映画評「きみの友だち」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・廣木隆一
ネタバレあり
廣木隆一は「ヴァイブレータ」で注目した時の印象のように、本質的にはセミドキュメンタリー・タイプの作家なのだろう。男性版「二十四の瞳」である「機関車先生」は終始スケッチ的なタッチが強いドラマ性と合わずに余り買えなかったが、友情をテーマにした直木賞作家・重松清の同名連作小説集を映画化したこの群像劇は、時にタッチに違和感を覚える瞬間があるものの、前述作よりは大分合っている気がする。
若いジャーナリストの中原(福士誠治)が、フリースクールに取材に赴いて知り合った20歳のボランティア恵美(石橋杏奈)から小学4年生の時に知り合った“友達”について話を聞く。小学生の頃に遭った交通事故で松葉得杖を手放せなくなった彼女はその為に孤立し、腎臓の病気で運動が出来ず同じように孤立する由香と仲良くなっていくのだが、その経緯が誠に素晴らしい。以下の如し。
由香が余りに愚図なのに怒った恵美が、雨の日傘を差した由香を目指して走った時に遭った事故について「足が悪くなったのは由香ちゃんのせいでもあるんだよ」と逆恨み的な言葉を吐く。由香は彼女が去った後涙を流す。この涙の訳は何か。翌日、由香ちゃんは大きな傘を持って現れる。彼女は責められたので泣いたのではなく、自分の為に足を悪くした恵美ちゃんを思って泣いたのである。僕は、彼女が笑顔で傘を差して待っている場面に「世の中にはこれほど他人のことを思える人がいるのだろうか」と全く感銘するほかなかった。
友情の機微を優しい視点で描くという本作のテーマと基調がここに集約されていると言っても良く、色々と出て来る他のエピソードもこれには到底及ばない。後半彼女が初めて高校に登校する時にかつて由香が傘を持って立っていた家の前に目をやる。この何の説明もないさりげないショットにも大いに胸を打たれる。
主役である恵美を狂言回しのようにして半ばリレー形式で綴られる下記のようなエピソードもある。
中学の同級生ハナ(吉高由里子)は失恋で心因性の視力障害を患い、同じ病院に入院中の由香を共通の話題に恵美と親しくなっていく。
彼女の弟ブン(森田直幸)は優等生で注目のサッカー選手。そんな彼に劣等感を感じている幼馴染にブンがかける言葉は温かい。
三年生なのに下手なのでレギュラーになれない少年(柄本時生)が下級生のブンを練習と称して怪我させる。恵美は自分から謝れない彼にバレンタイン・デーのチョコレートを贈り、「自分で謝りな」と諭す。
由香は中学3年の時(北浦愛)に他界し、恵美は彼女の話していた“もこもこ雲”らしき写真を撮ってはフリースクールの壁に貼っている。ここを卒業する子供たちは好きな写真を持ち帰るようになっている。“もこもこ雲”とは時に太陽を遮ったり雨を降らしたり気まぐれな、しかし、それがなければ空が味気なくなってしまう雲。死んだ由香にとって恵美は青空に対する“もこもこ雲”のように人生に陰影をつける、そんな存在だったにちがいない。
“仲間”という概念は、特に青少年の間では排他的になりがちなので余り好きではないが、“友情”は素敵だ。本作に見られる友情なら人間を信じたくなる。人間はやはり素晴らしい、と思わせる映画が少なくなっている昨今だけに僕を嬉しくするものがある。
小学生時代の子役を含めて子供たちの演技も優秀。
鑑賞後はキャロル・キング、ジェームズ・テイラーの「君の友だち」を聴こう。
2008年日本映画 監督・廣木隆一
ネタバレあり
廣木隆一は「ヴァイブレータ」で注目した時の印象のように、本質的にはセミドキュメンタリー・タイプの作家なのだろう。男性版「二十四の瞳」である「機関車先生」は終始スケッチ的なタッチが強いドラマ性と合わずに余り買えなかったが、友情をテーマにした直木賞作家・重松清の同名連作小説集を映画化したこの群像劇は、時にタッチに違和感を覚える瞬間があるものの、前述作よりは大分合っている気がする。
若いジャーナリストの中原(福士誠治)が、フリースクールに取材に赴いて知り合った20歳のボランティア恵美(石橋杏奈)から小学4年生の時に知り合った“友達”について話を聞く。小学生の頃に遭った交通事故で松葉得杖を手放せなくなった彼女はその為に孤立し、腎臓の病気で運動が出来ず同じように孤立する由香と仲良くなっていくのだが、その経緯が誠に素晴らしい。以下の如し。
由香が余りに愚図なのに怒った恵美が、雨の日傘を差した由香を目指して走った時に遭った事故について「足が悪くなったのは由香ちゃんのせいでもあるんだよ」と逆恨み的な言葉を吐く。由香は彼女が去った後涙を流す。この涙の訳は何か。翌日、由香ちゃんは大きな傘を持って現れる。彼女は責められたので泣いたのではなく、自分の為に足を悪くした恵美ちゃんを思って泣いたのである。僕は、彼女が笑顔で傘を差して待っている場面に「世の中にはこれほど他人のことを思える人がいるのだろうか」と全く感銘するほかなかった。
友情の機微を優しい視点で描くという本作のテーマと基調がここに集約されていると言っても良く、色々と出て来る他のエピソードもこれには到底及ばない。後半彼女が初めて高校に登校する時にかつて由香が傘を持って立っていた家の前に目をやる。この何の説明もないさりげないショットにも大いに胸を打たれる。
主役である恵美を狂言回しのようにして半ばリレー形式で綴られる下記のようなエピソードもある。
中学の同級生ハナ(吉高由里子)は失恋で心因性の視力障害を患い、同じ病院に入院中の由香を共通の話題に恵美と親しくなっていく。
彼女の弟ブン(森田直幸)は優等生で注目のサッカー選手。そんな彼に劣等感を感じている幼馴染にブンがかける言葉は温かい。
三年生なのに下手なのでレギュラーになれない少年(柄本時生)が下級生のブンを練習と称して怪我させる。恵美は自分から謝れない彼にバレンタイン・デーのチョコレートを贈り、「自分で謝りな」と諭す。
由香は中学3年の時(北浦愛)に他界し、恵美は彼女の話していた“もこもこ雲”らしき写真を撮ってはフリースクールの壁に貼っている。ここを卒業する子供たちは好きな写真を持ち帰るようになっている。“もこもこ雲”とは時に太陽を遮ったり雨を降らしたり気まぐれな、しかし、それがなければ空が味気なくなってしまう雲。死んだ由香にとって恵美は青空に対する“もこもこ雲”のように人生に陰影をつける、そんな存在だったにちがいない。
“仲間”という概念は、特に青少年の間では排他的になりがちなので余り好きではないが、“友情”は素敵だ。本作に見られる友情なら人間を信じたくなる。人間はやはり素晴らしい、と思わせる映画が少なくなっている昨今だけに僕を嬉しくするものがある。
小学生時代の子役を含めて子供たちの演技も優秀。
鑑賞後はキャロル・キング、ジェームズ・テイラーの「君の友だち」を聴こう。
この記事へのコメント
教室や学校のシーンでも、子どもたちの自然なざわめきというか、雑音もまじえた演出が良かったと思います。
なんか、廊下を走り回ったり、校庭で物憂げに佇んだり、ずっと昔々の記憶が甦ってきそうでした。
そうですね。
子供たちの生活は変わったようでも、変わらないものも厳然とあるんだなあという気持ちになりましたね。
音楽も素晴らしかった。