映画評「ONCE ダブリンの街角で」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2006年アイルランド映画 監督ジョン・カーニー
ネタバレあり
映画には色々なタイプがある。じっくり物語で見せる作品もあれば、詩情やムードで魅せる作品もある。本作は後者のタイプだから、物語性という定規で評価しても何の意味もない。走り幅跳びをストップウォッチで計測するようなものである。
ダブリンの街角に立つストリート・ミュージシャンのグレン・ハンサードが、花を売るなどして母親と生まれたばかりの娘を養っているチェコ移民の女性マルケタ・イルグロヴァに気に入られて意気投合、故郷でピアノを習っていたという彼女と楽器店で彼の自作曲を演奏、素晴らしいハーモニーを生み出す。
そこで二人はなけなしの金でスタジオを借りてCDを完成させるが、恋人と別れた傷心を抱えた彼とチェコに残してきた夫との仲に悩む彼女でも、人生のハーモニーはそう簡単に醸し出されない。彼女がダブリンに来ることになった夫とやり直すことにしたので、青年は独り昔の恋人のいるロンドンへ引っ越して本格的に音楽シーンに出ることを目指す。
という物語はあるにはあるが、描写は手持ちカメラによりスケッチ風に推移、そこに主演の二人が作ったフォーク・ロック調の音楽が被せられ素晴らしいムードを醸成し、画面が詩情に満たされていく。彼女が掃除機を引きずりながら街を歩くショットも大変微笑ましい。
そして何よりも全編を彩る歌曲の素晴らしさ。歌詞は物語に即して情感がこもり、曲はケルトの香りが漂いメロディアスで親しみやすい。キャット・スティーヴンスに似た感じであるが、フォークロックの実力派フェアポート・コンヴェンションも思い出した。今年の音楽賞は本作で決まり。
2006年アイルランド映画 監督ジョン・カーニー
ネタバレあり
映画には色々なタイプがある。じっくり物語で見せる作品もあれば、詩情やムードで魅せる作品もある。本作は後者のタイプだから、物語性という定規で評価しても何の意味もない。走り幅跳びをストップウォッチで計測するようなものである。
ダブリンの街角に立つストリート・ミュージシャンのグレン・ハンサードが、花を売るなどして母親と生まれたばかりの娘を養っているチェコ移民の女性マルケタ・イルグロヴァに気に入られて意気投合、故郷でピアノを習っていたという彼女と楽器店で彼の自作曲を演奏、素晴らしいハーモニーを生み出す。
そこで二人はなけなしの金でスタジオを借りてCDを完成させるが、恋人と別れた傷心を抱えた彼とチェコに残してきた夫との仲に悩む彼女でも、人生のハーモニーはそう簡単に醸し出されない。彼女がダブリンに来ることになった夫とやり直すことにしたので、青年は独り昔の恋人のいるロンドンへ引っ越して本格的に音楽シーンに出ることを目指す。
という物語はあるにはあるが、描写は手持ちカメラによりスケッチ風に推移、そこに主演の二人が作ったフォーク・ロック調の音楽が被せられ素晴らしいムードを醸成し、画面が詩情に満たされていく。彼女が掃除機を引きずりながら街を歩くショットも大変微笑ましい。
そして何よりも全編を彩る歌曲の素晴らしさ。歌詞は物語に即して情感がこもり、曲はケルトの香りが漂いメロディアスで親しみやすい。キャット・スティーヴンスに似た感じであるが、フォークロックの実力派フェアポート・コンヴェンションも思い出した。今年の音楽賞は本作で決まり。
この記事へのコメント
私はご存知の通り、無類の音楽好きですので、昨年の今頃、映画館で速攻で観に行きました。
昨年まではこの映画が私にとって「歴代音楽映画ナンバー1」だったんですが、今年「アクロス・ザ・ユニバース」を観てしまったら、あっさり1位は後者に変わってしまいましたが 笑
それはさておき、この映画は私も☆4つ献上です。
いい具合の「切なさ」がありながら、「感傷的」でないところが高ポイントかと思います。おそらく同じようなテーマで日本で撮ったら、妙に湿度の高い感傷的なタッチになりそうですし、逆に米映画だったら無意味にドラマティック(過ぎる)演出になりそうですからね。
余談ですが、この映画の音楽をもし気に入られたらパオロ・ヌティーニ(Paolo Nutini)というアーティストの歌がオススメですよ。すごく世界観が似ていると思います。
>「歴代音楽映画ナンバー1」だったんです
ミュージカル以外の音楽映画というジャンルがあるとすれば、僕も相当上に置きたい作品になりますね。
>「アクロス・ザ・ユニバース」
ビートルズ・ファンなので楽しみにしておるんですよ。
>「切なさ」がありながら、「感傷的」でない
ビンゴでございます。
日本映画なら藤田敏八の青春映画(「妹」「赤ちょうちん」など)みたいになっちゃう。
>パオロ・ヌティーニ
ほーっ、イタリア系ですね。
イタリア系でもこういうケルト系のような世界を表現しますか。
一兆の価値ありそうですね。
本作のサントラが欲しいですが、映画をDVDに保存して聞いても良いな。
「アクロス・ザ・ユニバース」は間違いなく、ビートルズファンのオカピーさんの心をワシ掴みにしてくれる作品ですので、乞うご期待です!
