映画評「眠狂四郎 悪女狩り」
☆☆☆(6点/10点満点中)
1969年日本映画 監督・池広一夫
ネタバレあり
シリーズ第12作にして(市川雷蔵版)最終作。
本作公開の半年後に眠狂四郎役の市川雷蔵が37歳の若さで肝臓癌で亡くなった。健在だったらさらに数本は企画されたであろう。それくらい雷蔵演ずる狂四郎のニヒリズム即ちアンチ権威は魅力的であった。人気シリーズ故大映は松方弘樹を代役に立てて続編を作ったが、勿論雷蔵シリーズには遠く及ばず、僅か2本で終了。ドル箱スターを失った大映はその後衰退の一途を辿ることになる。
大奥でお世継争いが激化、一方の側室を肩入れをしている総取締・錦小路(久保菜穂子)は、隠れキリシタンの一党をルソンへ脱出させることを念願としている川口周馬(江原真二郎)と取引をして大奥での権力掌握という野望の達成を邪魔する幕府要人や敵方側室一派の女中を暗殺させ、狂四郎の犯行に偽装。名を騙られた狂四郎は否応なしに大奥の醜い争いに巻き込まれていく。
世継争いと隠れキリシタンの国外脱出を絡ませたところに感興の湧く話だが、演出的に注目したいのは開巻直後、偽狂四郎による二つの事件を顔なしで描写し、三度目を同じように暫く顔なしで描いた後ショットを切り替えて本物の狂四郎であることを確認させるという一連のシークェンスである。
勿論本シリーズのファンならこのトリックに惑わされる人はまずいないだろうが、ミステリー的なムードが出てくるだけでもこの細工は大いに買いたい。寧ろ、十字架を重ねた家紋を見るだけで狂四郎と解るファンだからこそ楽しめる部分とも言えそうである。
が、その後は予想外に面白くない。まず、池広監督にいつもの切れがなく、場面が冗長になりがちなのである。本来であれば相当印象深い箇所になったにちがいない、登場人物が能面を被った幻想的な狂四郎暗殺未遂場面にしても、長すぎてもたれた後だけに意外性のある暗殺方法が作者が狙った程の効果を発揮しない。全く勿体ない限り。
しかし、これが最終作である、余り文句は言わないで置こう。ぴょんと跳び跳ねたり屋根から飛び降りたり益々軽快な雷蔵が半年後に夭逝しようとはこの時点でどのファンが想像し得たであろう。「炎上」辺りの朴訥なイメージと妖艶でニヒルな狂四郎が全く重ならない辺り名優であったとつくづく思う。
上の画像は市川狂四郎最後の姿。しっかり頭に焼き付けてくだされ。
映画スターは死んでもフィルムに残る。僕が死んでも何も残らない。無念!
1969年日本映画 監督・池広一夫
ネタバレあり
シリーズ第12作にして(市川雷蔵版)最終作。
本作公開の半年後に眠狂四郎役の市川雷蔵が37歳の若さで肝臓癌で亡くなった。健在だったらさらに数本は企画されたであろう。それくらい雷蔵演ずる狂四郎のニヒリズム即ちアンチ権威は魅力的であった。人気シリーズ故大映は松方弘樹を代役に立てて続編を作ったが、勿論雷蔵シリーズには遠く及ばず、僅か2本で終了。ドル箱スターを失った大映はその後衰退の一途を辿ることになる。
大奥でお世継争いが激化、一方の側室を肩入れをしている総取締・錦小路(久保菜穂子)は、隠れキリシタンの一党をルソンへ脱出させることを念願としている川口周馬(江原真二郎)と取引をして大奥での権力掌握という野望の達成を邪魔する幕府要人や敵方側室一派の女中を暗殺させ、狂四郎の犯行に偽装。名を騙られた狂四郎は否応なしに大奥の醜い争いに巻き込まれていく。
世継争いと隠れキリシタンの国外脱出を絡ませたところに感興の湧く話だが、演出的に注目したいのは開巻直後、偽狂四郎による二つの事件を顔なしで描写し、三度目を同じように暫く顔なしで描いた後ショットを切り替えて本物の狂四郎であることを確認させるという一連のシークェンスである。
勿論本シリーズのファンならこのトリックに惑わされる人はまずいないだろうが、ミステリー的なムードが出てくるだけでもこの細工は大いに買いたい。寧ろ、十字架を重ねた家紋を見るだけで狂四郎と解るファンだからこそ楽しめる部分とも言えそうである。
が、その後は予想外に面白くない。まず、池広監督にいつもの切れがなく、場面が冗長になりがちなのである。本来であれば相当印象深い箇所になったにちがいない、登場人物が能面を被った幻想的な狂四郎暗殺未遂場面にしても、長すぎてもたれた後だけに意外性のある暗殺方法が作者が狙った程の効果を発揮しない。全く勿体ない限り。
しかし、これが最終作である、余り文句は言わないで置こう。ぴょんと跳び跳ねたり屋根から飛び降りたり益々軽快な雷蔵が半年後に夭逝しようとはこの時点でどのファンが想像し得たであろう。「炎上」辺りの朴訥なイメージと妖艶でニヒルな狂四郎が全く重ならない辺り名優であったとつくづく思う。
上の画像は市川狂四郎最後の姿。しっかり頭に焼き付けてくだされ。
映画スターは死んでもフィルムに残る。僕が死んでも何も残らない。無念!
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