映画評「Little DJ~小さな恋の物語~」

☆☆★(5点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・永田琴
ネタバレあり

見始めて10分もしないうちに題名からの予想に反して死病映画と判って相当がっかり。しかし、現在嫌になるほど作られているとは言え、きちんと作れば評価に値する作品になる可能性もあるので、そのまま観ることにする。

画像

1977年、中学1年生の神木隆之介君が野球の試合中に倒れて病院に運ばれ、両親には白血病と告げられる。観客には少年同様に情報を与えられないが、余程勘が悪くない限り解る。
 この時はまだ自分の病気に気付かず暇を持て余した少年が、別棟にある院長・原田芳雄のオーディオ室に入り込んで好きなDJごっこをしているところを見つかり、却って健康に良いだろうと録音して連日放送することになる。
 同じ頃交通事故で入院した中学2年生の福田麻由子ちゃんが同じ大部屋に移ってきたことから、彼は思春期らしく胸をときめかせるが、勇気がなくて告白できない。病院をこっそり抜け出して彼女の好きな「ラスト・コンサート」を観た後願いごとをする星を見に上った函館山で大雨に降られた為に一晩を明かすという無理が祟って重体に陥った時、初めて告白することが出来るのである。

ティーンエイジャーの人気を集めた「ラスト・コンサート」は当時としても実に野暮ったい死病ロマンスだったが、同じ年齢層の観客を主な対象に作っても、30年後に作られた本作は同作よりずっと細かな心理を交錯させていて、その点に関しては大衆映画が大分進歩していることが解る。少年のDJが鬱屈した感情を持て余している患者たちを元気づけていくという展開も良い。

画像

しかし、物語の展開上疑問なのは二人が病院を抜け出すエピソードの扱い。若気の至りで映画を観るまでは良いとしても、大雨まで降り帰れなくなってしまうのはやり過ぎの感ありで、興醒めさせられるのだ。

それ以前に死病映画には固有のジレンマがある。白血病その他のガンでも治るケースはあるが、映画は死ぬことを前提にするので、どうしても先が見えてしまって先への興味が殆ど湧かないこと。作り方次第に映画はどうにもなると言ってもスポーツ映画や恋愛映画のような幕切れのお楽しみはあり得ない。かと言って突然死病を出すのは構成上安易に許されてはいけないので、正々堂々と作れば本作のような構成にならざるを得ないが、以上を総合的に勘案すれば130分弱という上映時間が内容に比して長すぎるという思いを否定できない。
 いっそこのこと(冗談であるぞよ)、DJをやっているうちに白血病が治ってしまえば面白かっただろうに(笑)。脳腫瘍ならそういうケースは幾つかあるのだ。

もう一つ。彼が選ぶ楽曲の数々、王貞治の本塁打世界新記録といった77年近辺を象徴する事象を揃えていながら、当時一般的に使われていなかった【看護師】という単語を用いたのは戴けない。先日の「ヘアスプレー」でもオリジナルの「二グロ」が「ブラック」と対訳されていたが、言葉は時代を映す鏡であるわけだから、それを犠牲にしてまで気を付けなければならないのか甚だ疑問である。表現の自由にも限界があると言えど、どちらもこの日本においてさして気にする必要のある言葉ではない。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • LittleDJ 小さな恋の物語

    Excerpt: プロ野球実況放送の真似をする神木隆之介を見つめる松重豊・・・しゃべれどもしゃべれどもその松重の解説は届かない・・・だからメモなのか? Weblog: ネタバレ映画館 racked: 2008-10-15 21:19