映画評「チャプター27」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2006年カナダ=アメリカ映画 監督J・P・シェーファー
ネタバレあり
僕はビートルズ・ファンだから12月8日は、1980年以降真珠湾攻撃の日という以上にジョン・レノン殺害の日として記憶されることになった。
本作は殺害犯マーク・チャップマンの決行に至るまでの三日間の心情を綴るドラマである。
1980年12月6日ニューヨークの町に降り立ったマーク・チャップマン(ジャレッド・レトー)はその足でジョン・レノンの暮らす古いアパート、ダコタ・ハウスの前へ行き、レノン・ファンの女性二名と会話をし、そのうちの一人ジュード(リンジー・ローハン)と意気投合する。
この映画の解釈では、ドラッグストアで買った雑誌に掲載されたジョンの言葉「ビートルズの再結成を希望するまぬけ共」が殺害への最初の引き金になっているようで、そこから「イマジン」の財産否定の文言(Imagine no possessions)など嘘っぱち、レノンはインチキ野郎だという思いに駆り立てられる。愛読書であるサリンジャーの小説「ライ麦畑でつかまえて」で主人公ホールデン・コールフィールドの言葉に強く影響されたものである(この有名な小説を僕は未だに読んでいないが、本作の題名から推測するに【第26章】まであるのじゃないだろうか?)。
尤も、拳銃を携行しているのを見れば最初から殺意を持ってやって来たのも確かで、色々な偶然が重なってその目的が実行に移されたという仮説を取る立場と理解できる。例えば、ダコタ・ハウスで「ローズマリーの赤ちゃん」が撮影され、同作を作った監督ロマン・ポランスキーの妻シャロン・テイトがビートルズの「ヘルター・スケルター」に影響を受けたチャールズ・マンソンに殺されたことを知るのも彼にとっては自分への教唆のように思えてくるのだ。実は偶然に過ぎないが、強迫観念に苛まれるチャップマンにはそんな判断はできない。
その一方で、彼は誰かに犯行を止めて貰いたいのでジュードに「一緒に(ジョンを)待とうよ」と頼んだり、夕方サインを貰った後にカメラマンに「今度は僕が写真を撮るよ」と話しかける屈折した心境が浮かび上がってくるのは、ファンとしては憎き野郎ではあるが、映画として観る分には大変面白い。
「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」という似た趣向の作品があるが、チャップマンの回想による文言とその場面における内面モノローグが渾然一体となって進行する分だけ、その内面が我々にじかに迫ってくるという点で本作のほうが興味深く観られる可能性が高い。
何より一番驚いたのはジョン・レノンを演じた役者の名前がマーク(・リンジー)・チャップマンだったことである。余り似ていないところを見ると、名前でキャスティングしたのではないかという馬鹿な考えさえ浮かんでくる。
サブタイトルは「ホールデン・コールフィールドになりたかった男」に決定!
2006年カナダ=アメリカ映画 監督J・P・シェーファー
ネタバレあり
僕はビートルズ・ファンだから12月8日は、1980年以降真珠湾攻撃の日という以上にジョン・レノン殺害の日として記憶されることになった。
本作は殺害犯マーク・チャップマンの決行に至るまでの三日間の心情を綴るドラマである。
1980年12月6日ニューヨークの町に降り立ったマーク・チャップマン(ジャレッド・レトー)はその足でジョン・レノンの暮らす古いアパート、ダコタ・ハウスの前へ行き、レノン・ファンの女性二名と会話をし、そのうちの一人ジュード(リンジー・ローハン)と意気投合する。
この映画の解釈では、ドラッグストアで買った雑誌に掲載されたジョンの言葉「ビートルズの再結成を希望するまぬけ共」が殺害への最初の引き金になっているようで、そこから「イマジン」の財産否定の文言(Imagine no possessions)など嘘っぱち、レノンはインチキ野郎だという思いに駆り立てられる。愛読書であるサリンジャーの小説「ライ麦畑でつかまえて」で主人公ホールデン・コールフィールドの言葉に強く影響されたものである(この有名な小説を僕は未だに読んでいないが、本作の題名から推測するに【第26章】まであるのじゃないだろうか?)。
