映画評「プレステージ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年アメリカ=イギリス映画 監督クリストファー・ノーラン
重要なネタバレ多し、未見の方はご注意あれ。
「マジック・ボーイ」「タロットカード殺人事件」などマジックを絡めた作品は少なからずあるが、現在“イリュージョン”などと呼ばれて人気を博している大がかりなマジック自体をテーマにしたところに新味がある、クリストファー・ノーラン監督作品。
アメリカでは絶賛されているが我が邦ではそれほどでなく、メジャー映画雑誌のベスト10投票ではかすりもしていない。日本の映画評論家たちはここに至って時系列操作のまやかし的な部分に気付いたのかもしれない。
19世紀末ロンドン、魔術師クリスチャン・ベイルがライバル関係にある同業者ヒュー・ジャックマンを殺した罪で裁かれることになる。
ということで言わば“回想”に入っていくが、一番最初から順序だって展開しないのが21世紀流。登場人物の時間では寧ろ後半に当たるジャックマン渡米の場面が早めに登場、現実場面を交えて小出しに進められ、その間に二人の確執が始まる理由とその後の経緯が紹介されていく。
二人の修業時代にジャックマンの妻でマジシャンのアシスタントを務めるパイパー・ペラーボが“水中脱出”に失敗して水死する事件が発生、彼は手首を縛ったベイルを恨み、客に化けてプロフェッサーと名乗る魔術師になっていた仇敵の“銃弾つかみ”を失敗させて負傷させると、今度はベイルが同じ方法でジャックマンの手品を失敗させる。
かくして復讐のいたちごっことライバル関係が成立、ジャックマンはライバルの始めた瞬間移動を真似して見事に瞬間移動を行うが、相手のトリックを見極めようとして知り合ったアメリカの発明家デーヴィッド・ボウイー(実在の発明家ニコラ・テスラである)に特殊な装置の製作を依頼する。
ここから先はネタばれするかしないかによって書き方が相当変わるが、当時はまだ珍しかった電気を使うこの装置は100年前のSF小説みたいな面白い趣向であることくらいは述べても良いだろう。
どんでん返しは「どんでん返しがある」と言った段階でネタばらしになるという悩ましさがあるが、本作の場合は銀幕に目を凝らし台詞を洩らさずに聞いていれば賢明な読者におかれてはかなり早い段階で予想がつく範囲なので許して貰うとして、その見せ方に上手い印象があることだけは指摘しておきたい。時系列操作から倒叙もののような効果が現われているのも良い。
とは言え、小手先のイメージを作り上げる可能性のある時系列操作に頼らず通常の回想形式にし、ミステリー趣向を生かしつつ【執念】をテーマに心理ドラマとしての重みをもっと出せればより理想的ではあった。
僕は通常一回しか見ないので伏線や布石の多い作品は辛いものの、序盤に小鳥マジックの種明かしを置いたのは断然素晴らしい。作品全体の伏線を成すとともに、作品の悲劇ムードを早めに決定しているのである。
プロフェッサー・オカピーは弾丸つかみはできません。得意技は映画の大枠つかみ。
2006年アメリカ=イギリス映画 監督クリストファー・ノーラン
重要なネタバレ多し、未見の方はご注意あれ。
「マジック・ボーイ」「タロットカード殺人事件」などマジックを絡めた作品は少なからずあるが、現在“イリュージョン”などと呼ばれて人気を博している大がかりなマジック自体をテーマにしたところに新味がある、クリストファー・ノーラン監督作品。
アメリカでは絶賛されているが我が邦ではそれほどでなく、メジャー映画雑誌のベスト10投票ではかすりもしていない。日本の映画評論家たちはここに至って時系列操作のまやかし的な部分に気付いたのかもしれない。
19世紀末ロンドン、魔術師クリスチャン・ベイルがライバル関係にある同業者ヒュー・ジャックマンを殺した罪で裁かれることになる。
ということで言わば“回想”に入っていくが、一番最初から順序だって展開しないのが21世紀流。登場人物の時間では寧ろ後半に当たるジャックマン渡米の場面が早めに登場、現実場面を交えて小出しに進められ、その間に二人の確執が始まる理由とその後の経緯が紹介されていく。
