映画評「サウスバウンド」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・森田芳光
ネタバレあり

少年時代から読書は少なからずしているが、小説に関して言えば、発表されて50年以上経った作品くらいしか読まないことにしている。映画化された時に困ることが多いからである。読むなら映画を見てからの方が断然お得だ。そんなわけで当然未読である奥田英朗の本屋大賞第2位になったベストセラーを森田芳光が自ら脚色して映像化したドラマ。

東京、小学6年生の田辺修斗君は姉・北川景子、妹・松本梨菜と両親の5人家族である。
 担任教師の家庭訪問や年金の催促にやってきた役人(吉田日出子)に対する態度から父親・豊川悦司が反体制的な人物(元過激派)であることが判り、20年ぶりの祖母・加藤治子の訪問や少年をめぐる暴力事件から母親・天海祐希もかつては危ない橋を渡っていた時代があったものの今は主婦として落ち着いているという事実が判って来る、という小出しの展開がなかなか上手い。

少年の暴力事件を発端に父親の故郷である西表(いりおもて)島に移住することになり、「やや、今流行りのスローライフ映画に転向か」と思わせるのも束の間、彼らが住み着いた土地が東京の観光会社の開発予定地だったものだから、業者・官憲を相手に両親は大立ち回りを演ずることになる。反骨的な父親が島の伝説的レジスタンスの子孫であるという事実もここに重なって来る。

森田監督の出世作「家族ゲーム」(1983年)を懐かしく思い出した。当時彼の醒めたカメラワークは独自で僕自身はちょっと肌に合わない印象を覚えたものの世間では大評判になったわけだが、あの作品で現代的な家族問題を取り上げた彼がいつの間にか正統派のベテランになってまた家族を扱うことに、感慨さえ覚える。
 本作の扱われる家族は奇妙に見えてその実、かなり年代物なのではないだろうか。そして、子供たちが時代錯誤な、見方によっては父権主義的な父親に当惑しながらも「格好良い」、母親がそんな反骨的で豪快な父親を尊敬する姿に「あっぱれ」とやがて思えてくる、そんな印象を残す内容になっている。そこに現れるのは現在の家族関係に対するアンチテーゼである・・・少なくとも僕はそう思う。

事実上のコメディーとは言え、父親の国家権力側の人間に対する態度が他の場面に比して些か戯画的すぎ諸手を挙げられないが、この後の「椿三十郎」よりは森田監督らしい作品になっているのではないかと嬉しくなった。豊川悦司も「椿」よりずっと良い(と言うより、現在の役者に時代劇は荷が重すぎるというのが実情なのだ)。

「模倣犯」以降世間は森田バッシングを敢行中。僕はあの作品で激しく世間に対し抵抗したものです。

この記事へのコメント

2009年03月11日 00:26
こんにちは。
>小説に関して言えば、発表されて50年以上経った作品くらいしか読まないことにしている。映画化された時に困ることが多いからである。

ほんとに?(笑)凄いなあ。「古典」中心の人は結構おられますが、映画化されたときに困るからという人は、日本ひろしといえど、オカピーサンぐらいでしょう。感服します!
オカピー
2009年03月11日 01:51
kimion20002000さん、こんばんは。

本当ですよ。
映画を軸に全てを考えていますから。^^

映画は想像力を最小限にしてしまう映像があり、時間も限られる為、小説よりずっと不利なので、読むなら映画化された後です。
短編ミステリーなんかは例外にしていますけどね。

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