映画評「リアリズムの宿」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2003年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり
3年くらい前からWOWOWで放映されていたが、今頃になって観たのは、僕の中で山下敦弘が俄然注目すべき監督に昇格したからだ。原作はつげ義春のコミック。
インディの青年映画監督・山本浩司と脚本家・長塚圭史が、共通の知人である俳優に誘われて、鳥取県の国英(くにふさ)駅で待ち合わせするが、言いだしっぺは寝坊して来られない。仕方なく二人は気ままに旅を始め、第一の宿を求める。
二人はよく知らない間柄なので漫談風の噛み合わない会話展開を見せるわけだが、この第一夜の可笑しさは格別。
時間潰しに釣りをしていると日本語がぺらぺらの白人に魚を買わされ宿に戻って来ると、男は宿の主人と判明。その夜「持ち込みはまずいだろう」と持ち込んだ酒を襖の向こうに隠す。危険が去ったと思い出してみるとボトルは殆ど空っぽになっている。という落語みたいな出来事が笑わせてくれるが、危険だと思って隠したはずの酒について主人に「飲みませんでしたか」と聞くのが何ともとぼけている。
明けて海岸で相変わらず噛み合わない会話をしていると、半裸の若い女性・尾野真千子が駆け寄り、「波にみんな浚われた」と仲間に加わり、二つ目の宿に泊まる。ここは至ってまともな宿で三人はこっそり混浴などしてみる。が、翌日バスを待っていると、彼女は別の方面へ行くバスに乗って去ってしまう。
こうしたとぼけた感覚は、ジム・ジャームッシュの出世作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」にそっくり。トリオの構成も男二人女一人と同じだ。
三日目の宿は一般の家になりかけるが、大家族で居心地が悪いので近くの格安宿を紹介してもらったものの、これまた民家が余った部屋を貸しているに過ぎず、全てが最低。
それを象徴するのが不潔な狭い浴場で、「宿の価値を決定するのは風呂」とばかりに最初の夜から夫々の入浴場面を必ず配置しているのが興味深い。
最終日四日目の朝、岩美駅で例の女性を発見、21歳と言っていたが実がまだ高校生だったと判る。
内容としては、山下監督が影響を受けたか否かは知らないが、やはり「ストレンジャー・ザン・パラダイス」みたいなとぼけた現実味ということに尽きようか。
映像の感覚も優秀で、多様なサイズを駆使した固定ショットは構図が素晴らしく、たまに使われる移動撮影若しくはパンに生き生きした印象をもたらす。「天然コケッコー」や「松ケ根乱射事件」も感心したが、またまた惚れ込んだ。
残念なのは同時録音時にオフマイクが多くて聞き取りにくい台詞が多いこと。家で観る時は昼間大音量で観ることが肝要と言うべし(笑)。
2003年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり
3年くらい前からWOWOWで放映されていたが、今頃になって観たのは、僕の中で山下敦弘が俄然注目すべき監督に昇格したからだ。原作はつげ義春のコミック。
インディの青年映画監督・山本浩司と脚本家・長塚圭史が、共通の知人である俳優に誘われて、鳥取県の国英(くにふさ)駅で待ち合わせするが、言いだしっぺは寝坊して来られない。仕方なく二人は気ままに旅を始め、第一の宿を求める。
二人はよく知らない間柄なので漫談風の噛み合わない会話展開を見せるわけだが、この第一夜の可笑しさは格別。
時間潰しに釣りをしていると日本語がぺらぺらの白人に魚を買わされ宿に戻って来ると、男は宿の主人と判明。その夜「持ち込みはまずいだろう」と持ち込んだ酒を襖の向こうに隠す。危険が去ったと思い出してみるとボトルは殆ど空っぽになっている。という落語みたいな出来事が笑わせてくれるが、危険だと思って隠したはずの酒について主人に「飲みませんでしたか」と聞くのが何ともとぼけている。