二人の修業時代にジャックマンの妻でマジシャンのアシスタントを務めるパイパー・ペラーボが“水中脱出”に失敗して水死する事件が発生、彼は手首を縛ったベイルを恨み、客に化けてプロフェッサーと名乗る魔術師になっていた仇敵の“銃弾つかみ”を失敗させて負傷させると、今度はベイルが同じ方法でジャックマンの手品を失敗させる。
かくして復讐のいたちごっことライバル関係が成立、ジャックマンはライバルの始めた瞬間移動を真似して見事に瞬間移動を行うが、相手のトリックを見極めようとして知り合ったアメリカの発明家デーヴィッド・ボウイー(実在の発明家ニコラ・テスラである)に特殊な装置の製作を依頼する。
ここから先はネタばれするかしないかによって書き方が相当変わるが、当時はまだ珍しかった電気を使うこの装置は100年前のSF小説みたいな面白い趣向であることくらいは述べても良いだろう。
どんでん返しは「どんでん返しがある」と言った段階でネタばらしになるという悩ましさがあるが、本作の場合は銀幕に目を凝らし台詞を洩らさずに聞いていれば賢明な読者におかれてはかなり早い段階で予想がつく範囲なので許して貰うとして、その見せ方に上手い印象があることだけは指摘しておきたい。時系列操作から倒叙もののような効果が現われているのも良い。
とは言え、小手先のイメージを作り上げる可能性のある時系列操作に頼らず通常の回想形式にし、ミステリー趣向を生かしつつ【執念】をテーマに心理ドラマとしての重みをもっと出せればより理想的ではあった。
僕は通常一回しか見ないので伏線や布石の多い作品は辛いものの、序盤に小鳥マジックの種明かしを置いたのは断然素晴らしい。作品全体の伏線を成すとともに、作品の悲劇ムードを早めに決定しているのである。
プロフェッサー・オカピーは弾丸つかみはできません。得意技は映画の大枠つかみ。
この記事へのコメント
トム・ティクヴァは最近の
監督としては私買っておりますの♪
早い時期に時系列いじりをやって
いるのも二人に共通してるし。^^;
特にノーランは弟ジョナサンとの
共同脚本が非常に力強く巧みさが
見えます。
「フォロウィング」「メメント」
「インソムニア」「バットマンビギンズ」
本作とまずもって取りこぼしが無い。
来年あたり、きっとご覧になるはずの
「ダークナイト」はプロフェッサー、
ゴキゲンになるかも~^^
(私は素直に絶賛はできませんでしたが
近来稀に見る力作であったことは間違い
ありません!)
>ミステリー趣向を生かしつつ【執念】を
テーマに心理ドラマとしての重みを・・
これだけ絵的力量があるんですもの
ヘンにいじくらなくてもいいと
思うんですけどね~
>得意技は映画の大枠つかみ。
喜んでこねくり回っている(笑)最近の映画を
一度鑑賞でここまで把握できる総合判断能力は
素晴らしい才能ですわ!(敬服)
その真面目さを少し私に分けてちょ!
>トム・ティクヴァ
個人的に今年一気に株が上がりました。
>C・ノーラン
「メメント」は時系列操作をせざるを得ないお話しにした着想が抜群。
「フォロウィング」は主人公が見事にはめられるお話でしたが、「メメント」より個人的には買った記憶あり。
「バットマン」はティム・バートン版よりずっと良い。
仰る通り映像に力のある若手で、時系列操作に拘らなければ、そのうち本当の傑作を作りそうですね。まだ着想の面白さに留まっていると思います。勿論「ダークナイト」は解りませんが。
>ヘンにいじくらなくてもいい
何回も同じ映像を出すのも感心しなかったなあ。
>大枠つかみ
書くことがないので苦肉のジョークだったわけですが、お褒めにあずかり光栄です。日夜映画とは、映画評とは何かを考えてきた長年の努力が少しは報われているのでしょう。^^
>真面目さ
単に映画が好きなだけですよ。これほど最近の映画に文句を垂れつつ見続けている人間も少ないとは思いますが。
種明かしは随所にあったから、私はこれは心理ドラマとして観ていたんですけど、それが肩透かし的だったのが私には減点でした。
ノーラン監督って「メメント」とかデビュー作「フォロウイング」は時系列を逆行する演出が目立ったけれど、これはこれで好きなんですけどね。「フォロウイング」はおっ!って思いました。私も「メメント」よりもこちらの方が作品としては好きだな。
最新作「ダークナイト」なども極めてオーソドックスに時系列にそって徐々に作品をピークにまで盛り上げてましたね。脚本段階から関わり、脚本を重視している。これからも期待できるなって思う。
