映画評「JUNO/ジュノ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年アメリカ=カナダ映画 監督ジェースン・ライトマン
ネタバレあり
「サンキュー・スモーキング」で父親より優秀と思わせたジェースン・ライトマンの次作で、脚本を書いたディアブロ・コディーによる台詞が面白さに貢献しているように思われるものの、勿論殆どの日本人にはその面白さはほんの一端しか味わえない。
マルクス兄弟の昔からマシンガン・トークは翻訳まして字幕ではその問題に直面するわけだが、一般的な作品でさえ量的に三分の一の内容しか表現できないという厳しい条件がある以上、字幕翻訳家に文句を言っても始まらないケースが多い。本作で有名映画の題名によるSeabiscuitがただの「馬」になり、ジュール・ヴェルヌの有名小説の題名をもじったten-thousand leagues under the seaがそのまま「海底2万哩」なのは、文字制限や一般鑑賞者の知識・理解力を考えるとやむを得ない和訳である。仮に翻訳が原因で本作がアメリカにおける評価より低くなっていてもそれは仕方がない。どの国の映画も外国では同じ憂き目に遭っているはずだ。
言葉の問題はそれぐらいにしておいてお話に移りましょう。
本作の眼目は現在アメリカで問題になっているハイスクール女生徒の妊娠で、ヒロインであるエレン・ペイジ(ジュノ)嬢は16歳。特別に好きでもない近所の男子生徒マイケル・セラ君と一回肉体交渉をして妊娠してしまう。中絶を断念して里親を探した後両親にその旨を告げる。
勿論これがアメリカの平均的な若者像や家族像とは思わないが、16歳の少女が親にも相談しないで里親を決めたり、妊娠やその後の判断に対して両親が大して驚かなかったりと、少なくとも日本の映像作家が少女の妊娠に対してまずは為しえないドライなアプローチで作っているのが大変興味深い。
そうした部分にリアリティのなさを感じるムキもあるようだが、僕は寧ろ、少女の妊娠自体は泉に投げ込まれる石のようなもので、最終的に彼女が態度を決めるまでの過程において様々な人々と接触することで成長する少女の様子を描きつつ男女関係の本質を浮び上らせるのが本作の狙いではないかという気がしている。
その中で特にキーとなる人物は里親になるはずのジェースン・ベイトマンとジェニファー・ガーナーの若い夫婦で、いざという段階でベイトマン青年は子供的なエゴをむき出しにして離婚を決意、サブカルチャーの趣味が抜群に合ったエレンもこれには呆れ返り、淡々とした態度を維持しているセラ君の魅力に気付いていく。
さらに父親と二番目の妻(ジュノの継母)の関係も絶妙のバランスにあるわけで、本作においては男性の度量が男女関係を上手く成立させるか長続きさせるかを決定するようであるが、この辺り脚本家が女性という事実を強く感じさせ、なかなか面白い。
ジュノがフードを被っているショットがあるが、作者はエレン嬢の出世作「ハード キャンディ」を意識しているのかな?
2007年アメリカ=カナダ映画 監督ジェースン・ライトマン
ネタバレあり
「サンキュー・スモーキング」で父親より優秀と思わせたジェースン・ライトマンの次作で、脚本を書いたディアブロ・コディーによる台詞が面白さに貢献しているように思われるものの、勿論殆どの日本人にはその面白さはほんの一端しか味わえない。
マルクス兄弟の昔からマシンガン・トークは翻訳まして字幕ではその問題に直面するわけだが、一般的な作品でさえ量的に三分の一の内容しか表現できないという厳しい条件がある以上、字幕翻訳家に文句を言っても始まらないケースが多い。本作で有名映画の題名によるSeabiscuitがただの「馬」になり、ジュール・ヴェルヌの有名小説の題名をもじったten-thousand leagues under the seaがそのまま「海底2万哩」なのは、文字制限や一般鑑賞者の知識・理解力を考えるとやむを得ない和訳である。仮に翻訳が原因で本作がアメリカにおける評価より低くなっていてもそれは仕方がない。どの国の映画も外国では同じ憂き目に遭っているはずだ。
言葉の問題はそれぐらいにしておいてお話に移りましょう。
