映画評「スターダスト」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年イギリス=アメリカ映画 監督マシュー・ヴォーン
ネタバレあり
ファンタジーには辛口と思われているに違いない僕が「パンズ・ラビリンス」に続いてまた高く評価することになった。急に宗旨替えしたわけではなく、夫々違った理由で優れているというだけである。
英国のある村に門番がいる為に誰も通り抜けられない壁があり、そこを通り抜けたただ一人の青年の許に壁の向こうにある街で一夜を共にした女性から彼の息子が届けられる、というのがプロローグ。
18歳になったその息子チャーリー・コックスが町一番の美女シエナ・ミラーに贈ろうと落下したばかりの流れ星を取りに旅に出る。
本作の面白さは若者の冒険そのものではなくて、流れ星が地上に落ちると美女クレア・デーンズになり、若返る為にミシェル・ファイファーを筆頭にする三人の魔女姉妹がその心臓を付け狙い、他方彼女が身に付けたルビーを壁の向こうに存在する王国の王位継承者たちが奪おうと躍起になる、というブラック・ユーモアに溢れた設定にある。
理屈っぽくないのが何より良い。変わり映えのしないメッセージを映画作りの理由にせず、自由奔放なファンタジーらしい場面を次々と展開、屈託がなくて大いに宜しい。
物語の展開上は大して重要ではなくてもコックスとクレアの二人が空の海賊ロバート・デニーロと繰り広げるシークェンスにはご機嫌になってしまう。その海賊の名前はシェークスピアだが由来が【やりを振り廻す】shake spearというのが面白く、三人の魔女が「マクベス」を想像させることなどから作者がシェークスピア絡みで楽しんでいることがよく解る。
プロローグでの言葉からコックス少年(と言っても実際には青年に近い)の母親が王の娘であることは早めに想像が付くわけだが、王位継承者が次々と命を落とした為に彼が遂には王様になる、という残酷童話仕立てなのも嬉しい。妃となるのはシエナではなく純粋な愛情を捧げてくれるクレアなのは言うまでもない。
僕が最近のファンタジーに辛口になりがちなのは生活感情をなかなか共有できないからだ。吸血鬼と狼人間が闘っても魔法大会が繰り広げられてもこちらの心に響くものは何もない。その空虚さを誤魔化す為に前面に押し出されるのが所謂<メッセージ>だったりするわけだが、本作には例えば恋愛映画と同一のもの、即ち恋という生活感情があり、人間の現実がある。
その一方、感情に根差す現実感と観念的なリアリティくらい似て非なるものはなく、生活感情に根差さないリアリズムの立場でファンタジーを批評することくらい馬鹿馬鹿しいことはない。
なんて理屈はどうでも良いとして、素直に楽しめるファンタジーは久しぶり。出来栄えはともかく「パンズ・ラビリンス」より好ましい。
いかなブラック・ユーモア仕立てでも、クレア・デーンズが余りに散文的なのはマイナス。
ホーギー・カーマイケルの名曲「スターダスト」は出て来ない。
2007年イギリス=アメリカ映画 監督マシュー・ヴォーン
ネタバレあり
ファンタジーには辛口と思われているに違いない僕が「パンズ・ラビリンス」に続いてまた高く評価することになった。急に宗旨替えしたわけではなく、夫々違った理由で優れているというだけである。
英国のある村に門番がいる為に誰も通り抜けられない壁があり、そこを通り抜けたただ一人の青年の許に壁の向こうにある街で一夜を共にした女性から彼の息子が届けられる、というのがプロローグ。
18歳になったその息子チャーリー・コックスが町一番の美女シエナ・ミラーに贈ろうと落下したばかりの流れ星を取りに旅に出る。
本作の面白さは若者の冒険そのものではなくて、流れ星が地上に落ちると美女クレア・デーンズになり、若返る為にミシェル・ファイファーを筆頭にする三人の魔女姉妹がその心臓を付け狙い、他方彼女が身に付けたルビーを壁の向こうに存在する王国の王位継承者たちが奪おうと躍起になる、というブラック・ユーモアに溢れた設定にある。
理屈っぽくないのが何より良い。変わり映えのしないメッセージを映画作りの理由にせず、自由奔放なファンタジーらしい場面を次々と展開、屈託がなくて大いに宜しい。
物語の展開上は大して重要ではなくてもコックスとクレアの二人が空の海賊ロバート・デニーロと繰り広げるシークェンスにはご機嫌になってしまう。その海賊の名前はシェークスピアだが由来が【やりを振り廻す】shake spearというのが面白く、三人の魔女が「マクベス」を想像させることなどから作者がシェークスピア絡みで楽しんでいることがよく解る。
プロローグでの言葉からコックス少年(と言っても実際には青年に近い)の母親が王の娘であることは早めに想像が付くわけだが、王位継承者が次々と命を落とした為に彼が遂には王様になる、という残酷童話仕立てなのも嬉しい。妃となるのはシエナではなく純粋な愛情を捧げてくれるクレアなのは言うまでもない。
僕が最近のファンタジーに辛口になりがちなのは生活感情をなかなか共有できないからだ。吸血鬼と狼人間が闘っても魔法大会が繰り広げられてもこちらの心に響くものは何もない。その空虚さを誤魔化す為に前面に押し出されるのが所謂<メッセージ>だったりするわけだが、本作には例えば恋愛映画と同一のもの、即ち恋という生活感情があり、人間の現実がある。
その一方、感情に根差す現実感と観念的なリアリティくらい似て非なるものはなく、生活感情に根差さないリアリズムの立場でファンタジーを批評することくらい馬鹿馬鹿しいことはない。
なんて理屈はどうでも良いとして、素直に楽しめるファンタジーは久しぶり。出来栄えはともかく「パンズ・ラビリンス」より好ましい。
いかなブラック・ユーモア仕立てでも、クレア・デーンズが余りに散文的なのはマイナス。
ホーギー・カーマイケルの名曲「スターダスト」は出て来ない。
この記事へのコメント
こちらからTBさせていただきたい記事はあるのですが、なんだかいろいろな方面でやる気が起こらず…。申し訳ありませぬ。
自分の昔の記事では、プンプン怒ってるようにも受け取れますが(笑)、私もこの作品はとても楽しめました。少なくとも年端も行かぬ子供が理不尽な目に遭ったりはしませんしね。
TB届きましたでしょうか。
TB,有難うございます♪
ロマンティックで、わくわくもあり、心地よい笑いもある。
好きなものがいっぱい詰まった作品でした!
2回観ましたもの(笑)
昨年のマイベスト5に入れちゃった作品です
>やる気起こらず…
うーむ、豆酢さんばかりでなく、僕のブログ周りに伝播しているみたい。
あんなに頑張っていてシュエットさんまで。TT
彼女の場合は頑張りすぎていた気がしたのですが。
>プンプン怒ってるようにも
いや大丈夫、僕の読解力ならばっちりですよ(自分で言うか!)
>年端も行かぬ子供が理不尽な目に遭ったりはしませんしね
なるほど。
そういう視点もありますね。
子供より大人の方が数倍楽しめる作品でしょう!
TBばかりで済ませていてごめんなさい。
>昨年のマイベスト5
僕は例年初鑑賞作が350本くらいありますので、色々なジャンルから集めるとベスト10も苦しいですが、気に入りました。
純娯楽作品だけを選び出せば、ベスト10に確実に入ります。