映画評「感染列島」
☆★(3点/10点満点中)
2009年日本映画 監督・瀬々敬久
ネタバレあり
病原菌パニック映画。
新型の豚インフルエンザが流行している最中なので、良いタイミングと思って観始めたが、全体印象も細部も極めてだらしない限りでかっかり。「フライング☆ラビッツ」のほうがずっとしっかりしているので、瀬々敬久監督は脚本まで担当しない方が良いようだ。
若い医師・妻夫木聡が勤務する東京の市民病院で新型鳥インフルエンザと思われる症状で死亡者が発生、最終治療に当ったベテラン救急医・佐藤浩市も死ぬ。日本で一番最初に発生したということもあってWHOから派遣された女性医務官・檀れいが、病院全体を隔離することにする。やがて妻夫木君はインフルエンザ以外の病気ではないかと疑いを持つ。
日本映画らしいと言えばそれまでだが、本作に登場する医師や看護師たちは感情を丸出しで、事あるごとに一々動作が止まってしまう。或いは、気が狂いそうになるほど働いているようなことを言いつつ、過去に訳ありだった妻夫木君と檀嬢はしょっちゅう会って話をしている(彼らとて休みが必要なのは解るが、見せ方が下手なのだ)。しかも、空気感染の可能性も残っている段階でマスクをしないでそこらじゅうを歩き回り、色々な人と接触するといった杜撰さ。こんな人々ばかりでは助かる命も助からないだろう。マスクと言えば、名のある出演者が扮する一般人もマスクをしないし、作者は緊迫感醸成より役者の顔を見せる方が大事らしい。
もっとひどいのは患者として入院していた池脇千鶴の父親にして東南アジアの某小国において使命感を持って医療に従事している嶋田久作で、自分がそこで発生した奇病に感染しているのを知りながら娘に会う為に日本に入り後になって「私のせいで病気が広まらなければ良いが」などと頓珍漢なメモを残している。「28週後...」の事件の始まりもお粗末だったが、本作の出鱈目ぶりはそれ以上だ。始まりがここまで馬鹿馬鹿しいと見る気も起らなくなるので、ミステリー仕立ての為にそれが判明するのが終盤なのは観客にとって不幸中の幸いなり。
また、確かにひどい伝染病ではあるが、数週間からせいぜい2カ月という短期間であれほど廃墟のようになろうとも思えないし、「ハプニング」のようにライフラインが完全に止まった状況下なのに妻夫木君と鳥インフルエンザの研究者・藤竜也が苦もなく飛行機に乗って海外に行けるのはもっと訳が解らない。道路の信号はダメでも、空港だけは正常に機能しているのかい? それ以前に防疫上の理由で海外渡航はできまい。
最後はお決まりの愁嘆場。患者が常時治療を待っているというお話なのに作者は医者である主人公を外部に出しすぎで、感動という側面からも患者に接しながら耐える場面を見せたほうが余程感動的になる。
作者の頭の中のライフラインも壊れちょる。
2009年日本映画 監督・瀬々敬久
ネタバレあり
病原菌パニック映画。
新型の豚インフルエンザが流行している最中なので、良いタイミングと思って観始めたが、全体印象も細部も極めてだらしない限りでかっかり。「フライング☆ラビッツ」のほうがずっとしっかりしているので、瀬々敬久監督は脚本まで担当しない方が良いようだ。
若い医師・妻夫木聡が勤務する東京の市民病院で新型鳥インフルエンザと思われる症状で死亡者が発生、最終治療に当ったベテラン救急医・佐藤浩市も死ぬ。日本で一番最初に発生したということもあってWHOから派遣された女性医務官・檀れいが、病院全体を隔離することにする。やがて妻夫木君はインフルエンザ以外の病気ではないかと疑いを持つ。
日本映画らしいと言えばそれまでだが、本作に登場する医師や看護師たちは感情を丸出しで、事あるごとに一々動作が止まってしまう。或いは、気が狂いそうになるほど働いているようなことを言いつつ、過去に訳ありだった妻夫木君と檀嬢はしょっちゅう会って話をしている(彼らとて休みが必要なのは解るが、見せ方が下手なのだ)。しかも、空気感染の可能性も残っている段階でマスクをしないでそこらじゅうを歩き回り、色々な人と接触するといった杜撰さ。こんな人々ばかりでは助かる命も助からないだろう。マスクと言えば、名のある出演者が扮する一般人もマスクをしないし、作者は緊迫感醸成より役者の顔を見せる方が大事らしい。
もっとひどいのは患者として入院していた池脇千鶴の父親にして東南アジアの某小国において使命感を持って医療に従事している嶋田久作で、自分がそこで発生した奇病に感染しているのを知りながら娘に会う為に日本に入り後になって「私のせいで病気が広まらなければ良いが」などと頓珍漢なメモを残している。「28週後...」の事件の始まりもお粗末だったが、本作の出鱈目ぶりはそれ以上だ。始まりがここまで馬鹿馬鹿しいと見る気も起らなくなるので、ミステリー仕立ての為にそれが判明するのが終盤なのは観客にとって不幸中の幸いなり。
また、確かにひどい伝染病ではあるが、数週間からせいぜい2カ月という短期間であれほど廃墟のようになろうとも思えないし、「ハプニング」のようにライフラインが完全に止まった状況下なのに妻夫木君と鳥インフルエンザの研究者・藤竜也が苦もなく飛行機に乗って海外に行けるのはもっと訳が解らない。道路の信号はダメでも、空港だけは正常に機能しているのかい? それ以前に防疫上の理由で海外渡航はできまい。
最後はお決まりの愁嘆場。患者が常時治療を待っているというお話なのに作者は医者である主人公を外部に出しすぎで、感動という側面からも患者に接しながら耐える場面を見せたほうが余程感動的になる。
