映画評「オフサイド・ガールズ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年イラン映画 監督ジャファル・パナヒ
ネタバレあり
アッバス・キアロスタミの「友だちのうちはどこ?」以来イラン映画に対し僕が持つ印象は、目標に向かって一生懸命に突き進む登場人物を描いた作品が圧倒的に多いということである。
キアロスタミの助監督だったジャファル・パナヒもその傾向があり、日本初登場作「白い風船」は金魚を買うのに懸命な少女を描いた佳作だったし、今回も全くその路線。しかし、今回は面白いアングルからイラン社会の一面を捉える風刺的な要素もある。
サッカー・ワールド杯2006年ドイツ大会への最終予選が行われた2005年6月、一人の男装の少女がテヘランのアサディ・スタジアムを目指すが、女性の現場でのスポーツ観戦が禁じられている妙な法律の為に捕えられ、スタジアム上部に仮設されている柵の中に押入れられてしまう。そこには最終的に5人の女性たちが収容される(後でさらに1人追加)。
ゲーム後半が開始されて間もなく隊長と護送車が到着、火薬所持の少年たちと共に運ばれていくが、途中で立ち寄った店のTVを観てから護送の兵士たちの態度も変わってラジオを聴かせてくれ、母国はバーレーンに勝利してW杯出場を決める。やがて浮かれるテヘランの雑踏に車が停められ、兵隊たちも少女たちもその中に消えて行く。
単純な構成で描写も素朴だが、母国を愛しサッカーを愛することに男女の違いはない、と監督はイランの男女差別を揶揄する。
兵士たちも「男性のヤジや卑猥な落書きを女性が見聞きするからだ」と女性擁護を建前にしながら何故女性がスポーツ観戦をしてはいけないか正確な理由は解っていない。彼らが彼女たちを押し留めるのは隊長の命令を守って早く兵役から解放されるのを願っているからで、そんな哀れさえ催させる兵士と何とか試合を観戦したい女性たちの珍妙なやり取りやトイレでの騒動など素朴な描写の中に醸成されるそこはかとないユーモアが秀逸。一生懸命な者同士の衝突による可笑しさと言うべきか。
しかし、監督の態度にそうした余裕があるのは、原理主義的で相当馬鹿らしい戒律や法律がまかり通っている一方で、これまで公開された作品から判断する限り、イランでは他イスラム諸国に比べて女性の社会進出がかなり進んでいて男女間の温度差が比較的近いという現実があるからであろう。本作に出てくる女性たちも男性(兵士)に対しかなり強い調子で食ってかかっている。
イスラム原理主義のアフガニスタン・タリバンは女性の就学、就職を禁じていて、夫や父親や兄弟がいない家では生きることもままならない、という現実を教えてくれたのはアフガニスタン映画の秀作「アフガン零年」。僕の勘違いなら申し訳ないが、中近東諸国が近代以降西側に遅れ、依然遅れている原因は宗教的な理由で人口の半分を占める女性の能力が生かされていないからであろう。
実際に予選が行われている現場で半ば即興的に撮影されたものらしい。ヒッチコックの「ロープ」よろしく試合の進行とともに徐々に周囲が暗くなって来る辺り臨場感が抜群。
兵士たちにしてみれば、イエローカード・ガールズじゃろ。
2006年イラン映画 監督ジャファル・パナヒ
ネタバレあり
アッバス・キアロスタミの「友だちのうちはどこ?」以来イラン映画に対し僕が持つ印象は、目標に向かって一生懸命に突き進む登場人物を描いた作品が圧倒的に多いということである。
キアロスタミの助監督だったジャファル・パナヒもその傾向があり、日本初登場作「白い風船」は金魚を買うのに懸命な少女を描いた佳作だったし、今回も全くその路線。しかし、今回は面白いアングルからイラン社会の一面を捉える風刺的な要素もある。
サッカー・ワールド杯2006年ドイツ大会への最終予選が行われた2005年6月、一人の男装の少女がテヘランのアサディ・スタジアムを目指すが、女性の現場でのスポーツ観戦が禁じられている妙な法律の為に捕えられ、スタジアム上部に仮設されている柵の中に押入れられてしまう。そこには最終的に5人の女性たちが収容される(後でさらに1人追加)。
