映画評「バニー・レークは行方不明」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1965年イギリス映画 監督オットー・プレミンジャー
ネタバレあり
40年くらい前にキャロル・リンリーのファンになって以来色々な出演作を観たが、彼女の旧作は意外と見られず、代表作と思しき「マドリードで乾杯」や本作は未鑑賞のままだったので、今回のWOWOWの放映には欣喜雀躍、録画に失敗しないように慎重には慎重を期し、早速ご本体を仰いだ。
アメリカからロンドンにやってきたばかりのキャロルが4歳になる娘バニーを引き取りに預けた保育園に赴くが姿が見えない。用件を済ます為に引っ越し先に戻った後再び探すが結局見つからず、しかも周囲の者は誰もその存在の記憶がなく、やって来た警部ローレンス・オリヴィエも彼女の狂気を疑う。
ただ一人の味方である兄のケア・デュリアは色々と奔走してくれるが、新しい住居にも娘の存在を示すものがないので彼女の絶望感は増していく。そして、唯一存在証明となる人形を修繕屋に預けたことに気付いた彼女は夜にも拘わらず現場に直行する。
というお話は「バルカン超特急」共々「フライトプラン」のお話の元ネタとなった由だが、21世紀の映画らしくあやふやな主観描写を織り交ぜたことにより土台がふらふらになって失敗作に終ったあの作品よりはずっとしっかり作られている。必要以外の場所で主観ショットを使わないこの時代の映画の強みである。
前半は基本的にミステリーで、大家役のノエル・カワード御大などを交えずにもっとすっきり作って欲しいと思わせるものの、一通りの感興が湧く。しかし、ネタばらしが些か早すぎる。現在の映画ならネタばらしは早い方が良い結果をもたらす場合が多いが、客観描写を信用することができる1960年代の作品ということを考えれば、もう少しぎりぎりのところまでネタを伏せておいた方が楽しめたであろう。
(以下完全ネタばれ、左クリックしたままドラッグすれば読みやすくなります)
ネタというのは妹に寄せる兄の偏愛である。彼は妹を愛する余り狂気に陥って姪を抹殺しようとしたわけで、これが判ってからは映画は完全にサイコ・サスペンスに変わる。
兄は証拠となる人形を焼き妹を殴って入院させ、その隙に娘を殺してしまおうと考えているのだが、彼女は病院から抜け出して兄が姪殺しの準備をしている家に戻り、娘を連れ出そうとする。そこで観客はこの兄妹が過去にどんな奇妙な生活を送ってきたか知ることになる寸法で、狂気の入った兄はまるで幼児のようになってしまう。二人がかくれんぼやブランコで楽しむ部分は誠に気味が悪い。
しかし、ここで妹も狂気に陥っていると勘違いすべからず。言うまでもなく、周囲や官憲に狂気を疑われるヒロインが実際に異常者だったというお話だとしたらドラマツルギー的に可笑しなものになる。彼女は兄に付き合う為にそんな歪んだ生活を強いられてきただけであり、彼の逮捕によりその地獄から解放されるのである。
そこで疑問になるのが、最後の様子を見ると彼女は兄の異常を熟知していたのであるから、最初に兄を疑わないこと。疑えばお話が成り立たないので仕方がないのだが。
オカピーは無我夢中。
1965年イギリス映画 監督オットー・プレミンジャー
ネタバレあり
40年くらい前にキャロル・リンリーのファンになって以来色々な出演作を観たが、彼女の旧作は意外と見られず、代表作と思しき「マドリードで乾杯」や本作は未鑑賞のままだったので、今回のWOWOWの放映には欣喜雀躍、録画に失敗しないように慎重には慎重を期し、早速ご本体を仰いだ。
アメリカからロンドンにやってきたばかりのキャロルが4歳になる娘バニーを引き取りに預けた保育園に赴くが姿が見えない。用件を済ます為に引っ越し先に戻った後再び探すが結局見つからず、しかも周囲の者は誰もその存在の記憶がなく、やって来た警部ローレンス・オリヴィエも彼女の狂気を疑う。
ただ一人の味方である兄のケア・デュリアは色々と奔走してくれるが、新しい住居にも娘の存在を示すものがないので彼女の絶望感は増していく。そして、唯一存在証明となる人形を修繕屋に預けたことに気付いた彼女は夜にも拘わらず現場に直行する。
というお話は「バルカン超特急」共々「フライトプラン」のお話の元ネタとなった由だが、21世紀の映画らしくあやふやな主観描写を織り交ぜたことにより土台がふらふらになって失敗作に終ったあの作品よりはずっとしっかり作られている。必要以外の場所で主観ショットを使わないこの時代の映画の強みである。
前半は基本的にミステリーで、大家役のノエル・カワード御大などを交えずにもっとすっきり作って欲しいと思わせるものの、一通りの感興が湧く。しかし、ネタばらしが些か早すぎる。現在の映画ならネタばらしは早い方が良い結果をもたらす場合が多いが、客観描写を信用することができる1960年代の作品ということを考えれば、もう少しぎりぎりのところまでネタを伏せておいた方が楽しめたであろう。
(以下完全ネタばれ、左クリックしたままドラッグすれば読みやすくなります)
ネタというのは妹に寄せる兄の偏愛である。彼は妹を愛する余り狂気に陥って姪を抹殺しようとしたわけで、これが判ってからは映画は完全にサイコ・サスペンスに変わる。
兄は証拠となる人形を焼き妹を殴って入院させ、その隙に娘を殺してしまおうと考えているのだが、彼女は病院から抜け出して兄が姪殺しの準備をしている家に戻り、娘を連れ出そうとする。そこで観客はこの兄妹が過去にどんな奇妙な生活を送ってきたか知ることになる寸法で、狂気の入った兄はまるで幼児のようになってしまう。二人がかくれんぼやブランコで楽しむ部分は誠に気味が悪い。
