映画評「ダークナイト」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督クリストファー・ノーラン
ネタバレあり
「バットマン・ビギンズ」の続編で、監督もクリストファー・ノーランの続投。「スパイダーマン3」に似た【主人公クヨクヨ型】に仕立てられているが、映画としての手応えは同作を圧倒する。
有無を言わせぬ手法でマネー・ロンダリングにあくせくしているマフィアの連中を掌握した悪漢ジョーカー(ヒース・レジャー)が、犯罪を減らすことを使命と考えている地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)の正義感を粉砕しようと、検事の恋人である女性検事補レイチェル(マギー・ギレンホール)を使って罠を仕掛ける。その為に自ら逮捕・拘留され、その間にスパイを使って作戦を敢行。まんまと術中に嵌ったデントは復讐の鬼になった挙句に死亡するが、ブルース・ウェインことバットマン(クリスチャン・ベイル)は、デントを市民の光として保つ為に彼の犯した殺害を自らの犯行として新市警本部長(ゲイリー・オールドマン)に発表させ、官憲に追われる身となる。
序盤から狙いは明確で、バットマンに二つの顔があるのは言うまでもなく、ウェインが業務提携の話をしていた香港の実業家も実はマフィアの顔を持つ。この二組の対峙により本作のモチーフが人間の二面性・多面性にあることが解るように設計され、暫く通奏低音的に進んだ後遂にデントの暴走により主旋律になる。思うに、世間で言われるように善悪の対立ではなく、人間に善悪両面のあることを前提とした上で、英雄は多面性の中に高潔さを保ちえるのかを描こうとしたのではあるまいか。
「スパイダーマン3」が僕にとってダメだったのは、文学的なテーマ性を持たせながらジャンル映画の枠に拘る部分が見え、にもかかわらず主人公はともかく悪役までクヨクヨめそめそするところが(記号としての意味は別にして)馴染めず、主題と作劇にちぐはぐさを覚えたからだが、その点本作には全ての面で馬力があり、ジャンル映画云々などと言わせる隙がない。とりわけ悪役ジョーカーに弱々しさがなくて次々と多彩な陰謀を繰り出し、強力なサスペンスを生み出しているところを高く評価したい。
その悪役ジョーカーの繰り出す悪計の中でも一番興味をそそられるのは、爆発物を仕掛けられた二つのフェリーで乗組員が一方を爆破すれば自らは助けられるというアイデア。悪魔的なジョーカーである、本当にその文言通りに進む手筈だったのだろうか。案外スイッチを入れたら自らのフェリーが爆破するのではないのか。その通りなら人間は自らの弱さで身を滅ぼすことになる。サスペンスを感じるより先に僕はそんなことを考えていた。
一つ不満があるとしたら、アクション場面に解りにくいカット割りが何カ所かあったことくらい。
配役面でも遺作となったヒース・レジャーを筆頭に好演揃い。世間で全く評判の悪いマギー・ギレンホールは美人過ぎないところに検事補らしい感じがよく出ている。
善人も悪人になりうるという古色蒼然のお話じゃあない。
2008年アメリカ映画 監督クリストファー・ノーラン
ネタバレあり
「バットマン・ビギンズ」の続編で、監督もクリストファー・ノーランの続投。「スパイダーマン3」に似た【主人公クヨクヨ型】に仕立てられているが、映画としての手応えは同作を圧倒する。
有無を言わせぬ手法でマネー・ロンダリングにあくせくしているマフィアの連中を掌握した悪漢ジョーカー(ヒース・レジャー)が、犯罪を減らすことを使命と考えている地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)の正義感を粉砕しようと、検事の恋人である女性検事補レイチェル(マギー・ギレンホール)を使って罠を仕掛ける。その為に自ら逮捕・拘留され、その間にスパイを使って作戦を敢行。まんまと術中に嵌ったデントは復讐の鬼になった挙句に死亡するが、ブルース・ウェインことバットマン(クリスチャン・ベイル)は、デントを市民の光として保つ為に彼の犯した殺害を自らの犯行として新市警本部長(ゲイリー・オールドマン)に発表させ、官憲に追われる身となる。