ゲーム後半が開始されて間もなく隊長と護送車が到着、火薬所持の少年たちと共に運ばれていくが、途中で立ち寄った店のTVを観てから護送の兵士たちの態度も変わってラジオを聴かせてくれ、母国はバーレーンに勝利してW杯出場を決める。やがて浮かれるテヘランの雑踏に車が停められ、兵隊たちも少女たちもその中に消えて行く。
単純な構成で描写も素朴だが、母国を愛しサッカーを愛することに男女の違いはない、と監督はイランの男女差別を揶揄する。
兵士たちも「男性のヤジや卑猥な落書きを女性が見聞きするからだ」と女性擁護を建前にしながら何故女性がスポーツ観戦をしてはいけないか正確な理由は解っていない。彼らが彼女たちを押し留めるのは隊長の命令を守って早く兵役から解放されるのを願っているからで、そんな哀れさえ催させる兵士と何とか試合を観戦したい女性たちの珍妙なやり取りやトイレでの騒動など素朴な描写の中に醸成されるそこはかとないユーモアが秀逸。一生懸命な者同士の衝突による可笑しさと言うべきか。
しかし、監督の態度にそうした余裕があるのは、原理主義的で相当馬鹿らしい戒律や法律がまかり通っている一方で、これまで公開された作品から判断する限り、イランでは他イスラム諸国に比べて女性の社会進出がかなり進んでいて男女間の温度差が比較的近いという現実があるからであろう。本作に出てくる女性たちも男性(兵士)に対しかなり強い調子で食ってかかっている。
イスラム原理主義のアフガニスタン・タリバンは女性の就学、就職を禁じていて、夫や父親や兄弟がいない家では生きることもままならない、という現実を教えてくれたのはアフガニスタン映画の秀作「アフガン零年」。僕の勘違いなら申し訳ないが、中近東諸国が近代以降西側に遅れ、依然遅れている原因は宗教的な理由で人口の半分を占める女性の能力が生かされていないからであろう。
実際に予選が行われている現場で半ば即興的に撮影されたものらしい。ヒッチコックの「ロープ」よろしく試合の進行とともに徐々に周囲が暗くなって来る辺り臨場感が抜群。
兵士たちにしてみれば、イエローカード・ガールズじゃろ。



この記事へのコメント
イランというのは、一度近代化を走ったことがありますからね。イスラム原理主義が現在は表面に出ていますが、一回経験したことは、民衆は手離しませんからね。
そうですね。
ホメイニ姉が出る前に近代化が進み、女性が大学へ行ったり、近代的企業にきちんと就職できるのはその名残りなんでしょうね。
服装に関しても他国ほどはうるさくなさそうですね。
反動が反動を生む繰返しをイランはしているようですが、とにかくわが隣国のごとくあまり物騒なことだけはしてほしくないなあ。
イランは良い映画を生む素地がありますかね。
これ、可愛い作品だと思いました。
思いつめてる感じの少女の本意が最後にわかるのもうまいと思いました。
わたしはこの監督とは相性がよいようでほかに「白い風船」も「チャドルと生きる」も観てます。
イラン映画はやっぱり夏になると観たくなるかな?
冬はやっぱり寒い地方の映画が観たくなりますね。(笑)
ここに出てくる女性たち、みな可愛い!男みたいな格好の人でさえ、そう思った!
>イランは良い映画を生む素地がありますかね。
女性監督マルジャン・サトラピの「ペルセポリス」アニメですが、なかなかよかったですよ。もうそろそろBSあたりでお目見えするのではないでしょうか?
キアロスタミ路線ばっかりじゃつまんないですもんね。
かといってマフマルバフ一家みたいに硬派で難解なのばかりも息苦しいし。
女性から描く新しいイラン映画に期待します。
>「白い風船」
僕もこの作品は秀作だと思いました。
キアロスタミ同様感情移入させるのが巧みで、主人公と一緒に行動しているような気持ちにさせてくれますよね。
「チャドルと生きる」・・・タイトルは知っていれども未見。
こういうのはNHKが期待できそう。
>「ペルセポリス」
最近WOWOWさん、ミニシアター系の手抜きが目立つんですよね。
以前そちらで記事をお見かけしました。^^
イランは服装や女性の社会進出に関しては他国より解放(開放?)的と思われますが、原理主義的で馬鹿らしい法律も多いようですね。
その辺りのギャップが再び近代化の波を生むか、という期待もありますが、さてどうなることでしょうか?