映画評「グーグーだって猫である」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・犬童一心
ネタバレあり
犬童一心監督のメイン・テーマは老いと死である。本作を見続けているうちに自分を若者と思い込んだ老人が少女に恋をする旧作「金髪の草原」と重なる部分が相当にあるので、調べてみたら「金髪」も本作も女性漫画家・大島弓子のコミックを原作としていました。
13年間共に過ごしてきた雌猫サバの死に落ち込んで新作の書けなくなった有名漫画家・小泉今日子が遂に決心して雄猫を買い、グーグーと名付ける。因みに、僕には彼女の出題する名前の由来がピンと来た。
可愛らしいグーグーもやがて雄の本能を発揮して白い雌猫を追いかけ始めて行方不明になり、探す彼女はグーグーを発見した年下の青年・加瀬亮に胸をときめかせ、逢瀬を重ねる。と言ってもロマンティックな場面などありはしないのだが、彼のほうもまんざらではないらしい。元気付いた彼女は物凄いスピードで年を取る少女を主人公にした新作の構想を得、その為に老人シュミレーション装置を付けて街を闊歩したりする。その一方で、彼女はグーグーに去勢手術を施すことを決心する。
この辺りから映画は死と生に絡む挿話が増えて来る。例えば、グーグーの生殖機能を奪うことは、彼女が老人体験中に街で倒れて判明したガンの為に子宮を奪われてしまうという展開への事前の暗示である。アシスタントの一人上野樹理が一人で奮闘するファン組織「21世紀の会」の、才能を継ぐ実子を後継者とする目論見もこれで水泡に帰す。
鬱に陥った小泉嬢の夢枕に死神(舞台となる吉祥寺を紹介する外国人の英語学校教師)が現れ、親切にも人間の姿をしたサバと逢わせてくれ、二人は親密に会話を交わす。これを契機に彼女は元気を取り戻し、新作の中のヒロインに老いの中に再生する予感を抱かせる。かくしてサバへの思いは払拭され、グーグーは名実共に彼女の新しい伴侶となる。
新作マンガの着想は猫の寿命が人間よりぐっと短いこと、即ち時間が早く過ぎ去ることを人間に当てはめたもので、いつか飼い主の年齢を超えてしまう愛猫に寄せる幕切れの言葉は言外にヒロイン自身が余生の長さを意識したものとして印象深い。
ずっと上野嬢の視点により進められていたのに彼女が渡米してしまったので終盤は主人公自身の視点に変わるなど、かなりとりとめのない構成ではあるが、老いと死の要素をちりばめながら、一人の女性の再生が一応きちんと描かれている。但し、犬童監督のいつもの悪い癖でファンタジー色とセミ・ドキュメンタリー的なタッチが一緒くたになって一貫性がなく、居心地が悪い為に星が伸びにくい。
と言いつつ☆3つを進呈。入院して「死」がかなり現実感を伴うようになったせいか、退院後の僕は全般的に評価が甘いような気がする。況や、老いと死の絡んだ作品をや。
吾輩だって病人である
2008年日本映画 監督・犬童一心
ネタバレあり
犬童一心監督のメイン・テーマは老いと死である。本作を見続けているうちに自分を若者と思い込んだ老人が少女に恋をする旧作「金髪の草原」と重なる部分が相当にあるので、調べてみたら「金髪」も本作も女性漫画家・大島弓子のコミックを原作としていました。
13年間共に過ごしてきた雌猫サバの死に落ち込んで新作の書けなくなった有名漫画家・小泉今日子が遂に決心して雄猫を買い、グーグーと名付ける。因みに、僕には彼女の出題する名前の由来がピンと来た。
可愛らしいグーグーもやがて雄の本能を発揮して白い雌猫を追いかけ始めて行方不明になり、探す彼女はグーグーを発見した年下の青年・加瀬亮に胸をときめかせ、逢瀬を重ねる。と言ってもロマンティックな場面などありはしないのだが、彼のほうもまんざらではないらしい。元気付いた彼女は物凄いスピードで年を取る少女を主人公にした新作の構想を得、その為に老人シュミレーション装置を付けて街を闊歩したりする。その一方で、彼女はグーグーに去勢手術を施すことを決心する。
この辺りから映画は死と生に絡む挿話が増えて来る。例えば、グーグーの生殖機能を奪うことは、彼女が老人体験中に街で倒れて判明したガンの為に子宮を奪われてしまうという展開への事前の暗示である。アシスタントの一人上野樹理が一人で奮闘するファン組織「21世紀の会」の、才能を継ぐ実子を後継者とする目論見もこれで水泡に帰す。
鬱に陥った小泉嬢の夢枕に死神(舞台となる吉祥寺を紹介する外国人の英語学校教師)が現れ、親切にも人間の姿をしたサバと逢わせてくれ、二人は親密に会話を交わす。これを契機に彼女は元気を取り戻し、新作の中のヒロインに老いの中に再生する予感を抱かせる。かくしてサバへの思いは払拭され、グーグーは名実共に彼女の新しい伴侶となる。
新作マンガの着想は猫の寿命が人間よりぐっと短いこと、即ち時間が早く過ぎ去ることを人間に当てはめたもので、いつか飼い主の年齢を超えてしまう愛猫に寄せる幕切れの言葉は言外にヒロイン自身が余生の長さを意識したものとして印象深い。
ずっと上野嬢の視点により進められていたのに彼女が渡米してしまったので終盤は主人公自身の視点に変わるなど、かなりとりとめのない構成ではあるが、老いと死の要素をちりばめながら、一人の女性の再生が一応きちんと描かれている。但し、犬童監督のいつもの悪い癖でファンタジー色とセミ・ドキュメンタリー的なタッチが一緒くたになって一貫性がなく、居心地が悪い為に星が伸びにくい。
と言いつつ☆3つを進呈。入院して「死」がかなり現実感を伴うようになったせいか、退院後の僕は全般的に評価が甘いような気がする。況や、老いと死の絡んだ作品をや。
吾輩だって病人である
この記事へのコメント
退院なさってからも精力的に更新されていてただただ尊敬!
これはほんとに不思議な映画でした。このとりとめのなさが犬童ワールドなのか、はたまた大島弓子のエッセイのテイストなのか・・・
観てから結構時間が経つけれど、意外に好きな作品です。
僕の場合は、シュエットさんの仰るように、映画を見て書くことがリハビリなのかもです。^^
膵炎というのは実に厄介な病気ですが、平時はごく安穏ですので、映画を見るには本当に適した病気です(笑)。
集中力も多少戻ってきました。文章は相変わらず手詰まりですが。^^;
エッセイ的なとりとめのなさはまあ良しとしますが、本作に限らず犬童監督の癖で、ファンタジーとリアリズムの混在が僕はどうにも気になるのです。