>日本映画なら藤田敏八の青春映画(「妹」「赤ちょうちん」など)みたいになっちゃう。
あ、まさにそんな感じです 笑
パオロ・ニティーニは名前はイタリア系なんですが、スコットランド人の21歳の新鋭なんですよ。
ラテン顔の美形でヴィスコンティ映画にでも出てきそうなルックスですが、歌は顔に似合わない、ものすごいしわがれハスキーヴォイスで渋過ぎるレトロな音楽を聴かせてくれます。
フェアポート・コンヴェンションをYouTubeでチェックしましたが、曲調は近いと思います。本人が影響を受けた音楽としてスコットランド・フォークを挙げていたので納得ですよね。
YouTubeから一応、貼ってみますが支障あったら、ここは削除してしまって下さいね。
→ http://jp.youtube.com/watch?v=ffJ8xcfqOX0
ではでは、来年も引き続きよろしくお願いします!
>パオロ・ヌティーニ
血筋より環境ということですか。^^
早速紹介されたYouTubeで聴いてみましたが、なるほど本作の楽曲に通ずるムードですね。
最近は新しいアーティストも楽曲も聴かないので、全く知りませんでしたよ。
こちらこそ来年も宜しくお願い致します。
あ、私も「アクロス・ザ・ユニバース」は去年のベスト1です。3回観ましたし!
(今年は「マンマ・ミーア!」が、すでに、かなり上位!)
と余談ですが…やっぱり音楽がいい映画は、いいですね。好みです。
さりげなさもよかったですし。ダブリンって、こんなふう、というのも分かって。
onceはniceな映画でした!
>「アクロス・ザ・ユニバース」
ボーさんの音楽の趣味はよく存じ上げないのですが、ふーむ、ビートルズがお好きですか。
チャンスがあればそちらのお話もしましょうか。
>「マンマ・ミーア」
こちらはABBAですね。
大学時代に大人気だったなあ。
で、肝心の本作ですが、音楽に尽きると思います。
しかし、スケッチ風に力の抜けたタッチも実はなかなかだったのではないでしょうか。
英国系やケルト人の映画作りは良い意味で押しが強くなく、僕は昔から割合好きです。
この映画は、爽やかなそよ風が吹き渡るような素敵な余韻の映画。
アカデミー受賞会場でも映画の雰囲気のまんまの2人だったのがともて好感持てました。オスカー取ったとき、自主制作で頑張ってる仲間たちにとってこのオスカーはとても励みだってスピーチしてました。今も頑張って音楽活動してるんでしょうね。
>気持玉
それはご苦労様でした。
で、また押してくれたのですか?
「ガッツ」が押されていますが、それなのかなあ。
>爽やかなそよ風
まさにそれですよ。
>オスカー
そうでしょうとも。
メジャー志向のオスカーだけに、インディに賞が行くのは大変価値があることです。
>走り幅跳びをストップウォッチで計測するようなものである
レイヤーのかみ合わない議論の時にこの言葉、使わせてもらいます(笑)。
気に入って戴けましたか。
好きな映画には甘く嫌いな作品には極端に厳しい評価をする人に限って、使う定規が違うことが多いものですから、こういう表現を考えてみました。