映画評「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・若松孝二
ネタバレあり
1972年【あさま山荘事件】で耳目を騒がせた連合赤軍とその活動を描いた映画を観るのは、映画製作という二重構造形式でリンチに明け暮れたアジトでの活動を描いた「光の雨」、【あさま山荘】を官憲側から描いた「突入せよ!「あさま山荘」事件」に続いて三度目である。ピンク映画の巨匠(という形容がふさわしいかどうかその類の作品を見ていないので解らないが)若松孝二が後者に腹を立てて作ったとも聞く。
1960年の安保闘争に始まる日本の学生運動は次第に武力闘争を唱える過激派を生み出す。逮捕者が相次ぐ中残った共産主義者同盟赤軍派と日本共産党革命左派が合体して連合赤軍が成立、群馬県の榛名山などに籠って軍事教練を開始するが、思想の不徹底の者を「統括」の名の下に事実上の粛清、生き残った者のうち猟銃を携えた4名が【あさま山荘】を占拠する。
彼らの事件は、連合赤軍が絡んだ榛名、妙義、浅間に挟まれた西毛(群馬西部)に生まれ育った僕にとって、連続殺人の大久保清事件と共に、強く記憶に残っているものだが、全共闘世代より一回り近く年下なのでその時代の気分はちょっと解り難いものがあるし、その辺りの詳細についてはものの本などに当たるのが無難でござる。
左翼右翼は言うまでもなく、宗教を含めて、一つの思想が組織を生む時必然的に全体主義的になり、その思想から少しでも外れる者に対し差別的になり、暴力的になる。程度は低いが、学校などのコミュニティにおけるいじめもその点において何ら違いはなく、欲望に対する人間の弱さの反映である。本作を見るとかかる思いを強くせざるを得ない。
本作を見ている最中、途中で海外へ脱出する重信房子(伴杏里)に引きずられるように活動を本格化させ赤軍派の幹部になりながら榛名でリンチ殺人に付されてしまう遠山美枝子(坂井真紀)を事実上の主役にしていることが気になっていたが、二人は監督の取材を通しての知り合いだったそうで、特に遠山に関しては無残な死に方をしているだけに私情が加えられたある意味偏った扱いになっている。
連合赤軍結成前に逃亡しながら復帰し上位幹部が逮捕される流れの中で委員長に上り詰めてしまう森恒夫(地曳豪)と副委員長の永田洋子(並木愛枝)の描写に、連合赤軍自体には共感を覚えているはずの監督の私怨すら感じるのは錯覚だろうか。特に女性的魅力に欠ける永田が美人である遠山を常に見張っている姿を挿入、それを踏まえて「女であることを利用している」と総括を迫り、自分で自分を殴らせて美貌を化け物のように変えた挙句に鏡で自身の姿を見せる場面は永田のサディズムの強烈な発露としか思えない。映画からは解らないが、60年代に永田は妊娠できないと宣言されていたらしく、恐らくその辺りでねじれた性格が出来上がったのだろう。
故に、本作のメインテーマは【あさま山荘】ではなく【榛名ベースにおけるリンチ殺人】と思う。
【あさま山荘】に閉じこもった最年少の高校生が叫ぶ「どいつもこいつも勇気がなかったんだ」は、最高幹部二人が行った無意味なリンチ殺人を止められなかったことを指すと推測する。そうであれば、監督が遠山を始めそこで無念の死を遂げた12人に対する鎮魂の思いを込めた言葉になる(しかし、あの環境下では二人がいなければいないで他の誰かがほぼ同じことをやったにちがいない。人間とはそういう生き物だ)。
それ以外は事実を積み重ねた写実的描写で推移、序盤実際の記録フィルムを大量に使って連合赤軍成立までの背景と過程を説明し、徐々にバランスをドラマ部分に移していく辺りなかなか巧妙。191分間の長きに渡って緊張感を維持した71歳の馬力に脱帽させられる。
スターリン主義を批判していた二人が一番のスターリン主義者でした。
2007年日本映画 監督・若松孝二
ネタバレあり
1972年【あさま山荘事件】で耳目を騒がせた連合赤軍とその活動を描いた映画を観るのは、映画製作という二重構造形式でリンチに明け暮れたアジトでの活動を描いた「光の雨」、【あさま山荘】を官憲側から描いた「突入せよ!「あさま山荘」事件」に続いて三度目である。ピンク映画の巨匠(という形容がふさわしいかどうかその類の作品を見ていないので解らないが)若松孝二が後者に腹を立てて作ったとも聞く。
1960年の安保闘争に始まる日本の学生運動は次第に武力闘争を唱える過激派を生み出す。逮捕者が相次ぐ中残った共産主義者同盟赤軍派と日本共産党革命左派が合体して連合赤軍が成立、群馬県の榛名山などに籠って軍事教練を開始するが、思想の不徹底の者を「統括」の名の下に事実上の粛清、生き残った者のうち猟銃を携えた4名が【あさま山荘】を占拠する。
彼らの事件は、連合赤軍が絡んだ榛名、妙義、浅間に挟まれた西毛(群馬西部)に生まれ育った僕にとって、連続殺人の大久保清事件と共に、強く記憶に残っているものだが、全共闘世代より一回り近く年下なのでその時代の気分はちょっと解り難いものがあるし、その辺りの詳細についてはものの本などに当たるのが無難でござる。