>種明かし
いや、逆に種明かしをしながら進行したので、心理ドラマとしては弱くなったのだろうと思いますよ。やはり基本はミステリーであるということを意識させますから。
個人的には楽しめたから良いわけですが、この作り方では1年経って振り返った時に印象が弱い作品だなと思って「心理ドラマ」云々というコメントになりました。
>「ダークナイト」
おおっ、期待できそうですね。
>時系列操作のまやかし的な部分に気付いた
そんなことはないと思いますよ。
本作の場合、>特殊な装置<が受け入れられなかっただけだと思います。
やはりそうですか。
日本の映画批評家は昔から優秀だと思ってきましたが、明治・大正時代生まれが殆どいない現在の批評家のレベルに呆れ果てているので、希望的観測を入れたつもりなんです。^^
僕は、特にこの類のお話に現実味は求めるのはそれこそ非現実的と思っていますが、世の中はリアリズム至上主義が蔓延していますね。
しかし、ジャンルを問わずにリアルさに拘るなど、余りに映画の観方が硬直的で不器用。何が面白くて映画を見ているのかと思いますよ。
私はこれを劇場で観ていたにも関わらず、途中で寝そうになっちゃったという痛い痛い思い出がございます…(-_-;)。そんなわけで、DVD再観賞時の記事をTBさせていただきますね。
時系列操作もいいのですが、あまり頻発するといささかげんなりするのも正直な気持ちでして(^^ゞ。ただ、今作の場合は、時系列移動が“映画全体の種明かし”の一端を担っているのだろうと思いますので、ややこしい操作を取り入れたのかなあ…と。
とはいえ、私もプロフェッサーと同じく、あれだけ執着のドロドロを前面に押し出すのであれば、いっそもっと心理ドラマとして本腰を入れて欲しかったなあとも思います。
ノーラン監督の「ダークナイト」は、アメコミヒーローというファンタジックなモチーフを用いて、非常にビジョナリーな内容の映画になっていたと思います。んが、手放しで絶賛はできまへんでした…。その辺りプロフェッサーがどう判断されるか、とっても楽しみです。
>本当の意味での“プレステージ”は、あの人だったのではないか…
あの人かもしれませんねえ。^^
>あまり頻発するといささかげんなりするのも正直な気持ちで
そんなところですね。
僕は元々批判することが多かったですが、長い間世間は高く評価する傾向がありましたなあ。「クラッシュ」なんてその典型なので世間ほど買えませんでしたし。
>時系列移動が“映画全体の種明かし”の一端を・・・
同感です。
必要性は感じますが、もう少しシンプルな時系列操作でも良かったかもしれませんね。
>「ダークナイト」
上映時間が152分ですか。長いなあ。
「バットマン・ビギンズ」は後半は楽しめましたが、続編はどうでしょうか。シュエットさんは楽しんだらしいです。
お互いの いざこざが エゴに凝り固まった対決でした。 まさにプレステージならぬ "オレ"ステージ
"自分だけの舞台"
天才マジシャンふたりのライバル対決も "電気"が関わってるだけに"熱い火花"を散らしています。デビッド・ボウイのテスラ役も驚きました
ヒュー・ジャックマン&クリスチャン・ベイル それぞれが演じた ライバル同士の天才マジシャン二人が
"あいつには負けたくねえオレが勝つ"の 対決姿勢は
実際にあった"エジソンVSテスラ"の電流対決とまったく同じである。
最後に 漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦さんが 映画「プレステージ」でも 上映時に荒木氏の書下ろしイラスト入りステッカー」が5万枚限定で配布されたそうです 荒木氏の「プレステージ」イラストのリンク先です
http://image.blog.livedoor.jp/poke777/imgs/c/a/ca2214c0.jpg
http://image.blog.livedoor.jp/poke777/imgs/3/3/3388963f.jpg
>"オレ"ステージ
言い得て妙ですね^^
>"熱い火花"
これまた巧いっ!
>"エジソンVSテスラ"の電流対決
案外、ここが本作の発想源だったのかもしれませんねえ。
>荒木飛呂彦さん
コミックには疎いのですが、なかなか良いですね。