作者の頭の中のライフラインも壊れちょる。
この記事へのコメント
ははは。オカピーさんにとっては、とても厳しい点数ですよね。
なんか、専門家をなめてるところがありますね。
エンタテイメントとしても中途半端、啓蒙映画としても中途半端ですよね。
監修者がいるみたいなんですが、本気でリアルを検討していませんね。
>厳しい点数
そうですね、僕はまあつまらなくても作品にそれなりの映画的風格があれば5点は出しますからね。
しかし、本作はお話として杜撰の極みで、サスペンスが感じられるのは最初の20分くらいでしょう。
檀れい女史が出てきた辺りから医療関係者の態度が出鱈目で、サスペンスどころじゃなくなりますね。
あれでは医療関係者が怒るんじゃないのかなあ。
この映画を見終えた後、よくわからない部分が多かったのでネットで色々調べました。酷評が多かったです。ストーリー、テーマは、分かりやすいが、極めて凡庸。患者らのエピソードは、どれも中途半端だし、主要キャストの2人の恋愛模様も陳腐。
>苦もなく飛行機に乗って海外に行けるのはもっと訳が解らない。
仰る通りです。
「けっこう豪華なキャストが揃っているだけに、設定と物語が残念すぎて、泣けてくる。」と言う意見も。
看護師長役がキムラ緑子さん。朝ドラ「ごちそうさん」の小姑役でブレイクする5年ぐらい前ですね。
>ストーリー、テーマは、分かりやすいが、極めて凡庸。
いやあ、凡庸ならまだ良いです。何度も良いますが(笑)、デタラメですよ。お話として成り立っていないと断言できるレベル。TVのサスペンスはこのレベルが多いのかなあ?
僕の酷評を受けたせいか(笑)、瀬々監督は「あれは、やりすぎた」と後年別の作品のところで語っていますよ(確か「キネマ旬報」誌上)。
>「けっこう豪華なキャストが揃っているだけに、
>設定と物語が残念すぎて、泣けてくる。」
これが僕の評価に近いですね。
>看護師長役がキムラ緑子さん。
いつの間にがよく見るようになりました。TV番組のおかげですか。知らなかったなあ^^
>僕の酷評を受けたせいか(笑)、瀬々監督は「あれは、やりすぎた」と後年別の作品のところで語っていますよ
監督さんがオカピー教授のコメントを見て反省したんですか?すごいですねー!
>いつの間にがよく見るようになりました。
キムラ緑子さんは映画「パッチギ!」でもいい味を出してました。
>座頭市テレビ版
昨日第1シーズンの最終話を見ました。あまり幸せでもない終わり方。三隅監督、さすがです!
>監督さんがオカピー教授のコメントを見て反省したんですか?
そんなわけないです^^
しかしですね、僕がこれはダメだ、と言った傾向的な問題点は、後年なくなっていくのも確かです^^
本当は単に、飽きられたからでしょうけどね(笑)。
>>座頭市テレビ版
>昨日第1シーズンの最終話を見ました。あまり幸せでもない終わり方。
盲目という宿痾を背負った座頭市が主人公なだけに、そういう終わり方が似合うような気持ちもしますよ。
昔、TVアニメ「サスケ」「カムイ外伝」などという切ない時代アニメが好きでした。「カムイ外伝」は視聴率が芳しくなかったらしくて打ち切りになったらしいけれど(その原因となった暗さが良かったのに)。
「発展途上国であまり話題にならず先進国で広がっているのも、途上国ではもっと危険な伝染病がたくさんあるからでしょう。」と他のブログの管理人さんが仰ってました。そうかも知れませんね。
>盲目という宿痾を背負った
その言葉が逆に温かみを感じます。一生背負っていかねばならない事ってあります・・・。
>「カムイ外伝」
一度見たいです。
>本当は単に、飽きられたからでしょうけどね(笑)。
なるほど。
>「発展途上国であまり話題にならず先進国で広がっているのも、
>途上国ではもっと危険な伝染病がたくさんあるからでしょう。」
そうでしょう。
エボラ出血熱など、致死率が今回のコロナウィルスと比較にならない死者が出ますから。西ナイル熱は致死率はともかく、脳炎を起こすなど厄介な病気ですね。
>>「カムイ外伝」
>一度見たいです。
僕もこれは見直したいですね。子供時代の感覚は当てにならないことも多いですが。
>妻夫木聡
ちょっとユニークな役者さんです。どちらかと言えば三枚目役が似合う。『ウォーターボーイズ』『愛と誠』『清須会議』、『ジャッジ!』『殿、利息でござる!』いろいろ見ました。今時の役者さんにしてはあまり背が高くないところもいいです。
>エボラ出血熱など、致死率が今回のコロナウィルスと比較にならない
やはり、そうですよね!怖いです。
>子供時代の感覚
子供の頃だから、そして初めて見たから、すごく記憶に残るというのもありますよね。
そしてテレビアニメ『忍風カムイ外伝』終了後『サザエさん』が後番組だったんですか?
>>妻夫木聡
>ちょっとユニークな役者さんです。
現代的な草食系の二枚目ですが、喜劇的要素も多く、二枚目半という感じですよね。
彼の主演作の中では「ウォーターボーイズ」の映画的感覚が秀逸でした。この作品を撮った矢口史靖監督は、他の作品でも呼吸が本当に素晴らしい。内容以上に、そこに感銘しました。
>テレビアニメ『忍風カムイ外伝』終了後
>『サザエさん』が後番組だったんですか?
僕は全く記憶がないのですが、そうだったらしいですね。
当初「サザエさん」は見なかったような記憶があります。当時は悲愁を好んでいたので。