明けて海岸で相変わらず噛み合わない会話をしていると、半裸の若い女性・尾野真千子が駆け寄り、「波にみんな浚われた」と仲間に加わり、二つ目の宿に泊まる。ここは至ってまともな宿で三人はこっそり混浴などしてみる。が、翌日バスを待っていると、彼女は別の方面へ行くバスに乗って去ってしまう。
こうしたとぼけた感覚は、ジム・ジャームッシュの出世作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」にそっくり。トリオの構成も男二人女一人と同じだ。
三日目の宿は一般の家になりかけるが、大家族で居心地が悪いので近くの格安宿を紹介してもらったものの、これまた民家が余った部屋を貸しているに過ぎず、全てが最低。
それを象徴するのが不潔な狭い浴場で、「宿の価値を決定するのは風呂」とばかりに最初の夜から夫々の入浴場面を必ず配置しているのが興味深い。
最終日四日目の朝、岩美駅で例の女性を発見、21歳と言っていたが実がまだ高校生だったと判る。
内容としては、山下監督が影響を受けたか否かは知らないが、やはり「ストレンジャー・ザン・パラダイス」みたいなとぼけた現実味ということに尽きようか。
映像の感覚も優秀で、多様なサイズを駆使した固定ショットは構図が素晴らしく、たまに使われる移動撮影若しくはパンに生き生きした印象をもたらす。「天然コケッコー」や「松ケ根乱射事件」も感心したが、またまた惚れ込んだ。
残念なのは同時録音時にオフマイクが多くて聞き取りにくい台詞が多いこと。家で観る時は昼間大音量で観ることが肝要と言うべし(笑)。
この記事へのコメント
いや~あそこには泊まりたくないですよね。(苦笑)
あとで思い出して思わず笑ってしまうのもわかります。
とぼけた感じ、たしかにジャームッシュっぽいところもあるけれど、
山下監督はもっととらえどころがないですね。(笑)
次はいったい何を撮る?という期待値の高い人です。
わたしはDVDで観たのですけど、多分字幕がなかったと記憶しています。こういうのは字幕つけてほしい。(観たのがずいぶん前なので違っていたらごめんなさい)
>次はいったい何を撮る?という期待値の高い人
僕の中でもそういう監督になりました。
いつも構図が素晴らしいので、それだけでも楽しみになっちゃう。
作る度に色々な顔を見せますが、本作は殆どジャームッシュを想像しておけば、近いですよね。^^
>字幕
やはり聞きにくかったですか。
DVDでは日本映画に日本語の字幕は付いていることもありますか?
日本映画は宮崎駿を結構持っていて、大体英語の字幕は付いていますね。
「千と千尋の神隠し」では音声が日本語とフランス語だけだったのにはがっかりしました。
日本語字幕つきの邦画は多くなってきましたね。
「ゆれる」はDVDは日本語字幕付きです。
シネコンでも封切はいつもどおりで、1週間くらいすると日本語字幕付きで上映する作品もあります。「それでも僕はやってない」とかね。
そういうものは当然ながらDVDでも同じ仕様になると思います。
古い映画にも日本語字幕ついてるとありがたいです。
小津さんのは全て字幕で観ますね。
日本語の音声を聞きながら日本語の字幕を読むと、ちょっと差があったりして面白いし、普通に見るよりしっかり台詞が頭に残って、わたしは好きです。宮崎アニメなら日本語字幕つけて欲しいところですよね。
こどもたちは字幕の難しい漢字でも結構映画で文脈補完できるからか、すんなり読めてしまうのですよ。漢字の勉強にもなるので日本のアニメ作品にはぜひ日本語字幕つけて欲しいです。
詳細な解説、どうも有難うございます。
映画館でもあるのですか。たまげましたねえ。時代は変わるものですねえ。^^;
20年くらい前「プラトーン」で字幕がワープロ打ちになったのを見て喜び、しかし、横書きで前の人の頭で見えなくなってがっかり・・・なんて話は、今の若い人には解らんでしょうね。
>日本語の音声を聞きながら日本語の字幕を読むと、ちょっと差
宮崎アニメの場合は、字幕と音声の英語は全く違いますね。
音声は当然原文にかなり忠実で、字幕はその英語ではなく所謂日本語版の対訳らしい(短いということ)。
>漢字の勉強
僕は殆ど収入にはならないですが、まがりなりにも英語の仕事をしているので、英語版の字幕は勉強になりますね。最近は何もできていないですが。^^;