しかし、ここで妹も狂気に陥っていると勘違いすべからず。言うまでもなく、周囲や官憲に狂気を疑われるヒロインが実際に異常者だったというお話だとしたらドラマツルギー的に可笑しなものになる。彼女は兄に付き合う為にそんな歪んだ生活を強いられてきただけであり、彼の逮捕によりその地獄から解放されるのである。
そこで疑問になるのが、最後の様子を見ると彼女は兄の異常を熟知していたのであるから、最初に兄を疑わないこと。疑えばお話が成り立たないので仕方がないのだが。
オカピーは無我夢中。
この記事へのコメント
私、モワモワした鼻風邪をひきまして
お布団から目だけ出して本作初鑑賞。
題名だけは知っていましたがいやに
チマチマしたなんも怖くないサイコ調
ドラマでしたね。
ニューハウス警視オリビエ氏も、なんか
怖いことしてくれるのかと期待しましたが
・・なんも・・でしたね。(--)^^
ケア・デュリア氏が一手にストレンジ君を
引き受けてらして(笑)
「2001年宇宙の旅」で有名に、でしたね。
「グッド・シェパード」で70歳の彼に
懐かしく出逢えました。
本作後にS・デニス、A・ヘイウッドと共演の
「女狐」にも。(原作ロレンスですから昨日の
レディ・チャタレーにつながります~)
>「マドリードで乾杯」
ウッシッシー、私、観たんですね~
残念ながらリンリー目当てではなく
A=マーグレットのファンでしたが。
ニコリっともしない本作のリンリーとは
別人のように生き生きとしてキュート
でしたよ~~♪
観たいでしょう~?プロフェッサー(笑)
ご自愛くださいませ。
僕はしょっちゅう軽い風邪をひいている(?)ので、大風邪は大して引きません。
小学校の時、高校の時、社会人になって二回、計四回かな。
最後の風邪は史上最悪で、二週間寝込んで体重も5kgくらい減りました。
この映画にコメントが届くとは思わなんだ(笑)。
ある意味先見性のある物語で、「フライトプラン」も一部拝借したようだし、リメイクも作られた由。
しかし、今のへなへな映像で観るなら、本作の方が宜しいでしょう。^^
>左ドラッグ
まあ寧ろ書きたいのは、その部分だったので。
でも、真っ白にしないのも意味深です。^^
>「グッド・シェパード」
観ました。
議員さん、つまり、アンジェリーナ・ジョリーの父親役でしたよね?
>「マドリードで乾杯」
そりゃ観たいですわ。
当時、多分、初恋の人の次に惚れ込んでたキャロルちゃんが出ているだけでも、まして青春模様している彼女は少ないので、作品出来栄えなどどうでも宜しい。^^;
ノエル・カワード、名前は聞いてましたが、あの大家さんを演じていたんですね。
ケア・デュリアも「2001年~」のほかに、こういう映画に出ていたとは。
ほんとに、キャロルさんの映画を見られただけでも、ありがたいですよね!
終盤は相当不気味ですよね。
キャロルちゃんの妹も兄への対応とは言え、堂に入ったもので、怖い!
>ノエル・カワード
寧ろ劇作家として有名(「逢引き」の原作・脚本)ですが、映画出演作も少なくありませんね。
しかし、意識して観たのは初めてでした。
>ケア・デュリア
本当に。あそこまでの活躍ですから、代表作ですね!
本人は忘れてくれと思っているかもしれません(笑)。
>キャロル
しかめっつらばかりではなく、もっと可愛い表情の彼女が観たいですけどね。^^
作品情報をグーグルで検索していたらオカピーさんのこの記事が。ちらっと読ませていただいたらアン役のキャロルさんはご贔屓なんですね。
彼女どこかフランス女優の雰囲気のある素敵な方。
もうすぐBSでこの監督の作品で「枢機卿」放映。出演してるんですね。観なければ。
最近のサスペンスの大袈裟ぶりに辟易している私には、とても新鮮だったわ。
最後のブランコのシーンは怖かった。
この映画の記事を書いている人は少ないから、検索エンジンでも比較的上位に行くのでしょうね。^^
>キャロル
可愛いです。もっと観たいです。
「枢機卿」はちーと長かったし、それほど出番がなかったような記憶もあるし、後で鑑賞する為に保存しておくべきか否か。それが問題です。
>最近のサスペンス
インチキ描写とそれに絡むどんでん返しばかりで辟易です。
この時代は客観描写に基本的にインチキはないから、素直に観られて良いですよね。「シックス・センス」以来少なくともサスペンス映画は作者と観客の場外乱闘と化してしまいましたよ。
「フライトプラン」はそれが悪い方に出た典型で、本作と「バルカン超特急」の併せた折角のアイデアなのに、みっともない出来栄えに終わってしまった。時代の不幸でもありますなあ。
バニーレークの字幕付をずっと探しておりました。
万一対応可能でしたらご連絡頂けたらこんな嬉しいことはないです。
movie☆mania☆cs@mail.goo.ne.jp (☆は除く)
不可の場合は返信は無用、サクッと削除でお願いします。
すでに他で2回断られていますが
微かな期待をいだきつつ、これにて失礼致します。<(_ _)>
CPRM対応DVDで保存してあるのですが、コピーしたところDVDプレーヤーでもパソコンでも上手く再生できませんでした。
残念です。
ご丁寧にレスありがとうございました。
コメントの方、削除しておいて頂けたら幸いです。
大変お邪魔致しました。<(_ _)>