映画評「1735km」

☆☆(4点/10点満点中)
2005年ベトナム映画 監督グエン・ギエム・ダン・トゥアン
ネタバレあり

NHKアジア・フィルム・フェスティバル参加作品。ベトナム映画についてはさほど経験がないが、本作を見る限りインドをはじめとする他の南アジア同様に音楽がストーリーをリードする歌謡映画的な傾向があるようである。

親に決められた相手との結婚が憂鬱な美人ズーン・イエン・ゴックが結婚について相談した祖母のいるハノイから実家のあるホーチミン市に向う長距離列車の中で磊落な若者ホー・カイン・チンに色々と世話を焼かれて有難迷惑を被り、食事にあたって中間地点のフエで降りたのが失敗、青年の時計が止まっていた為に乗り遅れ、お金もすられてしまって大弱り。
 そこで芸能人の妹のふりをして日本人(?)ファンのワンボックス・カーに便乗したり、山賊と勘違いする変てこな男の車に乗せて貰ったりした挙句に何とか伯父の家に辿り着く。

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その間に娘は青年のペースに巻き込まれその超俗的なムードに惹かれていくが、実は大学を首席で卒業しながらきちんとした未来設計をするのを嫌う青年は青年なりに悩みを抱え、やがて二人は各々の家に帰って自分自身と向き合うことになる。

序盤まずまずの感覚をしているかなと思えたものの、進行するに従ってだんだん東南アジア水準レベルの泥臭さが顔を出し、特に山男に刺されたのかと思ったら絵具が付いただけと判るギャグに至っては観ているこちらの顔が赤赤面してしまう。青年は絵を描いてはいたが鉛筆でのスケッチ専門で絵具など一度も出て来なかったのにここだけ出てくるというのも妙だ。

それでも旅が続いている間は背景の変化もあってなかなか楽しめるが、実家に戻ると煮え切らないシリアス・ムードに変わって退屈感が増してくる。

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前述したように歌謡映画的なムードも残っているので、全体としては1960年代の日本青春映画に通ずる感覚のところもあるが、これが青年が贔屓にしているクリーニング店の少女が書く物語として進行するところに若干の工夫が見られる。が、センスが古臭い上に場面を繋ぐ呼吸も悪いので洒落た感じにはならず余り感心はできない。

結局ズーン嬢は親の決めた結婚をせずに芸術家を目指す若者をバックアップする会社を設立、青年は建築家として独り立ちし、数年後飛行機の中でまた顔を突き合わすことになる。

作品のベースはベトナムで未だに支配的な考え方という親が決めた結婚への反発だが、一方で監督自身が「良い伝統は大事にしたい」と思っているらしいのでそれほど強い反骨精神は感じられない。使われる歌曲は非常に耳馴染みが良くて気に入りました。

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