尤も、拳銃を携行しているのを見れば最初から殺意を持ってやって来たのも確かで、色々な偶然が重なってその目的が実行に移されたという仮説を取る立場と理解できる。例えば、ダコタ・ハウスで「ローズマリーの赤ちゃん」が撮影され、同作を作った監督ロマン・ポランスキーの妻シャロン・テイトがビートルズの「ヘルター・スケルター」に影響を受けたチャールズ・マンソンに殺されたことを知るのも彼にとっては自分への教唆のように思えてくるのだ。実は偶然に過ぎないが、強迫観念に苛まれるチャップマンにはそんな判断はできない。
その一方で、彼は誰かに犯行を止めて貰いたいのでジュードに「一緒に(ジョンを)待とうよ」と頼んだり、夕方サインを貰った後にカメラマンに「今度は僕が写真を撮るよ」と話しかける屈折した心境が浮かび上がってくるのは、ファンとしては憎き野郎ではあるが、映画として観る分には大変面白い。
「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」という似た趣向の作品があるが、チャップマンの回想による文言とその場面における内面モノローグが渾然一体となって進行する分だけ、その内面が我々にじかに迫ってくるという点で本作のほうが興味深く観られる可能性が高い。
何より一番驚いたのはジョン・レノンを演じた役者の名前がマーク(・リンジー)・チャップマンだったことである。余り似ていないところを見ると、名前でキャスティングしたのではないかという馬鹿な考えさえ浮かんでくる。
サブタイトルは「ホールデン・コールフィールドになりたかった男」に決定!
この記事へのコメント
真珠湾攻撃とジョン・レノン殺害事件なんですけど、今年の12月8日はどのメディアも取り上げない寂しさ・・・どうなっちゃったんでしょ?
まさか田母神論文問題が影響してるわけじゃないだろうな・・・と疑ってしまいました(笑)
>誰かに犯行を止めて貰いたい
この辺の描写に同情のようなものが感じられ、冷めた目でしか見れませんだした。
>映画として観る分には大変面白い
映画(半分フィクション)と割り切って観るべきなのでしょうね。
>この有名な小説を僕は未だに読んでいないが、本作の題名から推測するに【第26章】まであるのじゃないだろうか?
はいっ正解です。26章までで終わっています。
でもこう言うと世の中にあまたいらっしゃる「ライ麦信者」の方達に怒られそうですが、読まないままで時間が流れても、特に支障の無い小説のような気がします。
10代の終りに読みましたが、なんだかピンと来なくて、同じように「裏青春期小説の代表」的に取り上げらがちな、コクトーの「恐るべき子供たち」の方が、まだ興味深かった気がします。
>誰かに犯行を止めて貰いたい
映画を未見なので、ズレたコメントになっていたらごめんなさい。
このくだりは「ライ麦畑」の主人公が、自分はライ麦畑を走っていて崖っぷちで落っこちそうになる子供を捕まえてあげる役になりたい、と語りながら、実は自分自身が不安定な自分を誰かに捕まえてほしい・・・と願っていたように見えるエピソードからインスパイアされた描写でしょうか。
>wowow
当たり前と言えば当たり前ですが、粋な計らいでしたね。
>田母神論文問題
まさかそんなことはないでしょうけど(笑)。
そう言えば、あの懸賞の主催者はアパ・グループでしょ?
石川県の友だちの家に遊びに行く時はいつもアパ・ホテルに泊まっていたのに、何だかけしからん。
僕はhashさんよりは面白く観たようですが、全ての劇映画は実話をベースにしても創作的部分が相当あるのですから、実際がこの通りであったと思う必要はないですし、チャップマンを主人公にするのはけしからんとか、「ユナイテッド93」の時のように映画化は時期尚早とか、といった意見に僕は感心しないわけです。
という次第で、本作も<大体事実>程度に観ました。^^
結局人間の心の闇など解るわけもないです。
>はいっ正解です。26章までで終わっています。
やはり!
>読まないままで時間が流れても、特に支障の無い小説のような・・・
一応古今東西古典文学制覇が目標なので、いつかは読むだろうとは思います。
戦前までの東西の古典は大体読んでしまったので、これからは戦後が主なターゲットになるかもしれません。近年のものには手を付けないでしょうが。
>コクトーの「恐るべき子供たち」
うわっ、これも読んでましぇん。映画版は観ました。
コクトーは詩集だけ。
>願っていたように見えるエピソードからインスパイアされた描写でしょうか。
恐らく。
麦畑のショットが時々挿入されていましたし。