映画評「告発のとき」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督ポール・ハギス
ネタバレあり
大評判だったポール・ハギスの「クラッシュ」は過大評価をされてはいまいかと思う僕には、彼の作品としては時系列操作に頼らずに作った本作の方が手応えがあるくらい。
元軍警察のトミー・リー・ジョーンズがイラクから帰還したばかりの息子ジョナサン・タッカーが無許可離隊したと聞いて、「信じられぬ」と捜し始める。やがて息子はバラバラ焼死体で発見され、発見場所が軍所有地につき一度は退いた地元警察の美人刑事シャーリーズ・セロンが、犯行現場が一般の土地と判明した為再び捜査に乗り出し男性社会の中で孤軍奮闘するも、軍の協力が得られず兵士からの事情聴取がままならない。優秀な捜査官だったジョーンズが軍人たちの立ち寄るストリップバーで得た情報を元に彼女が捜査を進めて真相に接近する一方で、ジョーンズは残された映像や写真から、派兵後から殺害に至るまでの息子の心理を把握し、絶望に陥る。
お話の進め方はハードボイルド小説に則っているような感じで、ミステリーとしても楽しめるように作られているが、勿論ハギスの狙いは単なる謎解きではなく、謎の解明を通して浮き彫りにされるイラクに派兵された米国兵の悲惨な現状をテーマの一環として示すことである。もう少し具体的に言えば、軍規を守ることがイラク人の悲劇に直結し、その現実から逃避する為に兵士たちは奇行に走る。加害者も一つ間違えば被害者になるような神経衰弱の渦の中にある、というのである。
しかし、ハギスは帰還兵に留まらず、そうした重い後遺症が実はアメリカ社会全体に及んでいて、アメリカは今助けを求めている、と主張する。それを端的に示すのがジョーンズが星条旗を逆さにして掲揚(国家的SOSの意味)する幕切れ・・・というわけで、謎解きが進むほど過去に遡るという展開ではあるが、「クラッシュ」と比べれば実にシンプルな構成でありながら、アメリカという国の現状を憂えた内容は実に重い。
タイトルは「憂国のとき」の間違いでしょ。
2007年アメリカ映画 監督ポール・ハギス
ネタバレあり
大評判だったポール・ハギスの「クラッシュ」は過大評価をされてはいまいかと思う僕には、彼の作品としては時系列操作に頼らずに作った本作の方が手応えがあるくらい。
元軍警察のトミー・リー・ジョーンズがイラクから帰還したばかりの息子ジョナサン・タッカーが無許可離隊したと聞いて、「信じられぬ」と捜し始める。やがて息子はバラバラ焼死体で発見され、発見場所が軍所有地につき一度は退いた地元警察の美人刑事シャーリーズ・セロンが、犯行現場が一般の土地と判明した為再び捜査に乗り出し男性社会の中で孤軍奮闘するも、軍の協力が得られず兵士からの事情聴取がままならない。優秀な捜査官だったジョーンズが軍人たちの立ち寄るストリップバーで得た情報を元に彼女が捜査を進めて真相に接近する一方で、ジョーンズは残された映像や写真から、派兵後から殺害に至るまでの息子の心理を把握し、絶望に陥る。
お話の進め方はハードボイルド小説に則っているような感じで、ミステリーとしても楽しめるように作られているが、勿論ハギスの狙いは単なる謎解きではなく、謎の解明を通して浮き彫りにされるイラクに派兵された米国兵の悲惨な現状をテーマの一環として示すことである。もう少し具体的に言えば、軍規を守ることがイラク人の悲劇に直結し、その現実から逃避する為に兵士たちは奇行に走る。加害者も一つ間違えば被害者になるような神経衰弱の渦の中にある、というのである。
しかし、ハギスは帰還兵に留まらず、そうした重い後遺症が実はアメリカ社会全体に及んでいて、アメリカは今助けを求めている、と主張する。それを端的に示すのがジョーンズが星条旗を逆さにして掲揚(国家的SOSの意味)する幕切れ・・・というわけで、謎解きが進むほど過去に遡るという展開ではあるが、「クラッシュ」と比べれば実にシンプルな構成でありながら、アメリカという国の現状を憂えた内容は実に重い。
タイトルは「憂国のとき」の間違いでしょ。
この記事へのコメント
リフォーム中で映画にも集中できずちょっとの間お休みを頂戴してますけれどオカピーさんところで映画お喋りさせていただきますね。
>タイトルは「憂国のとき」の間違いでしょ。
いかにも。ただ、アメリカ人は、彼らは憂うる前に次の行動を考えるタイプではないかしらね。日本人みたいに「憂い」という感覚に美学を見出すのも時には考え物だけど…。
>星条旗を逆さにして掲揚(国家的SOSの意味)する幕切れ
私、このシーンみていて、彼らにとって国旗というのはとても重い存在、意味を有するもの、本当の意味で彼らの象徴的な存在としてあるんだなって思いました。アメリカ国歌と星条旗とアメリカ国民。アメリカは3つがきちんと絆で繋がっているんだなって思いました。日本はどこかで日の丸を利用して穢してしまったわ。
>ハギスは帰還兵に留まらず、そうした重い後遺症が実はアメリカ社会全体に及んでいて、アメリカは今助けを求めている、と主張する
第一次大戦で軍事産業で儲け力をつけてきたアメリカの野望はベトナム戦争からスタートしたんでしょうね。以降、徴兵制度がなくなり、戦争が民営化され、イラクはゴールドラッシュだといわれるほどに戦争に突き進んでいるアメリカ。
ロバート・レッドフォードの「大いなる陰謀」、アンダーソン監督の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」、コーエン兄弟の「ノーカントリー」 アメリカの憂国を描いた作品が次々と上映されたのも印象的でした。
コメントの文字制限が500字から800字までに拡張されたので、随分書けるでしょ。書き込みが少し楽になりましたね。^^
>タイトル
配給会社の人は、ハギスが告発していると考えたのでしょうけど、問題の提示こそすれ告発といったアクティヴな提示の仕方ではなく、浮かび上がるのは主人公同様ハギスの国への思いですよね。内容把握を間違えているような気がする。
いずれにしても、内容ではなく作者の心境に傾いて付けられた邦題というのは珍しい・・・でしょ?
>国旗
僕は他の日本人以上に国旗や国歌への思いもなく、それでもオリンピックなどの国際的な大会で日の丸が揚がると嬉しくなる程度の愛国者ですが、大リーグで毎試合国歌が歌われるのを見る(聴く)と、シュエットさんの仰る通りだなあと思いますね。ただ、大リーグの選手の半分近くがアメリカ人ではないのでちょっと複雑な心境にもなりますけど。
>アメリカの野望
第1次大戦以降表立って帝国主義的だったことはないと思っているアメリカですが、勿論裏では軍事産業だったり石油産業だったり色々と思惑があったわけで、その辺りの事情を知るアメリカ国民にはジレンマがあるような気がしますね。
>「ノーカントリー」
気分的に一番近い作品でしょうね。
でも、世間の評判とは違って「告発のとき」のほうが手応えがありました。
単純なほうが好きということもありますかね。^^;
>「憂国のとき」
正にピッタリですね。
>内容ではなく作者の心境に傾いて付けられた邦題
そんなことをされては困ります。^^;
大分ピント外れの邦題でしたね。
配給会社の人は、ハギスがこういうことがイラクで、或いはアメリカで起きているのだと告発しているように感じたのかもしれませんが、僕らが感じるのは主人公の絶望、ひいては作者の国を憂える思いですよね。