピアフその人を理解できました。一つ間違えば娼婦で終っていたかもしれない彼女の人生。
ただ、彼はモンタンとかムスタキ(一時、日本でもブームでしたよね)など愛人関係にありながら、彼らを育て上げた。そういう一面が本作では描かれてなかったのがちょっと不満。
とにかくピアフを堪能できた!それだけでも十分★が並びました。
>シャンソンは民衆の生の声
その為に、他国の流行歌に比べて
押韻に拘っていない気がするのですが、実際にはどうなんでしょう?
>往復
全て臨終の際のピアフの回想という解釈が成り立ちますが、
映画は解り易く作るのが基本。
最近の映画はその基本を忘れている。
単純な回想で良いと思うんですがね。
>彼らを育て上げた
それは欲のかきすぎですって(笑)。
余り幅を広げると主題がぼけ、収拾がつかなくなってしまう。
作者は、やはり彼女の愛はセルダン一人としたかったのでしょう、
ルルーシュと同じように。
あんまりピアフの歌の良さが分からない私ですが、人生もドラマティックだったのですね。
私はマリリン・ファンですが、名前を残す人って、人生もダイナミックなのかなと…。凡人な私は平凡な人生? それもいいですけどね。
>あんまりピアフの歌の良さが分からない
僕も、あの縮緬ビブラートはちょっと苦手です。^^;
後年のミレイユ・マチューなどは凄く影響を受けたのではないかと思いますね。
>人生もドラマティック
壮絶ですよねえ。
不倫相手、それも物凄い愛情を注ぎこんだセルダンが突然この世から消える。
これは相当なショックだったでしょう。
それが「愛の讃歌」を生んだと思うと感慨もひとしおです。
>平凡な人生
それに越したことはないですよ。
飯島愛がMMと同じ36歳で亡くなりましたが、結構孤独だったのかもしれませんね。彼女のような人生なら、平凡な人生が良いです。