映画評「アイ・アム・レジェンド」
☆☆★(5点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督フランシス・ローレンス
ネタバレあり
リチャード・マシスンのSF小説「アイ・アム・レジェンド」三度目の映画化。一度目は未鑑賞の「地球最後の男」、二度目の映画化は前日再鑑賞した「オメガマン」。
「オメガマン」では製作の6年後の1977年ロサンゼルスが舞台だったが、本作では製作5年後の2012年ニューヨークが舞台。しかも明日から始まる2009年が全ての発端となっている。近未来なんてレベルじゃないですな。
ある女性病理学者が【はしかウィルス】を応用し開発したガン治療薬が猛威を奮ってたちまち全世界が絶滅状態になった中、ただ一人生き残っているらしい元軍所属医師ウィル・スミスは日夜血清を開発して実験を繰り返す一方、同じような生存者がいないか探し回っている。夜になると固く屋敷をガードするのは、凶暴ながら紫外線に弱い為に夜しか活動できない超人に突然変異した感染者たちから身を守る為である。
世間では“ゾンビ”と言われているが、彼らが狭義のゾンビ(生き返った死体)でないことは言うまでもなく、広義のゾンビ(他を襲撃することで生き永らえると同時に感染を広げていくタイプ)とも言いにくい。何となれば・・・
主人公の説明によれば、60億人(正確には2008年現在66億人)の人類のうち54億人が死に、生き残っている6億人の人類のうち1200万人が正常人。1%の免疫率が何を指すのか不明だが、残った人類の1%と考えるのが一般的。この説に従えば正常人のうち半数は非感染者となるが、「アメリカ住民は全て感染済みであり、生き残った正常人は全て免疫者」と僕は理解している。但し、これから発症する可能性は無きにしも非ず。とにかく、アメリカ人に関してはこれ以上の感染はない。
そして、5億8800万人が死ぬ代わりに変異を遂げた人類。食料への渇望で知力は後退しているが、主人公を罠にかけるだけの知恵はある。つまり肉体は生物学上の生命体を維持しているので、彼らは変異体(ミュータント)と言うべきである。さらに意味を押し広げれば彼らもゾンビだが、それを言うなら狂犬病もゾンビとして扱わなければならない。
何故こんなことを言い出したのかと言えば「何故死んだのが人間より強いのか」という大いなる誤解を目にしたからだ。僕も細かなミスは始終していると思うが、ここは基礎の部分なので間違ってはお話にならない。かかる誤解を招かないように風体を未来的にするなどの工夫があっても良かったであろう。ああいう小汚い格好ではどうしてももゾンビ=蘇った死人と思いがちである。
それはともかく、この原作の設定は彼が一人で行動する場面が半分を占める為(本作では犬と行動をしているが)に変化に乏しい。対峙するものがあって初めてドラマ性、サスペンス性は生じるわけで、いくら無人化した巨大都市にゾッとすることはあってもそれだけではなかなか興味が持続せず、作り方が意外と観念的である為にその単調さに拍車をかけてしまう。
例えばスミスがミュータント集団に襲われた時に息子を連れたブラジル人女性アリス・ブラガにどう助けられたか具体性を欠いて全く解らない。結局神の導きを信じて彼は敵諸共に自爆して果て、後を託された彼女が自ら信じた正常人のコロニーに行き着く、という宗教的な展開にふさわしいと言えばそれまでだが。
「地球最後の男」が今年最後の記事となりました。皆さま、良いお年を。
2007年アメリカ映画 監督フランシス・ローレンス
ネタバレあり
リチャード・マシスンのSF小説「アイ・アム・レジェンド」三度目の映画化。一度目は未鑑賞の「地球最後の男」、二度目の映画化は前日再鑑賞した「オメガマン」。
「オメガマン」では製作の6年後の1977年ロサンゼルスが舞台だったが、本作では製作5年後の2012年ニューヨークが舞台。しかも明日から始まる2009年が全ての発端となっている。近未来なんてレベルじゃないですな。
