映画評「レッドクリフ PartI」(地上波放映版)
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年中国=台湾=アメリカ=韓国=日本映画 監督ジョン・ウー
ネタバレあり
学生時代は日本史より世界史に興味があり、中でも中国史は好きだが歴史書を読むほどではなかった。先日思い立って読み始めた「史記」は本日遂に読み終わり、図書館にある「三国志」(「三国志演義」ではないぞよ)も数年のうちには読みたいと思っているところである。
本作はその「三国志」でも序盤、まだ魏・呉・蜀が帝国として成立する前の後漢末期が舞台で、曹操(チャン・フォンイー)は後漢の丞相になって権力を掌握したばかりで天下統一に燃え、領民の人気を集めている蜀侯・劉備(ユー・ヨン)を排除しようと戦闘を仕掛ける。
ここが序盤の見どころで、劉備の生まれたばかりの子供を抱えながら敵を蹴散らす家臣・趙雲(フー・ジュン)の活躍が印象深い。
蜀の天才軍師・諸葛亮孔明(金城武)は曹操の大軍勢に立ち向かうべく呉と連合する為にその司令官・周瑜(トニー・レオン)に接近して意気投合、若き君主・孫権(チャン・チェン)も遂にその気になる。諸葛亮は古式ゆかしき【八卦の陣】作戦を提案、油断した曹操の部隊をこの陣形に誘い込み、大打撃を与える。
タイトルの由来である有名な「赤壁の戦い」は公開が始まったばかりの「Part2」までお預け。
まず放映に関する不満。
劇場公開時の本作上映時間は145分。地上波故に多少のカットは覚悟していたものの、後篇の予告編が本編終了後延々と10分も続くことには温厚な僕も腹を立てるしかない。ここで使った貴重な10分を本編に回せば約133分の放映となり、クレジットを入れても12分、実質5分程度のカットで済んだのだ。
地上波放映版で観る限り展開は誠に早い。その代わりダイジェスト的な物足りなさも覚えてしまう部分もあるが、僕のような「三国志」初心者には丁度良さそうだ。
作劇としては、中国時代劇らしく序盤から暗示的・象徴的・比喩的なショットや場面が目立つ。馬の出産を手伝うことによる生まれる諸葛亮への信頼、琴の合奏による心理の探り合い、埃による弓の長い不使用の暗示、虎を曹操に見立てる狩り、草鞋に使う藁の譬え、【八卦の陣】に絡む亀、等々。
こうして敵に対しては勿論、味方においても心理合戦であるというムードを観客の心底に植えた上で、映画は後半のハイライトである【八卦の陣】の戦闘に突入していく。
俯瞰で捉えた八卦の陣が非常に美しいが、ほぼ実技のみで作られた古い映画をよく知るオールド・ファンならワイヤーとスローモーションとCGが少なからず用いられた戦闘場面には多少の失望を覚えよう。必要以上の多用とは言えないものの、ファンタジーでもない時代劇に不自然で間延びするワイヤーはないほうがベター。スローモーションは肝心なショットだけに使えばよろしく、多用は冗長さを生むので逆効果である。その代り、カット割りが細切れではなく、最近の作品としてはアクションの全体像が捉え易いのは有難い。
CGは事前の予想ほど使われていないが、例えば無数の矢が飛ぶショットでは、実写において限りある矢をカメラワークで多く感じさせるのが映画屋の仕事ではないか、とちょっと不平を言ってみたくもなる。
ドラマ展開の中で一番不満なのは諸葛亮の扱いで、戦闘中の彼はただ所在ないようにしか見えず緊張感を殺ぐ傾向にある。この辺りは「PartII」で見極めなければならない。
【レッドクリフ】では、「赤壁賦」を詠んだ蘇東坡もびっくりじゃろうて。
2007年中国=台湾=アメリカ=韓国=日本映画 監督ジョン・ウー
ネタバレあり
学生時代は日本史より世界史に興味があり、中でも中国史は好きだが歴史書を読むほどではなかった。先日思い立って読み始めた「史記」は本日遂に読み終わり、図書館にある「三国志」(「三国志演義」ではないぞよ)も数年のうちには読みたいと思っているところである。
本作はその「三国志」でも序盤、まだ魏・呉・蜀が帝国として成立する前の後漢末期が舞台で、曹操(チャン・フォンイー)は後漢の丞相になって権力を掌握したばかりで天下統一に燃え、領民の人気を集めている蜀侯・劉備(ユー・ヨン)を排除しようと戦闘を仕掛ける。
ここが序盤の見どころで、劉備の生まれたばかりの子供を抱えながら敵を蹴散らす家臣・趙雲(フー・ジュン)の活躍が印象深い。
蜀の天才軍師・諸葛亮孔明(金城武)は曹操の大軍勢に立ち向かうべく呉と連合する為にその司令官・周瑜(トニー・レオン)に接近して意気投合、若き君主・孫権(チャン・チェン)も遂にその気になる。諸葛亮は古式ゆかしき【八卦の陣】作戦を提案、油断した曹操の部隊をこの陣形に誘い込み、大打撃を与える。
タイトルの由来である有名な「赤壁の戦い」は公開が始まったばかりの「Part2」までお預け。
まず放映に関する不満。
劇場公開時の本作上映時間は145分。地上波故に多少のカットは覚悟していたものの、後篇の予告編が本編終了後延々と10分も続くことには温厚な僕も腹を立てるしかない。ここで使った貴重な10分を本編に回せば約133分の放映となり、クレジットを入れても12分、実質5分程度のカットで済んだのだ。
