映画評「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督ポール・トーマス・アンダースン
ネタバレあり
アプトン・シンクレアが1927年に発表した大作小説「石油!」の一部をポール・トーマス・アンダースンが大胆に改変して映像化した人間劇。
20世紀初め、主人公の山師ダニエル・デイ=ルイスは黄金から石油に儲けの手段を変え、十数年後ある若者から得た情報を基にその父親から安く土地を買い上げて村民を労働者に本格的に旗揚げをする。が、油田の爆発で聴力を失って情緒不安定になった息子に放火されたり、偽の弟の出現などで自分以外の誰をも信じず頼りもしなくなるうち、パイプラインを通す為には彼の天敵とも言うべきカルト的宗派の若い牧師ポール・ダノ(情報をくれた若者の兄弟)に帰依するふりをするなど彼の事業成功への妄執は度を越していく。
開巻後から十余分台詞がないのは1947年に作られた日本映画「戦争と平和」に似て相当なインパクトを受けるが、それはともかく、一般的に解釈されるように“欲望という悪”を描いた作品ではなく、デイ=ルイス扮する主人公がなりふり構わず成功する過程を描いた一種のサクセス・ストーリーだろう。「サクセス・ストーリーは爽快なもので、その主人公は好漢である」という観客の思い込みの逆を行く、ひねくれたアメリカン・ドリーム映画と言っても良い。
つまり、作者が積極的に主人公を賞賛しない代わりに否定的にも扱わず、寧ろ主人公のもたらす金に固執して行動する牧師に代表される非建設的な人物を次々と繰り出すことで「彼こそが本当の実業家である」と際立たせていくところに本作の現代性があるのである。主人公は資本主義を地で行く人物に他ならない。
勿論常識的な人間である僕には主人公に共感などすることは出来ず、暴力描写故に後味もよろしくないので、☆の数が示すほど記憶に留めたい映画とは言えないが、アンダースンの腰のある描写には大いに感心させられるものがある。
大作なれど、コメントは簡単。
2007年アメリカ映画 監督ポール・トーマス・アンダースン
ネタバレあり
アプトン・シンクレアが1927年に発表した大作小説「石油!」の一部をポール・トーマス・アンダースンが大胆に改変して映像化した人間劇。
20世紀初め、主人公の山師ダニエル・デイ=ルイスは黄金から石油に儲けの手段を変え、十数年後ある若者から得た情報を基にその父親から安く土地を買い上げて村民を労働者に本格的に旗揚げをする。が、油田の爆発で聴力を失って情緒不安定になった息子に放火されたり、偽の弟の出現などで自分以外の誰をも信じず頼りもしなくなるうち、パイプラインを通す為には彼の天敵とも言うべきカルト的宗派の若い牧師ポール・ダノ(情報をくれた若者の兄弟)に帰依するふりをするなど彼の事業成功への妄執は度を越していく。
開巻後から十余分台詞がないのは1947年に作られた日本映画「戦争と平和」に似て相当なインパクトを受けるが、それはともかく、一般的に解釈されるように“欲望という悪”を描いた作品ではなく、デイ=ルイス扮する主人公がなりふり構わず成功する過程を描いた一種のサクセス・ストーリーだろう。「サクセス・ストーリーは爽快なもので、その主人公は好漢である」という観客の思い込みの逆を行く、ひねくれたアメリカン・ドリーム映画と言っても良い。
つまり、作者が積極的に主人公を賞賛しない代わりに否定的にも扱わず、寧ろ主人公のもたらす金に固執して行動する牧師に代表される非建設的な人物を次々と繰り出すことで「彼こそが本当の実業家である」と際立たせていくところに本作の現代性があるのである。主人公は資本主義を地で行く人物に他ならない。
勿論常識的な人間である僕には主人公に共感などすることは出来ず、暴力描写故に後味もよろしくないので、☆の数が示すほど記憶に留めたい映画とは言えないが、アンダースンの腰のある描写には大いに感心させられるものがある。
大作なれど、コメントは簡単。
この記事へのコメント
作品でもなく、なかなか筆が進まず
画像ばかりが目立つ拙記事TBさせて
いただきました。(--)
