映画評「ハプニング」
☆☆★(5点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督M・ナイト・シャマラン
ネタバレあり
「シックス・センス」を世間ほど評価していない僕は、逆に悪評の目立つM・ナイト・シャマランの後続作品にも多少の面白味を見出してはいる。
シャマランが「シックス・センス」でヒッチコックが「やるべからず」と述べた【映像の嘘】を使いながらヒッチコッキアンを自認するのは気に入らないが、ともかく、必ずどこかに登場するのはヒッチ御大の真似であり、本作にしても「鳥」のヴァリエーションと言って良い。
ニューヨーク、若い女性が鋭利な髪留めを首に刺して自殺し、近くの工事現場で作業員が飛び降りる。連続する人々の自己破壊行動に関して政府は化学テロによる毒素が原因の模様と説明、住民に西へ逃げることを勧告する。
そこで生物教師のマーク・ウォールバーグは諍いの増え始めた妻ゾーイー・デシャネルと同僚ジョン・レグイザモ、その8歳になる娘アシュリン・サンチェスを伴って同僚の母親の住むフィラデルフィアに向うが、列車は人員の関係で動きが取れなくなる。同じ頃政府は化学テロという前言を撤回する。
レグイザモは妻の身を案じて別行動し、三人は植物を育てていた夫婦の車で西へ移動するが、植物は敵となる対象から身を守る為に化学物質を出すと聞いたウォールバーグは、植物が人に対して化学物質を出し始めたのではないかと推測、植物への刺激を極力軽減しようと一緒に行動していた人々を分散させ、少人数で移動を始める。
というお話は、【異常事態の原因はよく解らないが自然の人間に対する反撃・復讐なのかもしれない】というスタンスで作られていた「鳥」と大同小異の内容で、鳥が植物に変っただけである。
ただ映像的に対象が動くものと動かないものという差は大きく、見本市状態と言えるまでに様々な自殺を見せることで純粋に心理的に恐怖を醸成する努力に加え、風にそよぐ草木により視覚的に(直接的に)も恐怖が伝わるように工夫をしているものの、さすがに「鳥」における多彩かつ秀逸なアイデアには及ばない。
「鳥」は事件が終らないまま終了しているので、いきなり事件から始まる本作は寧ろその後を引き継ぐような形で展開していると思えてくるのが愉快。しかし、幕引きは余り面白くなく、事件が夫婦の絆を強めるという人間ドラマをまぶしすぎて純度を下げたのは感心しない。
しかも、「宇宙戦争」「ミスト」「クローバーフィールド」などと同様、9・11でアメリカ人に芽生えた<未知なるものへの恐怖>を寓意化した作品の一本に数えられるわけで、四番煎じ・五番煎じではさすがに分が悪すぎる。残念でした。
「救命艇」ではダイエット広告の施術前後の写真で登場したヒッチコック。今回のシャマランはもっと変化球かも。
2008年アメリカ映画 監督M・ナイト・シャマラン
ネタバレあり
「シックス・センス」を世間ほど評価していない僕は、逆に悪評の目立つM・ナイト・シャマランの後続作品にも多少の面白味を見出してはいる。
シャマランが「シックス・センス」でヒッチコックが「やるべからず」と述べた【映像の嘘】を使いながらヒッチコッキアンを自認するのは気に入らないが、ともかく、必ずどこかに登場するのはヒッチ御大の真似であり、本作にしても「鳥」のヴァリエーションと言って良い。
ニューヨーク、若い女性が鋭利な髪留めを首に刺して自殺し、近くの工事現場で作業員が飛び降りる。連続する人々の自己破壊行動に関して政府は化学テロによる毒素が原因の模様と説明、住民に西へ逃げることを勧告する。
そこで生物教師のマーク・ウォールバーグは諍いの増え始めた妻ゾーイー・デシャネルと同僚ジョン・レグイザモ、その8歳になる娘アシュリン・サンチェスを伴って同僚の母親の住むフィラデルフィアに向うが、列車は人員の関係で動きが取れなくなる。同じ頃政府は化学テロという前言を撤回する。
レグイザモは妻の身を案じて別行動し、三人は植物を育てていた夫婦の車で西へ移動するが、植物は敵となる対象から身を守る為に化学物質を出すと聞いたウォールバーグは、植物が人に対して化学物質を出し始めたのではないかと推測、植物への刺激を極力軽減しようと一緒に行動していた人々を分散させ、少人数で移動を始める。
というお話は、【異常事態の原因はよく解らないが自然の人間に対する反撃・復讐なのかもしれない】というスタンスで作られていた「鳥」と大同小異の内容で、鳥が植物に変っただけである。
ただ映像的に対象が動くものと動かないものという差は大きく、見本市状態と言えるまでに様々な自殺を見せることで純粋に心理的に恐怖を醸成する努力に加え、風にそよぐ草木により視覚的に(直接的に)も恐怖が伝わるように工夫をしているものの、さすがに「鳥」における多彩かつ秀逸なアイデアには及ばない。
「鳥」は事件が終らないまま終了しているので、いきなり事件から始まる本作は寧ろその後を引き継ぐような形で展開していると思えてくるのが愉快。しかし、幕引きは余り面白くなく、事件が夫婦の絆を強めるという人間ドラマをまぶしすぎて純度を下げたのは感心しない。
しかも、「宇宙戦争」「ミスト」「クローバーフィールド」などと同様、9・11でアメリカ人に芽生えた<未知なるものへの恐怖>を寓意化した作品の一本に数えられるわけで、四番煎じ・五番煎じではさすがに分が悪すぎる。残念でした。
「救命艇」ではダイエット広告の施術前後の写真で登場したヒッチコック。今回のシャマランはもっと変化球かも。
この記事へのコメント
ぼくはこれを観に行ってしまいました。前半はまあまあ観ていたのですけど、後半は馬鹿らしくなってきました。ついでと言っては何ですが、『ミスト』『クローバー・フィールド』も行ってしまいました。
去年のこの手の映画はハズレがほとんどで、ガックリしながら劇場を後にすることが多かったですよ。
ではまた!
環境絡みでは「鳥」の二番煎じ、未知なるものへの恐怖という点では「宇宙戦争」などの四番煎じくらいで、それを融合したアイデアはほどほど面白いですが、ヒッチコックやスピルバーグのような上手さが今一つ足りないんですよね。
突然恐怖が去るという共通点のある「宇宙戦争」とも大分差があります。
>この手の映画
9・11に始まって、文明の衝突を不安視する人が増えているんでしょうね。「宇宙戦争」の例を見ても、幕切れの仕方で結構評価が分かれたりするような気もします。