本作の眼目は現在アメリカで問題になっているハイスクール女生徒の妊娠で、ヒロインであるエレン・ペイジ(ジュノ)嬢は16歳。特別に好きでもない近所の男子生徒マイケル・セラ君と一回肉体交渉をして妊娠してしまう。中絶を断念して里親を探した後両親にその旨を告げる。
勿論これがアメリカの平均的な若者像や家族像とは思わないが、16歳の少女が親にも相談しないで里親を決めたり、妊娠やその後の判断に対して両親が大して驚かなかったりと、少なくとも日本の映像作家が少女の妊娠に対してまずは為しえないドライなアプローチで作っているのが大変興味深い。
そうした部分にリアリティのなさを感じるムキもあるようだが、僕は寧ろ、少女の妊娠自体は泉に投げ込まれる石のようなもので、最終的に彼女が態度を決めるまでの過程において様々な人々と接触することで成長する少女の様子を描きつつ男女関係の本質を浮び上らせるのが本作の狙いではないかという気がしている。
その中で特にキーとなる人物は里親になるはずのジェースン・ベイトマンとジェニファー・ガーナーの若い夫婦で、いざという段階でベイトマン青年は子供的なエゴをむき出しにして離婚を決意、サブカルチャーの趣味が抜群に合ったエレンもこれには呆れ返り、淡々とした態度を維持しているセラ君の魅力に気付いていく。
さらに父親と二番目の妻(ジュノの継母)の関係も絶妙のバランスにあるわけで、本作においては男性の度量が男女関係を上手く成立させるか長続きさせるかを決定するようであるが、この辺り脚本家が女性という事実を強く感じさせ、なかなか面白い。
ジュノがフードを被っているショットがあるが、作者はエレン嬢の出世作「ハード キャンディ」を意識しているのかな?
この記事へのコメント
言われるように妊娠そのものは泉に投げ込まれた石で、ジュノの前向きな姿とか、家族とか、男女の関係とかといったものが真面目に描かれていて、とても好感をもてました。
ジュノの姿勢とかに脚本家の逞しき人生が垣間見える作品でもありました。
家のリフォームで帰宅してから毎晩片付けとか整理とかで映画もブログもご無沙汰で少々お疲れモードのシュエットです。
16歳という比較的現実味のある年齢ということもあるでしょうが、日本で同じような題材を扱うと、もっと陰湿的かつ説教臭いお話しになると思いますね。
>脚本家
色々なブログで脚本家自身が話題になっているようですね。
>お疲れモード
僕は飲食できるものが限られて凹んでいます。映画を見ると元気づきますが、その後拷問が待っています(笑)。
無言TB失礼いたしました。
ジュノがしっかりしてて、今時の女の子って感じがしなかったんですけど、
アメリカのティーンはこんなにさめてるんですかねぇ。(笑)
脚本家が話題になってまして、ブログを持ってるとか。
全編に渡ってセリフがとても面白いと思いましたね。表現というか・・・
お母さんとジュノの関係もとてもよかったし、ジェニファー・ガーナーも今回とても魅力ある女優さんだなあと再認識。
女が強い映画でしたね(笑)
ジュノを演じたエレン・ペイジがぴたりとはまってました。
音楽のセンスもとってもよかったです。
現在日本の若者が世界の先進国の中でも、一番将来のことを考えないんだそうですね。
高校生が現在付き合っている恋人と将来結婚すると考える割合がアメリカは70%、日本は30%。
などということを考えると、この映画が描いていることは案外実際に近いかもしれませんね。
>セリフ
僕はWOWOWで英語を聞きながら字幕という鑑賞スタイルでしたが、どうしてもオリジナルに比べると情報量が少なくて、字幕翻訳家の苦心に思いを馳せていました。
それでも結構伝わってきましたけどね、凝った言い回しが多いのでどうしても限界を感じました。
>女が強い
脚本家が女性なので、そういう傾向がありますね。
監督は男性なのでやりにくいところがあったでしょうが。(笑)
ジュノという子の個性で、楽しく見ることができました。
最後に、元彼(とまでは行ってない?)と、ほんとのカップルになるのは良かったですよね。彼女が、ちゃんと気づいてくれて。
必ずしもリアリズムの映画ではないことは、冒頭がアニメ風に始まっていることから解りますが、かと言って最近の邦画大作みたいに全くの絵空事とは一線を画した作りで、なかなか面白かったですね。
>ジュノという子の個性
アメリカには実際にいそうだなあ。