地上波放映版で観る限り展開は誠に早い。その代わりダイジェスト的な物足りなさも覚えてしまう部分もあるが、僕のような「三国志」初心者には丁度良さそうだ。
作劇としては、中国時代劇らしく序盤から暗示的・象徴的・比喩的なショットや場面が目立つ。馬の出産を手伝うことによる生まれる諸葛亮への信頼、琴の合奏による心理の探り合い、埃による弓の長い不使用の暗示、虎を曹操に見立てる狩り、草鞋に使う藁の譬え、【八卦の陣】に絡む亀、等々。
こうして敵に対しては勿論、味方においても心理合戦であるというムードを観客の心底に植えた上で、映画は後半のハイライトである【八卦の陣】の戦闘に突入していく。
俯瞰で捉えた八卦の陣が非常に美しいが、ほぼ実技のみで作られた古い映画をよく知るオールド・ファンならワイヤーとスローモーションとCGが少なからず用いられた戦闘場面には多少の失望を覚えよう。必要以上の多用とは言えないものの、ファンタジーでもない時代劇に不自然で間延びするワイヤーはないほうがベター。スローモーションは肝心なショットだけに使えばよろしく、多用は冗長さを生むので逆効果である。その代り、カット割りが細切れではなく、最近の作品としてはアクションの全体像が捉え易いのは有難い。
CGは事前の予想ほど使われていないが、例えば無数の矢が飛ぶショットでは、実写において限りある矢をカメラワークで多く感じさせるのが映画屋の仕事ではないか、とちょっと不平を言ってみたくもなる。
ドラマ展開の中で一番不満なのは諸葛亮の扱いで、戦闘中の彼はただ所在ないようにしか見えず緊張感を殺ぐ傾向にある。この辺りは「PartII」で見極めなければならない。
【レッドクリフ】では、「赤壁賦」を詠んだ蘇東坡もびっくりじゃろうて。
この記事へのコメント
きっとこれはテレビで観たほうがアラが見えず映像が締まって鑑賞できたのではと思います。。スクリーンだとアラがみえてしまい、例えばエキストラの兵隊たちのなんとも緊張感のなさがみえみえでいけませんでした。
パート1を観た後「グラディエーター」が無性に観たくなりました。
トニーレオンと妻とのラブシーンなども不要かと。パート2は今となっては賞味期限切れでテレビ放映で観ることに決めました。ただ、映画評はパート2は1に比べて概ね好意的な評価みたいですけど。
カット部分は大きいですよ。
出来ればCMによる中断も再編集もないWOWOWで観たかったのですが、カットがある程度限定的と思って観たのに、後篇の予告があんなに延々とあるのだから参りました。あれは劇場公開時にもあったものらしいですね。
>ラブシーン
確かに要らんなあ。
地上波につき家族で観ていたので、ちょっと照れました。^^;
馬の出産が要らんというご意見もありますが、あれは【信頼】への伏線ですから。
>映画評
僕がよく訪れるブログではこちらも概ね好調でしたよ。
シュエットさんが一番厳しいみたい。(笑)
スローモーションは、ジョン・ウーのトレード・マークみたいなものなので、許してあげてください。^^
サム・ペキンパーの真似なんでしょうけど・・・
>スローモーション
大丈夫ですよ。^^)v
ウーの場合は当てはまりませんが、才能のない作家たちがスローモーションを迫力のなさを誤魔化す為に(ビデオ映画などでは尺稼ぎに)多用している現状を苦々しく思っているので、つい言ってしまうんですよね。^^;
いずれにしても一番気になったのは、ワイヤーですね。
あんな間延びするわざとらしいものを有難がる必要はないと思うんですが。
いまでは私は、民放の映画放映はカットがある限り見ません。とくに最近は、インタビューや続編予告などなどで時間を使うことも多いですしね。
私はすでにパート2を観ましたが、個人的にはそれほど面白くなかったです。劉備の部下たちの活躍がラストだけだったせいもあるかと。。。
あのお馬さんは、パート2でも忘れられていませんでしたよ。
>早くも地上波放映
で、PART2は絶対遅い!
全くTV局は・・・
>民放の映画放映はカットがある限り見ません。
僕も基本はそうですが、年間数本くらい観てしまうかな。
というのもそのタイミングで記事をUPすると、閲覧数が多少多いんですよね。(笑)
しかし、5月にWOWOWに登場だって!
>パート2
そうですか。
赤壁の戦いだけでは限界があるのかな。
八門八卦の陣は綺麗でしたね。またおっしゃるとおりで、孔明さんはなんだかよく分からない動きで、まるで七曲署のボスみたいでした。
地上波の映画はぼくは全く見なくなりました。どうしても映画がぶつぎれになって死んでしまうような気がします。レンタルが出てくるまでは地上波の吹き替えで見るのが普通でしたが、これも贅沢病なのでしょうか。
>予告編が10分
ふざけてますね。宣伝のために作品を削るというのは本末転倒もいいとこですね。愛情のなさが見る人に伝わりますね。
それではパート2へ参ります!
>孔明さん
でしょ!
PART2ではそんな感じは薄らぎました。
>地上波の映画
なるべく見ないようにしているんですが。
確かに本編カット以上にCMによる中断は戴けないですね。
緊張感も監督の狙った流れも全部死んでしまう。
>予告編
劇場でも本編と繋がっていたとか?
或いはそのままTVでやったのかもしれませんが。