映画評「キャラメル」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年レバノン=フランス映画 監督ナディーン・ラバキー
ネタバレあり

フランスとの共同製作となっているが、レバノン映画とは珍しい。紹介されることの少ない国の映画を観るのは楽しみである。

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首都ベイルートのエステサロン、オーナーの独身女性ナディーン・ラバキーは既婚者の恋人に振り回され、従業員の28歳ヤスミーン・アル・マスリーは結婚を眼前にイスラム教徒にあるまじき自分の秘密に悩まされ、24歳のジョアンナ・ムカルゼルは黒髪の美人に同性愛的感覚を覚える。常連客ジゼル・アウワードは寄る年波からの容貌の衰えを気にし、店の前で仕立て屋を営む65歳シハーム・ハッダードは客に訪れたフランス紳士とデートに漕ぎ着いたのに呆けた姉の介護の為に諦める。

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勿論レバノン映画がどうのこうのはこの一本で把握できる筈もないが、それ以前にレバノンがどういう国なのか国民性なのかよく知らないので、本作を観るだけでも色々と参考になる。

例えば、宗教的にはキリスト教とイスラム教が仲良く共存していて、フランスとの関係性が深い為に文化はイスラエルを別格として他の中近東国家よりぐっとヨーロッパ的、インドにおける英語のように挨拶などにはフランス語が交っているといったことが解る。純然たるイスラム的国家ではなくなっている為に女性の地位や自由度が他のイスラム国家に比べて遥かに高いと思われる一方で、それでも女性にはまだまだ受難の社会なのではないかと受け取れる印象があり、映画の狙いも部分的にそこをあるようである。

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内容はエステサロンを中心とした「浮世床」の恋愛ヴァリエーション。主演・脚本を兼ねているラバキー女史の演出は洗練され、映画先進国の作品と遜色がない。特に65歳の女性が姉の為に恋を諦める部分は好調で、彼女が姉の大声に現実を知って化粧を落とす名場面に続いて、約束の場所に会いに来なかった相手の男性のズボンが短くなっている(彼女と会う機会を作る為にわざわざつめさせた為)後姿を捉えたショットなどユーモラスなのに切なくなってしまう。

フランス人撮影監督イヴ・セナウィを起用した映像も大変フォトジェニック。

この記事へのコメント

シュエット
2009年10月29日 14:12
いつもながら精力的にブログ更新には敬服します。
最近は劇場にスキップするほどワクワクする映画がなくって、スクリーンで観るよりテレビ画面で観たほうが適切という映画が多くって(映像がスクリーンの大きさに負けている! かつての映画は確実にスクリーンで観てこそ味があったけど)、あえて劇場へという気持ちもトーンダウンしておりまして、本作も無理して映画館へっていう気持ちが働いてスルーした映画。
状況なんでしょうね。中近東とかの映画ってユーモラスなタッチで描いた作品が多い。シリアスに描けないほどに現実は厳しいということなんでしょうね。
オカピー評価7点…これはどっかで観なければ!
オカピー
2009年10月30日 00:41
シュエットさん、こんばんは。

いやいや、最近は文章を生むのに難儀していますよ。

>7点
先日観た「モンテーニュ通りのカフェ」の鮮やかさに比べると、整理されていない部分や独善的な部分があって、大分落ちるのですが、レバノンという珍しさとフォトジェニックな撮影に後押しされて、7点を出しちゃったというのが正直なところでしょうか。(笑)

方や撮影をしないCGのオンパレード、方や自然光で即実的な演出のセミドキュメンタリー(それもHD映像だったりする)・・・の両極の映画ばかりでは、光と影の映像美で育った我々に訴求するものは薄いような気がします。
精神的にモノクロ・フィルムの原点に帰るべきでは?

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