序盤から狙いは明確で、バットマンに二つの顔があるのは言うまでもなく、ウェインが業務提携の話をしていた香港の実業家も実はマフィアの顔を持つ。この二組の対峙により本作のモチーフが人間の二面性・多面性にあることが解るように設計され、暫く通奏低音的に進んだ後遂にデントの暴走により主旋律になる。思うに、世間で言われるように善悪の対立ではなく、人間に善悪両面のあることを前提とした上で、英雄は多面性の中に高潔さを保ちえるのかを描こうとしたのではあるまいか。
「スパイダーマン3」が僕にとってダメだったのは、文学的なテーマ性を持たせながらジャンル映画の枠に拘る部分が見え、にもかかわらず主人公はともかく悪役までクヨクヨめそめそするところが(記号としての意味は別にして)馴染めず、主題と作劇にちぐはぐさを覚えたからだが、その点本作には全ての面で馬力があり、ジャンル映画云々などと言わせる隙がない。とりわけ悪役ジョーカーに弱々しさがなくて次々と多彩な陰謀を繰り出し、強力なサスペンスを生み出しているところを高く評価したい。
その悪役ジョーカーの繰り出す悪計の中でも一番興味をそそられるのは、爆発物を仕掛けられた二つのフェリーで乗組員が一方を爆破すれば自らは助けられるというアイデア。悪魔的なジョーカーである、本当にその文言通りに進む手筈だったのだろうか。案外スイッチを入れたら自らのフェリーが爆破するのではないのか。その通りなら人間は自らの弱さで身を滅ぼすことになる。サスペンスを感じるより先に僕はそんなことを考えていた。
一つ不満があるとしたら、アクション場面に解りにくいカット割りが何カ所かあったことくらい。
配役面でも遺作となったヒース・レジャーを筆頭に好演揃い。世間で全く評判の悪いマギー・ギレンホールは美人過ぎないところに検事補らしい感じがよく出ている。
善人も悪人になりうるという古色蒼然のお話じゃあない。
この記事へのコメント
この評判高き作品を、どうご覧になったのか興味がありましたが、やはり、いい感想ですね。
船のシーン、私も、押したほうが爆発するかも、と思っていました。それを見て、あざ笑って喜びそうですよね、ジョーカーは。
大きな枠の中では「スパイダーマン3」と同工異曲と言っても良い内容ですが、サスペンスが強力で、あの作品で感じた不満は全くなかったですね。
悪役は徹底して憎らしいほど良いということですよ。^^
>船のシーン
その前の検事・検事補爆破でも話と逆でしたから、多分そうなんですね。
全く憎らしい奴じゃ。^^
「バットマン・ビギンズ」以降、クリスチャン・ベールは色々な作品で見かけますが、トビー・マグワイヤは「スパイダーマン」以外では見かけませんね。
両シリーズの質の差が主演俳優に対するオファーの差に比例しているような気がします。
T・マグワイヤは「スパイダーマン3」の高いギャラのおかげで働く必要がないだけかもしれませんが・・・^^
>C・ベール、T・マグワイヤ
なるほど、そういう見方もできるかもしれませんね。
ハリウッドはとにかくキャスト、一部スタッフへのギャラが高すぎます。
これはボリュームがありましたね~~。
一度しか観ていないのに、いまだに映像がくっきりと目に焼きついてます。
船のエピソードはそのような見方ありですね。
ヒース・レジャーのジョーカー強烈でしたが、わたしはクリスチャン・ベールのバ声色にたびたび笑ってしまいそうに・・・(^^;)
勿論哲学的な重いテーマもそれだけでは意味をなさず、結局この類の作品はサスペンスにヒヤヒヤしながら楽しめて初めてテーマが生かされるわけですが、本作は文句なし。
撮影も断然素晴らしいですね。
>C・ベールのバ声色にたびたび
???
あ、バ声色って・・・
バはいりません(汗)
バットマンになると、妙に作ったような声になるなあと感じておりました。
なるほど。
バットマン云々と書こうとして止めた時にバだけが残ってしまったのですね。
そうか、作ったような声かあ。
黒澤久雄(明の息子)の「若者たち」の歌声を聴くと、笑ってしまうのと似ていますかね?(笑)