映画評「石の微笑」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2004年フランス=ドイツ映画 監督クロード・シャブロル
ネタバレあり
美容師オーロール・クレマンの息子ブノワ・マジメルが、上の妹ソレーヌ・ブトンの結婚式で付添いを務めた新郎の従妹ローラ・スメットに惹かれて、彼を運命の人と決めつける彼女の強引な誘いに応じてそのまま懇ろになる。が、彼女は常軌を逸していて、愛を確認する為の四つの条件を出す。その中に「人を殺すこと」という物騒なのがあって彼は吃驚、新聞で見たホームレス殺人事件を自分の犯行として告げて彼女を満足させるが、彼の安心は長続きしない。
以前「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」でも取り組んだことのある英国のミステリー作家ルース・レンデルのミステリーをクロード・シャブロルが映画化した作品だが、ミステリー指向と言いながら初期の「二重の鍵」からシャブロルの関心は謎解きや本格的サスペンスではなく、心理サスペンスにある。
それ自体は大いに結構なのだが、本論に入る前、妹二人のTV視聴をさまたげる主人公のさりげない人格描写に始まり、彼が石像の頭部を偏愛し、それがローラ嬢に似ているといった布石を丹念に積み重ねるうちに55分も経ってしまう。勿論計算された構図により緊密度高く描写されるので緊張感は維持されるが、心理サスペンスとは言え、サスペンスのきっかけが本格的に与えられるまで開巻後55分も待たされるのでは些かバランス的に問題ありと感じさせる。
一方、本作製作時74歳だったシャブロルの映画的感覚の良さは、横移動撮影のタイトルバックから本編に入っていく辺りに現れ、年を取ってもこういう才能は変わらない。地下のある建物の空間的把握も相変わらず優れている。
お話はファム・ファタール(運命の女=悪女)ものの一種だが、実は巻き込まれる主人公のほうにも偏執症的なところがあるので、単純に気の毒がる必要もなく、彼女がそうした異常心理を抱くに至る背景を想像するうちに寧ろ彼女に対して同情心が起きて来ないでもない。ドラマとして感興を催させる要素であるが、同時に、そこに本作の心理サスペンスとしての限界も感じられる。
マジメルを筆頭に配役陣は好調。新人ローラ・スメットはナタリー・バイの娘だそうで、「緑色の部屋」で母親を初めて本格的に観た時の不思議な魅力を思い起こさせる。目付きが似ている。オーロール・クレマンは「ルシアンの青春」から30年くらい経っているが、当時の容姿をほぼそのまま留めていることに大いに感銘させられた。
僕の体験によれば、医師の微笑のほうが不気味ですな。
2004年フランス=ドイツ映画 監督クロード・シャブロル
ネタバレあり
美容師オーロール・クレマンの息子ブノワ・マジメルが、上の妹ソレーヌ・ブトンの結婚式で付添いを務めた新郎の従妹ローラ・スメットに惹かれて、彼を運命の人と決めつける彼女の強引な誘いに応じてそのまま懇ろになる。が、彼女は常軌を逸していて、愛を確認する為の四つの条件を出す。その中に「人を殺すこと」という物騒なのがあって彼は吃驚、新聞で見たホームレス殺人事件を自分の犯行として告げて彼女を満足させるが、彼の安心は長続きしない。
以前「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」でも取り組んだことのある英国のミステリー作家ルース・レンデルのミステリーをクロード・シャブロルが映画化した作品だが、ミステリー指向と言いながら初期の「二重の鍵」からシャブロルの関心は謎解きや本格的サスペンスではなく、心理サスペンスにある。
それ自体は大いに結構なのだが、本論に入る前、妹二人のTV視聴をさまたげる主人公のさりげない人格描写に始まり、彼が石像の頭部を偏愛し、それがローラ嬢に似ているといった布石を丹念に積み重ねるうちに55分も経ってしまう。勿論計算された構図により緊密度高く描写されるので緊張感は維持されるが、心理サスペンスとは言え、サスペンスのきっかけが本格的に与えられるまで開巻後55分も待たされるのでは些かバランス的に問題ありと感じさせる。
一方、本作製作時74歳だったシャブロルの映画的感覚の良さは、横移動撮影のタイトルバックから本編に入っていく辺りに現れ、年を取ってもこういう才能は変わらない。地下のある建物の空間的把握も相変わらず優れている。
お話はファム・ファタール(運命の女=悪女)ものの一種だが、実は巻き込まれる主人公のほうにも偏執症的なところがあるので、単純に気の毒がる必要もなく、彼女がそうした異常心理を抱くに至る背景を想像するうちに寧ろ彼女に対して同情心が起きて来ないでもない。ドラマとして感興を催させる要素であるが、同時に、そこに本作の心理サスペンスとしての限界も感じられる。
マジメルを筆頭に配役陣は好調。新人ローラ・スメットはナタリー・バイの娘だそうで、「緑色の部屋」で母親を初めて本格的に観た時の不思議な魅力を思い起こさせる。目付きが似ている。オーロール・クレマンは「ルシアンの青春」から30年くらい経っているが、当時の容姿をほぼそのまま留めていることに大いに感銘させられた。
僕の体験によれば、医師の微笑のほうが不気味ですな。
この記事へのコメント
どうもね、フランス映画のこの手の作品となると、P様とは微妙に評価がずれてしまいますね。
でもシャブロル監督の作品って、サスペンスなんだけれど、ちょっと詰まらないようなところってありません?(笑)
でもこの作品の主演の二人の醸し出す空気は良かったわ。動かなくって止まっていて、でも淀んだような重さがなくって…こういう空気の描き方ってフランス映画はうまいなぁって思う。
心理サスペンスといえばそうなんだけど、私は二人の内面に寄り添ってみていたから最後は哀しくって…。
>新人ローラ・スメットはナタリー・バイの娘だそうで
母親とは違って肉感的で…でもご指摘のように目の雰囲気は同じですよね。P様の指摘で気がつきました。ナタリー・バイのちょっと普通じゃない雰囲気の目をしてますものね。トムさんがここんとこナタリー・バイにぞっこんだったっけ。
>一人だけがお邪魔状態
そうなんですよ。TT
一時期9作品連続ノーコメント状態が続いたのですが、シュエットさんがその間を埋めてくれました。<(_ _)>
>フランス映画・・・微妙に評価がずれて
ずれる理由がはっきりしているから、良いですよ。
一言で言えば、映像表現としては評価できるけれど、観ていて「次はどうなるか」というサスペンスを連続的に感じさせてくれないんですよね。
これは僕にとってはネックだなあ。
シュエットさんは登場人物の内面を深く追究するから、こういう作品は面白いのではないかと事前に予想できました。^^
>ナタリー・バイ
ちょっと面白い女優で、印象が薄いようで結構残ったりしますね。
僕はやはり「緑色の部屋」の彼女がお気に入りです。
>トムさん
ちょっと忙しいみたいでご無沙汰。
尤もこちらも全然出かけていませんや。(笑)