映画評「イーグル・アイ」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督D・J・カルーソー
ネタバレあり
監督作品ほどの高い確率でスティーヴン・スピルバーグの製作作品が楽しめるわけではないし、監督がD・J・カルーソーでは余り期待できないが、結論としてはアルフレッド・ヒッチコックの影響が観られる部分が楽しめる。
コピーショップの半端仕事で日々を過ごしているシャイア・ラブーフが母の電話で国防総省に勤務する双子の兄が急死したことを知るが、小切手を換金すると額が信じがたい数字に膨れ上がっていただけでなく、アパートに大量の不審物が届く。驚く間もなく掛かってきた電話で「FBIが来るのですぐに逃げろ」と言われた傍から実際にFBIに急襲され、テロの容疑者として連行されるが、そこへ再び電話が掛かり、その声に言うままに逃げることになる。
というのが前半のお話で、主人公にも観客にも訳が解らないという謎めいた展開は興味をそそる。ヒッチコックの傑作「北北西に進路を取れ」序盤のムードに近いだろうか。電話だけでなく町中の電光掲示板が彼の行動を指示するというアイデアがなかなか面白い。
その声が彼の味方と思えないところが益々ミステリアスで、一人息子を演奏旅行に送ったシングルマザーのミシェル・モナハンが同じように電話で強要され、そんな彼と行動を共にする羽目になる。
この段階で謎は解明されていないからまだまだ感興が続くものの、徐々に荒唐無稽さが表に出てきて白けムードが増していく。荒唐無稽でも良いが、残念ながら見せ場の連続で場面ごとの強弱や緩急の差が不足している為に一本調子になり却ってサスペンスにまで高まっていかないのである。
相当注力したと思われるカー・アクションが暗い場面ばかりで、しかもカット割りが細かくて正確にアクションが捉えにくいのも不満。聞くところによれば実演の部分が相当あるらしいのに、細切れの為にその奮闘ぶりがきちんと伝わって来ないのが実に勿体ない。スピルバーグの的確で解りやすいカット割りで観たくなる。
終盤では、電話の主がコンピューターARIAで国家に忠実な彼女が現政権に反旗を翻したことが判明するという展開が「2001年宇宙の旅」のHALを彷彿として一応興味深いと言っておきましょう。それ以上に嬉しいのはヒッチコックの「知りすぎていた男」のアイデアを拝借し、少年の楽器が爆破に繋がることを事前に示したうえで楽譜を使ってサスペンスを醸成していること。
カルーソーはまた「裏窓」の事実上のリメイクと言うべき「ディスタービア」を作っているが、彼がヒッチコッキアンなのだろうか、或いは脚本家のアイデアがたまたま重なった偶然なのだろうか。
天国の ヒッチコックも 苦笑い
2008年アメリカ映画 監督D・J・カルーソー
ネタバレあり
監督作品ほどの高い確率でスティーヴン・スピルバーグの製作作品が楽しめるわけではないし、監督がD・J・カルーソーでは余り期待できないが、結論としてはアルフレッド・ヒッチコックの影響が観られる部分が楽しめる。
コピーショップの半端仕事で日々を過ごしているシャイア・ラブーフが母の電話で国防総省に勤務する双子の兄が急死したことを知るが、小切手を換金すると額が信じがたい数字に膨れ上がっていただけでなく、アパートに大量の不審物が届く。驚く間もなく掛かってきた電話で「FBIが来るのですぐに逃げろ」と言われた傍から実際にFBIに急襲され、テロの容疑者として連行されるが、そこへ再び電話が掛かり、その声に言うままに逃げることになる。
というのが前半のお話で、主人公にも観客にも訳が解らないという謎めいた展開は興味をそそる。ヒッチコックの傑作「北北西に進路を取れ」序盤のムードに近いだろうか。電話だけでなく町中の電光掲示板が彼の行動を指示するというアイデアがなかなか面白い。
その声が彼の味方と思えないところが益々ミステリアスで、一人息子を演奏旅行に送ったシングルマザーのミシェル・モナハンが同じように電話で強要され、そんな彼と行動を共にする羽目になる。
この段階で謎は解明されていないからまだまだ感興が続くものの、徐々に荒唐無稽さが表に出てきて白けムードが増していく。荒唐無稽でも良いが、残念ながら見せ場の連続で場面ごとの強弱や緩急の差が不足している為に一本調子になり却ってサスペンスにまで高まっていかないのである。
相当注力したと思われるカー・アクションが暗い場面ばかりで、しかもカット割りが細かくて正確にアクションが捉えにくいのも不満。聞くところによれば実演の部分が相当あるらしいのに、細切れの為にその奮闘ぶりがきちんと伝わって来ないのが実に勿体ない。スピルバーグの的確で解りやすいカット割りで観たくなる。
終盤では、電話の主がコンピューターARIAで国家に忠実な彼女が現政権に反旗を翻したことが判明するという展開が「2001年宇宙の旅」のHALを彷彿として一応興味深いと言っておきましょう。それ以上に嬉しいのはヒッチコックの「知りすぎていた男」のアイデアを拝借し、少年の楽器が爆破に繋がることを事前に示したうえで楽譜を使ってサスペンスを醸成していること。
カルーソーはまた「裏窓」の事実上のリメイクと言うべき「ディスタービア」を作っているが、彼がヒッチコッキアンなのだろうか、或いは脚本家のアイデアがたまたま重なった偶然なのだろうか。
天国の ヒッチコックも 苦笑い
この記事へのコメント
おそらく、そうなのでしょうね。
昨今はリメイクブームですが、ヒッチコック作品は意外に見かけないような気がします。「サイコ」くらいでしょうか。
本作のように、アイディアを頂いたような作品は多いようですが・・・^^
>リメイクブーム・・・ヒッチコック作品
「鳥」が作られると聞きましたが、その後どうなったでしょうか。
「ディスタービア」は事実上「裏窓」のリメイク。
本作を「裏窓」の逆バージョンを観る向きもありますね。
「ハプニング」は「鳥」の続編みたいでした。
いずれにしても同じ脚本を使っても同じレベルに作れない「サイコ」を観れば解るように、ヒッチコックの才能は俳優の生かし方を含めてやはり例外的な天才で、演出力の差が際立ってしまうのが嫌なのじゃないでしょうかねえ。
なんどもなんどもおなじような・・・で、ガックリした覚えがあります。
やっぱり観客が予想してなかったような結末でないと、不満が残ります。
>コンピューター落ち
「アイ、ロボット」とか。
アニメの「ウォーリー」も終盤にロボット=コンピューターの人間に対する叛乱があります。
「2001年」の頃に比べると、もっと現実的な脅威としてコンピューターや監視社会が捉えられている時代になったという背景もあるのでしょうけどね。