ある女性病理学者が【はしかウィルス】を応用し開発したガン治療薬が猛威を奮ってたちまち全世界が絶滅状態になった中、ただ一人生き残っているらしい元軍所属医師ウィル・スミスは日夜血清を開発して実験を繰り返す一方、同じような生存者がいないか探し回っている。夜になると固く屋敷をガードするのは、凶暴ながら紫外線に弱い為に夜しか活動できない超人に突然変異した感染者たちから身を守る為である。
世間では“ゾンビ”と言われているが、彼らが狭義のゾンビ(生き返った死体)でないことは言うまでもなく、広義のゾンビ(他を襲撃することで生き永らえると同時に感染を広げていくタイプ)とも言いにくい。何となれば・・・
主人公の説明によれば、60億人(正確には2008年現在66億人)の人類のうち54億人が死に、生き残っている6億人の人類のうち1200万人が正常人。1%の免疫率が何を指すのか不明だが、残った人類の1%と考えるのが一般的。この説に従えば正常人のうち半数は非感染者となるが、「アメリカ住民は全て感染済みであり、生き残った正常人は全て免疫者」と僕は理解している。但し、これから発症する可能性は無きにしも非ず。とにかく、アメリカ人に関してはこれ以上の感染はない。
そして、5億8800万人が死ぬ代わりに変異を遂げた人類。食料への渇望で知力は後退しているが、主人公を罠にかけるだけの知恵はある。つまり肉体は生物学上の生命体を維持しているので、彼らは変異体(ミュータント)と言うべきである。さらに意味を押し広げれば彼らもゾンビだが、それを言うなら狂犬病もゾンビとして扱わなければならない。
何故こんなことを言い出したのかと言えば「何故死んだのが人間より強いのか」という大いなる誤解を目にしたからだ。僕も細かなミスは始終していると思うが、ここは基礎の部分なので間違ってはお話にならない。かかる誤解を招かないように風体を未来的にするなどの工夫があっても良かったであろう。ああいう小汚い格好ではどうしてももゾンビ=蘇った死人と思いがちである。
それはともかく、この原作の設定は彼が一人で行動する場面が半分を占める為(本作では犬と行動をしているが)に変化に乏しい。対峙するものがあって初めてドラマ性、サスペンス性は生じるわけで、いくら無人化した巨大都市にゾッとすることはあってもそれだけではなかなか興味が持続せず、作り方が意外と観念的である為にその単調さに拍車をかけてしまう。
例えばスミスがミュータント集団に襲われた時に息子を連れたブラジル人女性アリス・ブラガにどう助けられたか具体性を欠いて全く解らない。結局神の導きを信じて彼は敵諸共に自爆して果て、後を託された彼女が自ら信じた正常人のコロニーに行き着く、という宗教的な展開にふさわしいと言えばそれまでだが。
「地球最後の男」が今年最後の記事となりました。皆さま、良いお年を。
この記事へのコメント
これ三度目の映画化だったんですね。勉強不足でしりませんでした。
この作品、最初はけっこう引き込まれドキドキしてみていたんですが、後半がいただけない。
なんとも尻つぼみ的な印象で、物足りなさに襲われました。
それとやはりちょっと雑ですかね。
NYでのひとりの画はよかったんですけど。
これで本当に今年最後ですね。
それでは、今度こそ、良いお年を。
ウィル・スミスの作品っていつも不完全燃焼感が残るんですよね。
この作品もオチはあれでいいのかな~って思ってしまいました。
思いがけずゾンビ映画だったのにもビックリしましたし。
今年もたくさんTBをいただきありがとうございました。
また来年もよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いします。
毎回コンスタントに、コンパクトに、しかも的確な映画評をアップし続けるオカピーさんが「レジェンド」となる日は近い!?