息子であろうが何であろうが商売に
必要なものはなりふり構わず利用する
男の徹底した豪胆さを描きたかったん
でしょうね。
ただこの手の人間像は特に元気のよかった
日本映画の力作の中でちらほら見かけて
おりましたので別段異色とも思われずじまい。
群像劇から骨太の直球までいけるんです、
というアンダースン監督の力こぶの入れ
具合はよくわかりましたが演出面は~(--)^^
役者ダニエル・デイ=ルイスのひとり勝ちの
ような気もするのです。(^^)
元来群像劇が好きでなく、この監督では軽みと重さを併せ持った「パンチドランク・ラブ」が一番のお気に入りですが、本作の腰のある描写は買いたいと思っております。小手先の時系列操作が多い時代だけに・・・
一番下に置いた画像を見ると、パンフォーカス(前面にピントを合わせる技術)できる現在なのに意図的に背景をぼかしている。
スクリーンプロセスかと思わせるほど(実際そうかもしれない)前面の人物が浮き上がっているのですが、この撮影意図は何なのか。結構気になってしまいまするな。
>この手の人物像
僕は思いきり「復讐するは我にあり」を思い浮かべましたねえ。勿論かの主人公は紛うことなき悪人ですが、自分の腕一本で立ち上がったことにはちがいないですしね。
緒形拳とダニエル・デイ=ルイス、どっちの化け具合の勝ちだべか?
改めて観ると、やはり変な映画でした。^^
そこが、監督らしさのような気がします。
基本的にこの監督の作品は苦手ですが、本作はD・D・ルイスの熱演のおかげで、最後まで飽きずに見れました。
世間でPTAなどともてはやされていますが、僕も苦手ですね。
基本的に長いですしね。
「パンチドランク・ラブ」だけは割合気に入りましたが。
本作は好きにはなれないけれど、馬力には圧倒されました。
デイ=ルイスのワンマンショー的力演も見応えありましたね。
しかるに、上のvivajijiさんが仰っているように、主人公は映画史上には似たレベルの人物はいたわけで、それほど大騒ぎしなくても良いような気もいたします。
>主人公は資本主義を地で行く人物に他ならない。
私は主人公が成上がりの国アメリカを強烈に感じました。
アメリカ=資本主義という図式があるわけだけれど、資本主義言う感覚よりよりも彼は「アメリカ」そのものだ!って直感的に感じ取ってしまって、以降はそんな目でずっとこ主人公を見てましたね。
詰まるところは「主人公は資本主義を地で行く人物に他ならない。」となるのですけれどね。
>アンダースンの腰のある描写には大いに感心させられるものがある。
…★「腰」が「越」になってるよ!。私はしょっちゅうだけどP様には珍しい。
本作の映像は腰があるというか、今までは室内を主な舞台にした作品が多かったので、本作のスケールにリキを感じましたね。
ところでPTA苦手ですか?
私は結構お気に入りです。
マグノリアの最後カエルが降ってくるという、あの突き破り方なんて、なんか感覚的に共鳴してしまう。ポン・ジュノにも通じるもの感じるなぁ。
PTAはロンドンにいた時にやぱりアメリカが好きだって痛烈に思ったんだって。
そんな時本屋でこの本とであったってどっか似かかれてあった。
アメリカが好きだっていって、こんな作品を撮るんだから、そんな人間を抱えているアメリカという国には嫉妬してしまう。
>資本主義
実は、「アメリカ的資本主義」としようかなと思いましたが、「ちょっとくどいかな」と思ってただの「資本主義」にしました。「アメリカそのもの」という表現もいっとき考えましたけど。
>…★「腰」が「越」になってるよ!。
ここも表現に迷っているうちに間違えただ。(笑)
>PTA
好きとは言えないなあ。
特に「マグノリア」はダメでした。
大体アルトマンにして「ナッシュビル」辺りは別ですが、後期の長いやつは今一つ好きになれなかったなあ。
群像劇も「グランドホテル」形式のように登場人物の関連性が最初から高い作品はともかく、昨今流行りのスタイルはどうも散漫な印象(こちらが集中的できないだけなんですが)があって苦手です。^^;
>アメリカが好きだって
なるほどね。
この作品ときちんと整合性が取れていますね。