映画評「オメガマン」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1971年アメリカ映画 監督ボリス・セイガル
ネタバレあり

激突!」の脚本を書いた才人リチャード・マシスンのSF小説「アイ・アム・レジェンド」二度目の映画化で、三度目の映画化に合せて放映された。20年ぶりの再鑑賞だが、最近は「地球最後の男 オメガマン」というサブタイトル付きで紹介されることが多い。

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舞台は1977年のロサンゼルス、既に31年も前となってしまった当時の近未来である。2年前の中ソ細菌戦争の結果、人類がほぼ絶滅した中で自ら開発した血清によりただ一人まともな人類として生き残った科学者チャールトン・ヘストンは銃を持って閑散とした街を彷徨している。
 カメラが急激な引きと寄りを繰り返し、荒涼としたロサンゼルスを強烈に印象付ける。本作の一番優れている部分と言って良い。

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彼が銃を持つのは、細菌の影響で色素を失って明かりに弱くなった黒マント姿の新人類一派が現代文明を全て駆逐しようと夜な夜な彼を攻撃してくるからである。
 この二つの関係が変わるのが何故か生き残っていた若い黒人女性ロザリンド・キャッシュと白人少年ポール・コスロの出現で、一味に裁かれかけたところを彼らに救われるのだが、ドジャーズ・スタジアムの通路と観客席を舞台にヘストンがオートバイで疾駆する一連のアクションが本作最大の見せ場。
 とは言ってもCG時代の映像に見慣れた人には甚だ物足りないだろうが、僕はCGでどんなに凄いアクションが見られても実写の中では絵にしか見えず、実際の人間が飛んだり跳ねたりする場面の方に迫力を感じる。この作品のバイク・アクションは当時としてもスーパーではないが、昨今の映画にはない実写を見る楽しみに満ちている。

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若い人が<お笑い>とまで馬鹿にするロザリンドがマネキンの中に紛れる場面もなかなか宜しい。【大勢の中の類似する一つの異質物】というアイデアはヒッチコックが「海外特派員」で生みだした偉大なる発明品である。最近では「アイ、ロボット」がこのアイデアを用いて印象的だった。

しかし、喜んでいられるのもこの辺りまで。生き残った若者グループと彼の家の間を往来する場面が目立ってだらだらしてくるのである。ヘストンが自らの血を作って助けてやったロザリンドの弟が青臭い考えを発揮して自滅したり、発病した彼女が黒マント族を邸内に引き入れてピンチに陥ったりする展開もパッとしない。

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原作に既にあったアイデアなのか判然としないのだが、少女が「あの人は神なの?」とロザリンドに訊いたり、ヘストンの死体が磔のキリストを思わせる(上の画像参照)ところを見ると、内容は主人公をキリストに見立てた宗教寓話と言って良いだろう。黒マント族はパリサイ人か。ただ、全米ライフル協会の会長になってからのヘストンの言動を知っていると、素直に観られないのは皮肉でござる。

「ベン・ハー」以来ヘストンはキリストになりたかったのに違いない。

この記事へのコメント

2009年01月04日 01:01
明けましておめでとうございます。
今年も映画評を楽しみにしております。

「アイ・アム・レジェンド」よりは、感染者の描写が愉快な分、楽しめました。
今年もリメイクものが多そうですね。
オカピー
2009年01月04日 04:01
hashさん、明けましておめでとうございます。

>映画評
こんなものでも良ければ、お付き合いください。

>感染者の描写
地底人が出てくる「続・猿の惑星」のパロディー的な色彩があったのかもしれません。

>リメイク
シリーズものと併せて、かなり迷惑です。^^;

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