映画評「蛇男 THE SNAKE」

☆☆☆（６点／１０点満点中）
２００８年フランス映画　監督エリック・バルビエ
重要なネタバレあり。未鑑賞の方は注意されたし。

フランス製サスペンスは近年心理ドラマ寄りかアクション寄りで、本作のような純サスペンスは久しぶりな気がする。

資産家の娘ミンナ・ハープキレァと結婚しファッション写真家として成功したイヴァン・アタルが、予定のモデルの代りに撮影に来たオルガ・キュリレンコの誘いに乗ってキスしただけなのにレイプで訴えられ、訴えを退けた後再びやってきた彼女に薬で眠らされている間に何者かにポルノ写真を撮られ、オルガが階段から落下し頭から血を出したところで前後不覚になる。
　目が覚めると死体がなく慌てて車を走らせていると後続の車に追突され、トランクにオルガの死体を発見するが、追突してきた相手が中学時代の同級生クロヴィス・コルニアックだったので死体の件は大事にならずに済む。しかし、死体の入った車を勝手に修理に出すなど彼の態度は不審を極め、遂に大金を要求してくるが、彼の真の目的は少年時代に受けた傷、それが基で自殺した母親の復讐をする為と判明する。オルガの死体が発見されたことで逮捕されたアタルは隙を見て逃走、逆襲に出る。

というお話で、彼を陥れる為の手の込んだ策略を見せ続ける前半は謎が多い為に興味をそそられる。が、お話が進むに連れて粗（あら）が見えて来る。
　一番大きな疑問は最終的に彼に協力することになる耳の悪い老弁護士ピエール・リシャールを主人公が罠にはめた理由。コルニアックの目的が主人公への復讐だけなら弁護士を罠に嵌めて金を取る理由はない。僕の足りない頭ではアタルを嵌める為の前段という解釈もできず、却ってアタルの証人や協力者を生み出しただけではないかという疑問に至る。恐らく観客をミスリードする目的で作者が置いた布石であるが、策に溺れた感が強い。それとも僕が何か見落としたのだろうか。

犯人の行動には他の疑問もある。復讐する為なら例えば妻子を誘拐するとか単純な手法もあるわけで、ここまでもって回った策略は却ってお話の為のお話という印象を生む。復讐だからじりじり困らせるというアイデアであるということは解りますがね。

起承転結の【結】の部分はもっと戴けない。今度は弁護士を担ぎ出したアタルの策略が凝り過ぎている。最終的に警察を乗り込ませる用意ができるくらいなら単純に罠に嵌めて御用にすれば良いのである。そのほうが後味も良い。

という具合に色々文句を述べたが、上手く乗せられて一気に見終えてしまう勢いに免じて星は多めに付けておきましょう。

作者の網は、天網と違って、密にして洩らします。