映画評「監督・ばんざい!」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・北野武
ネタバレあり
北野武は「HANA-BI」でそれまでの彼自身の作風を総仕上げし、前作「TAKESHI’S」で一市民、芸人、映画監督、種々の側面を持つ北野武の心情を映画作家としての彼が内省的に描いて見せた後、本作で遂にフェデリコ・フェリーニ「8・1/2」、フランソワ・トリュフォー「アメリカの夜」、ウッディー・アレン「スターダスト・メモリー」同様に、映画監督としての自己に焦点を絞って省察し、心境を吐露してみせたと理解して良いだろう。
ギャング映画を得意とする映画監督キタノタケシ(ビートたけし)は「ギャング映画はもう撮らない」と宣言してしまった都合上、これまでに撮ったことのない小津安二郎風ドラマ、純愛路線、昭和30年代を描いたドラマ、ホラー映画、特撮・VFXを多用した時代劇、SFに挑戦してはその度に手詰まりになってしまう。
そして、SFを作っているうちに詐欺師の母(岸本加世子)と娘(鈴木杏)が財界の大物(江守徹)の側近(たけし)をその御曹司と思い込んで追いかけ回すお話を思いつく。
この最後の喜劇を含めて現在日本で人気を集めている多くのタイプの作品がパロディー的に取り扱われ、そこに動員数こそ増えているが質は下がり続けている日本映画界への諧謔が滲み出る。僕の印象では、批判というほどではなく、苦笑い程度である。
その一方で、たけしの人形がたびたび出て来るうち、ぼこぼこに打たれまくる場面には映画監督として批判もされ揶揄もされ世間に打たれ続ける姿の暗喩のように思えるし、或いは病院で診察される空洞の体には彼の真空状態の心境を投影しているのかもしれない。
自己破壊という意見も散見する。映画監督として勝手に作り上げられた虚像を壊すという狙いは確かに感じられるが、それほど強いものとは思えない。実際、シリアスなドラマの社会的な面は芸人時代に社会の裏側を見てきた経験を土台にしているはずで、寧ろ本作まで彼がお笑い芸人としての感覚を大々的に生かす喜劇を作らなかったのが不思議なくらいだったから、破壊というより軌道修正と言うべきではないか。
それより重要なのは、様々な作品もどきに挟まれたプロローグとエピローグの病院での場面であり、その冷え冷えとした空虚感が現在の心境なのだろう。喜劇的場面やコミカルな処理が多いが、基本は真面目なドラマという気がする所以である。ただ、前作に比べると、独善性が減った代わりに色々考えさせる面白さも少ない。
2007年日本映画 監督・北野武
ネタバレあり
北野武は「HANA-BI」でそれまでの彼自身の作風を総仕上げし、前作「TAKESHI’S」で一市民、芸人、映画監督、種々の側面を持つ北野武の心情を映画作家としての彼が内省的に描いて見せた後、本作で遂にフェデリコ・フェリーニ「8・1/2」、フランソワ・トリュフォー「アメリカの夜」、ウッディー・アレン「スターダスト・メモリー」同様に、映画監督としての自己に焦点を絞って省察し、心境を吐露してみせたと理解して良いだろう。
ギャング映画を得意とする映画監督キタノタケシ(ビートたけし)は「ギャング映画はもう撮らない」と宣言してしまった都合上、これまでに撮ったことのない小津安二郎風ドラマ、純愛路線、昭和30年代を描いたドラマ、ホラー映画、特撮・VFXを多用した時代劇、SFに挑戦してはその度に手詰まりになってしまう。
そして、SFを作っているうちに詐欺師の母(岸本加世子)と娘(鈴木杏)が財界の大物(江守徹)の側近(たけし)をその御曹司と思い込んで追いかけ回すお話を思いつく。
この最後の喜劇を含めて現在日本で人気を集めている多くのタイプの作品がパロディー的に取り扱われ、そこに動員数こそ増えているが質は下がり続けている日本映画界への諧謔が滲み出る。僕の印象では、批判というほどではなく、苦笑い程度である。
その一方で、たけしの人形がたびたび出て来るうち、ぼこぼこに打たれまくる場面には映画監督として批判もされ揶揄もされ世間に打たれ続ける姿の暗喩のように思えるし、或いは病院で診察される空洞の体には彼の真空状態の心境を投影しているのかもしれない。
自己破壊という意見も散見する。映画監督として勝手に作り上げられた虚像を壊すという狙いは確かに感じられるが、それほど強いものとは思えない。実際、シリアスなドラマの社会的な面は芸人時代に社会の裏側を見てきた経験を土台にしているはずで、寧ろ本作まで彼がお笑い芸人としての感覚を大々的に生かす喜劇を作らなかったのが不思議なくらいだったから、破壊というより軌道修正と言うべきではないか。
それより重要なのは、様々な作品もどきに挟まれたプロローグとエピローグの病院での場面であり、その冷え冷えとした空虚感が現在の心境なのだろう。喜劇的場面やコミカルな処理が多いが、基本は真面目なドラマという気がする所以である。ただ、前作に比べると、独善性が減った代わりに色々考えさせる面白さも少ない。
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