なんて大晦日だから思いっきり持ち上げてしまいました(笑)
あれはゾンビではなく、新種なんですもんね。たしかダークシーカーだったかな?やつらが闇にうごめくシーンやらワンちゃんが暗闇に入っていくシーンでは
結構ビビリました。
前半の孤独感や無人のNYはすごいと思いましたが・・・
ま、映画のことはこのくらいにして・・・(笑)
今年もいろいろお相手いただきましてありがとうございました。
よいお年をお迎えください!では!
一人ぼっちでいる前半を悪く言っているように思われるかもしれませんが、そうでもないんです。
後半と比べたら寧ろ良いくらいなんですが、最初に出てくる野生の動物も変異体も実は同種のヴァリエーションに過ぎないですし、場面のタイプが三つしかないんですね。しかも「オメガマン」を観ているので、ちょっと退屈しました。
>尻つぼみ
「オメガマン」もそうなんですよ。^^;
>ちょっと雑
本文に書こうとして止めたのは、
①変異体集団と出会う前に既に屋敷のガードを固めるのは何故か?
動物が対象ならわざわざ開けて外出する必要もないであろう、という疑問。
②連中がスミスを引っかけたのに何にも活動しないこと。
設定から言えばまだ暗くならなかったからと言えそうですが、それなら無駄になるだけの場面を用意してはいけないでしょう。
ではでは。
>不完全燃焼感
僕は「アイ、ロボット」は結構評価しました。
後は確かにそんな感じですね。
>TB
コメントもしようと思うのですが、なかなか時間がなくて。
すみません。
今年は少し増やそうと思いますです。
どうぞよろしく。
今年はコメントが少なかったですね。
僕は碌な事を言わないから、コメントしない方が良いと思われているかもしれませんが。
本年も宜しくお願い致します。
>今年最終が「アイ・アム・レジェンド」!
そうですよ、他にも候補作品がありましたが、これにしたんですよ。「地球最後の男」に因んで。
>レジェンド
後5年くらいすると、凄いことになっていますかな(笑)。
冗談はともかく、【石の上にも三年】で、固定ファンとまでは言えないまでもレギュラーで訪れる方は増えている手応えがありますね。
>ダーク・シーカー
飢えにより正常人を襲撃する意味ではゾンビと似たようなものですけれど、ゾンビの範疇に入れてはいけないと思うなあ。
>前半の孤独感や無人のNYはすごい
確かに。
多分前回の「オメガマン」も街を封鎖して撮影したんでしょう。
映画を作るのも大変だよねえ。
遠景はCGで誤魔化したところもあるでしょうが、近景は本当の街でしたね。
ということで、本年もよろしくお願い致します。
この映画ですが、お正月にWOWOWで観ました。
うーんっ、前半、というか冒頭の画作りは結構面白そうな印象だったのですが、時間の経過と共に一気に陳腐な仕上がりになっていて、後半はかなり退屈してしまいました。
特にゾンビもどきの集団と闘うシーンが、20代の頃によくゲームセンターで見かけたシューティングゲームとあまりにも画的に似ていまして 苦笑
(バイオハザードみたいなゲームです)
でもウィル・スミスの演技力に☆2つ・・・ということで、わたし的には4点で!
ではでは本年も幅広いジャンルの作品のピックアップと、その的確な採点、楽しみにしております☆
今年も引き続きよろしくお願いします。
>時間の経過と共に一気に陳腐
大体そんなところでしょうね。
ゾンビもどきが現在流行っているからと言ってそちら方面に向かわず、新人類的な方向で作った方が面白くなった可能性大です。
>4点
まあ僕の☆☆★は一応下の方に幅広く取っているので、RAYさんの4点に気分的には近いかもです。
>的確な採点
まあ年季だけは入っています(30年以上)し、採点に関しては色々考察もしてきて、趣味性も極力排除していますから、比較的精度は高いと思っていますが、適当に捉えてください。^^
今年もよろしくお願い致します。