映画評「休暇」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・門井肇
ネタバレあり

吉村昭の同名小説を映画化。監督をした門井肇は全く初めてだが、実にきちんとした作風という印象を覚える。

ある刑務所の刑務官・小林薫が、死刑囚・西島秀俊の処刑で苦悶する囚人を抑え込む【支え役】を果たして与えられた一週間の休暇を使って、連れ子のある未亡人・大塚寧々とのハネムーンに出かける。

処刑を基準点として、そこから始まる旅行中の現在とそこに至るまでの刑務所の様子を並行に描写することで、死刑に立ち会った刑務官のつらい心境を描き出して考えさせられる一編になっている一方で、出来栄えとは別に日本における死刑執行の模様が具体的に描かれているのが大いに勉強になる。

ストーリーの構成と同じく処刑を支点として幾つか相似するものを対照的に置くことで観客に強いイメージを喚起するよう設計されているところも注目に値する。
 例えば、死刑囚も再婚の妻が連れてきた子供も絵が好きであるが、死刑囚の絵には色がなく、子供の絵には色がある。言うまでもなく、色彩は希望の有無の差を表現しているわけである。
 あるいは、死刑囚を抱きかかえた腕で少年を抱きかかえるのが、同じ構図の中に生(幸福)と死という対照を投影させていて頗る印象的。

印象的と言えば、妻が「どうして過去について聞かないの」という台詞の映画における効果について触れておきたい。刑務官(看守)ならば常時対応する囚人の過去などは知りたくないはずなので、その職業の癖で彼は詮索しないのだと僕は想像しているが、映画もそれにそって死刑囚の過去については殆ど触れない。観客に下手な予断即ち偏った感情移入をさせずに、人間としての彼を見つめさせようという作劇的工夫である。これは恐らく実際の刑務官の囚人に対する態度にほぼ等しいと思う。

その態度はまた、若くて人間的な刑務官(柏原収史)も年を経れば定年退職間際の看守(菅田俊)みたいに無気力になっていくことを予感させる所以。いずれにしても難しい仕事だなと頭を下げたくなる。

死刑の是非について直接言及せず考える余地を残しているのも、有難い。

従姉の息子が刑務官をしちょりますが。

この記事へのコメント

2009年10月25日 13:54
こんにちは。

>従姉の息子が刑務官をしちょりますが。

そうですか。ある漫画で刑務官という存在をヘーと知ったわけですが、この作品でも、死刑がどういう空間で執行されるのかということが、少しは理解できました。
オカピー
2009年10月26日 00:19
kimion20002000さん、こんばんは。

>従姉の息子
尤も、仕事については碌に話したことはないので、何とも言えないのですが。
恐らく死刑に立ち会ったことはないでしょう。

映画を観る楽しみは色々あるわけですが、珍しい職業やその中身について知るのはその一つ。
アメリカ映画で処刑場面はよく観ますが、邦画では珍しいですし、大島渚の「絞死刑」という問題作もありますが、あれは抽象的で、ここまで精細なのは恐らく初めて。勉強になりましたね。
シュエット
2009年10月29日 14:00
本作を劇場で観た私の率直な感想はブログのこの一文だろうな。
「死刑執行とそれに直接携わる刑務官たち、そして個人の幸福。
これをまともに描かれても、どう受け止めていいのか、正直とまどってしまうのが本音。」
加賀乙彦の小説「宣告」で初めて死刑囚をテーマにした作品と出会い、未だにこの小説で描かれたテーマが強烈なんでしょうね。
世界的に死刑制度の是非が問われている今、描くべきテーマとしての映画だとは思うのですが…。
オカピー
2009年10月30日 00:28
シュエットさん、こちらにも有難うございます。

映画としては「なかなかきちんと作っているな」という印象を持っていますが、内容の感想としてはシュエットさんに近いかもしれません。

死刑囚に比べて注目されない刑務官に着目したのは良いと思います。
彼らの仕事は、人間性を阻害しかねない過酷な仕事なんでしょうね。
そこに死刑の重みを逆説的に反映させる、という狙いも一応は理解できました。
2009年11月01日 11:39
“過去”について少しは知って欲しい。
つまりは男に、自分(女)に関心があるということを
示してくれませんか、という過去を踏まえた
“二人の未来”を暗喩している人間。
かたや男はシャイな性格もあってか(それも
あると私は思う)未来のない罪人たちばかりを
相手にしては“黙して語らず”生業の人間。

死刑囚と刑務官。
刑務官の少し遅れてきた幸福。
吉村の原作(たった41頁)も渋かったけれど
映画も渋かったですね~。
さみしい作品です。
私は好きでしたが。
オカピー
2009年11月02日 00:40
vivajijiさん、こんばんは。

僕は妻は“布石”とみなして簡単に済ませてしまいましたが(笑)、
勿論それ以上の重みのある台詞でしたね。

>シャイな性格
僕にもそういうふうに見えました。
しかし、囚人特に死刑囚の過去は聞く気にもなれないのが
実際でしょうね。

5人ほどの実務レベルの刑務官が出てきましたが、それぞれの年齢が違っているのが一人の人間の変遷を示す意図もあるようで面白かったです。

>遅れてきた幸福
顰蹙を買ってまで休暇を取ったかいがありましたよね。

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