左翼右翼は言うまでもなく、宗教を含めて、一つの思想が組織を生む時必然的に全体主義的になり、その思想から少しでも外れる者に対し差別的になり、暴力的になる。程度は低いが、学校などのコミュニティにおけるいじめもその点において何ら違いはなく、欲望に対する人間の弱さの反映である。本作を見るとかかる思いを強くせざるを得ない。
本作を見ている最中、途中で海外へ脱出する重信房子(伴杏里)に引きずられるように活動を本格化させ赤軍派の幹部になりながら榛名でリンチ殺人に付されてしまう遠山美枝子(坂井真紀)を事実上の主役にしていることが気になっていたが、二人は監督の取材を通しての知り合いだったそうで、特に遠山に関しては無残な死に方をしているだけに私情が加えられたある意味偏った扱いになっている。
連合赤軍結成前に逃亡しながら復帰し上位幹部が逮捕される流れの中で委員長に上り詰めてしまう森恒夫(地曳豪)と副委員長の永田洋子(並木愛枝)の描写に、連合赤軍自体には共感を覚えているはずの監督の私怨すら感じるのは錯覚だろうか。特に女性的魅力に欠ける永田が美人である遠山を常に見張っている姿を挿入、それを踏まえて「女であることを利用している」と総括を迫り、自分で自分を殴らせて美貌を化け物のように変えた挙句に鏡で自身の姿を見せる場面は永田のサディズムの強烈な発露としか思えない。映画からは解らないが、60年代に永田は妊娠できないと宣言されていたらしく、恐らくその辺りでねじれた性格が出来上がったのだろう。
故に、本作のメインテーマは【あさま山荘】ではなく【榛名ベースにおけるリンチ殺人】と思う。
【あさま山荘】に閉じこもった最年少の高校生が叫ぶ「どいつもこいつも勇気がなかったんだ」は、最高幹部二人が行った無意味なリンチ殺人を止められなかったことを指すと推測する。そうであれば、監督が遠山を始めそこで無念の死を遂げた12人に対する鎮魂の思いを込めた言葉になる(しかし、あの環境下では二人がいなければいないで他の誰かがほぼ同じことをやったにちがいない。人間とはそういう生き物だ)。
それ以外は事実を積み重ねた写実的描写で推移、序盤実際の記録フィルムを大量に使って連合赤軍成立までの背景と過程を説明し、徐々にバランスをドラマ部分に移していく辺りなかなか巧妙。191分間の長きに渡って緊張感を維持した71歳の馬力に脱帽させられる。
スターリン主義を批判していた二人が一番のスターリン主義者でした。
この記事へのコメント
(実質的には病気降板後を受けて阿部豊に)
「叛乱」を鑑賞しまして時と舞台は違えど
革命もの続きの先週でございました。
「叛乱」もなかなか見応えのあるいい作品
でしたが"これからの映画は性と暴力を
描けば客は入る"と豪語した若松孝二、71歳、
なかなか冷静な視線と適度な緊張感崩さず
よく最後まで撮り上げたと思いますね。
リンチ殺人の場面はほんと陰々滅滅な
空気感がドヨ~ンと画面から漂って来る来る。
私、ざるソバをパクついていたんですが
もうソバどころではなくなって・・・(--)
大久保清事件もこの時期とかぶるんですね~。
今は"大久保清って誰?"という時代ですね。
蠍座はきのうから「大阪の宿」
次は「女の暦」そして「殺人容疑者」
未見の邦画が続きます。「殺人~」に
影響を与えたダッシンの「裸の町」も
近い内にかけてくれるそうです。
楽しみにしています。
この事件の強烈な印象は,長らく頭から離れませんでした.
この映画を見たことでその拘りがいささかほどけた感じがします.
それは,この映画が作られそれを見ることが,死んだ人たちの鎮魂に繋がるのかも知れない,という気になったからです.
若い俳優達が良い演技をしていました.その点では名の通った俳優が名を連ねていた「光の雨」より良かった.
ではまた
マノエル・デ・オリヴェイラだけでなく、わが邦にも新藤兼人という人がいますので、「71歳くらい何ともないよ」と言いたいけれど、70を過ぎた頃から突然始まったわが父親の老いぼれぶりを見るにつけ、やはり個人差は凄く、こんな映画を作るのは「71歳にはつらいよ」かもしれませんね。
この映画は「光の雨」同様やはりリンチ場面に尽きます。
残酷だけど目を反らすことはできなかった。
時代が違ってもノンポリでいられる自信はありますけど、特に遠山美枝子なんて人はお嬢さん的な理想主義で活動に加わった感じがして、哀れでした。あそこへ行く前に自分の素質に気付いていたら・・・
ちょっと続きます。
僕らは若干遅れた世代とは言え、大学へ入った頃はまだ「三里塚」のちらしを配っている学生もいましたし、構内の壁には赤いスプレーで大きく檄が書かれていましたっけ。
>大久保清
もこっちの事件も地元だけに騒動が凄かったですよ。
大久保清の家などは通学途中で寄れば寄れるところにあったわけですし、榛名も妙義も浅間も小学校や中学校の旅行や遠足でよく行きますし。
>蠍座
渋い邦画がたくさんかかるんですね。
「殺人容疑者」はなかなか面白いサスペンスを作る鈴木英夫ね。
黒澤御大の「野良犬」も「裸の街」に影響された作品だべし。
ダッシンでは「街の野獣」も傑作なので、機会があればご覧になってください。
>鎮魂
僕は本作最年少の少年よりさらに3つ位若いので、時代の気分を肌で感じるほど年が行っていなかったのですが、映画からは作者の鎮魂の思いが伝わるようでした。
>若い俳優たち
良い演技をしていましたね。
重信房子役の伴杏里だけ些かぎこちない感じがありましたが。