映画評「真木栗ノ穴」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・深川栄洋
重要なネタバレあり
穴から他人の部屋を覗くと言えば、江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」が有名だが、山本亜紀子の小説「穴」を若手の深川栄洋が映像化したこの作品も相当夢幻的である。TVで観ると、HD映像そのもので些か味気ないのが残念。
老朽したアパートの一室に暮らしている売れない作家・西島秀俊(役名が真木栗)が中年女・キムラ緑子に誘われ彼女の家にしけこんでしまったその晩、泥棒に自室を荒らされる。
観客の予想通り彼女に嵌められたわけだが、この事件のせいで縁が出来た雑誌社から官能小説の執筆を依頼される。不得意な分野だけに悪戦苦闘するものの、彼の部屋には両隣の中が見える小さな穴があり、片方の穴から見える睦みごとを書き綴って何とかしのぐ。
ある日アパートの前で愁いのある美人・粟田麗とすれ違ってインスピレーションを受け、さらにその彼女が実際に隣に越してきたことで益々快調になる。やがて、彼が執筆した濡れ場が実際に宅配便の配達人や置き薬の営業マンの身に起きたので、彼女に懸想する作家は遂に自らを傍観者ではなく体験する人物として登場させようとする。
実は上映時間の半分を過ぎても一向に狙いが解らないのでイライラした。作者が見せようとしているのは乱歩先生のようなエログロ的な夢幻なのか、はたまた、ユーモアを交えたエロティシズムなのか。
しかし、ここ即ち上映時間の6割が済んだ頃「おやっ、SFか」と思わせた後、彼が睦みごとを見た配達人や営業マンが死んだことが判明するに至り、遂にオカルト・ホラーとしての性格が明確になってくる。
隣の美人さんが“わけあり”であることも判るのだが、彼女が主人公と絡まない形で登場する場面が他の場面と全く馴染んでいないのが相当気になる。主人公が週刊誌の内容を読んで空想する形で、夫が破産して別居か何かを考えてアパートを探す彼女の様子が描写され、その中で大家が「幽霊を招くアパートなんですよ」と彼女に話すという構成も不自然でどうにもしっくり来ない。
お話としては彼女に思いを寄せる主人公が自らを小説の中に登場させようとした段で彼女と情交した人物が死んだことに気付いて慌てるという展開が面白いが、結局主人公は幽鬼におびき寄せられるように隣の部屋に入っていく。
ところが、このお話自体が主人公の完成させた小説の内容のようであり・・・という、キム・ギドクの「うつせみ」や「コッポラの胡蝶の夢」に似た“現実は誰かの空想なのかもしれない”という理屈をもって終り、エピローグがプロローグに繋がって円環する形になっている。
近年はかかるお話や構成が多くて、びっくりするどころか「ああ、またか」という印象になる三番煎じ的な弱さがあるが、途中まで狙いがなかなか解らない、本来なら困ってしまう作り方を含めて感興の湧く部類に入れて良いと思う。二重構造が前提なら、ヒロインの出て来る場面が浮いているのも作者の狙いだったと考えられないこともない。
びっくりが真木栗する・・・もとい、真木栗がびっくりする映画。
2007年日本映画 監督・深川栄洋
重要なネタバレあり
穴から他人の部屋を覗くと言えば、江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」が有名だが、山本亜紀子の小説「穴」を若手の深川栄洋が映像化したこの作品も相当夢幻的である。TVで観ると、HD映像そのもので些か味気ないのが残念。
老朽したアパートの一室に暮らしている売れない作家・西島秀俊(役名が真木栗)が中年女・キムラ緑子に誘われ彼女の家にしけこんでしまったその晩、泥棒に自室を荒らされる。
観客の予想通り彼女に嵌められたわけだが、この事件のせいで縁が出来た雑誌社から官能小説の執筆を依頼される。不得意な分野だけに悪戦苦闘するものの、彼の部屋には両隣の中が見える小さな穴があり、片方の穴から見える睦みごとを書き綴って何とかしのぐ。
ある日アパートの前で愁いのある美人・粟田麗とすれ違ってインスピレーションを受け、さらにその彼女が実際に隣に越してきたことで益々快調になる。やがて、彼が執筆した濡れ場が実際に宅配便の配達人や置き薬の営業マンの身に起きたので、彼女に懸想する作家は遂に自らを傍観者ではなく体験する人物として登場させようとする。
実は上映時間の半分を過ぎても一向に狙いが解らないのでイライラした。作者が見せようとしているのは乱歩先生のようなエログロ的な夢幻なのか、はたまた、ユーモアを交えたエロティシズムなのか。
しかし、ここ即ち上映時間の6割が済んだ頃「おやっ、SFか」と思わせた後、彼が睦みごとを見た配達人や営業マンが死んだことが判明するに至り、遂にオカルト・ホラーとしての性格が明確になってくる。
隣の美人さんが“わけあり”であることも判るのだが、彼女が主人公と絡まない形で登場する場面が他の場面と全く馴染んでいないのが相当気になる。主人公が週刊誌の内容を読んで空想する形で、夫が破産して別居か何かを考えてアパートを探す彼女の様子が描写され、その中で大家が「幽霊を招くアパートなんですよ」と彼女に話すという構成も不自然でどうにもしっくり来ない。
お話としては彼女に思いを寄せる主人公が自らを小説の中に登場させようとした段で彼女と情交した人物が死んだことに気付いて慌てるという展開が面白いが、結局主人公は幽鬼におびき寄せられるように隣の部屋に入っていく。
ところが、このお話自体が主人公の完成させた小説の内容のようであり・・・という、キム・ギドクの「うつせみ」や「コッポラの胡蝶の夢」に似た“現実は誰かの空想なのかもしれない”という理屈をもって終り、エピローグがプロローグに繋がって円環する形になっている。
近年はかかるお話や構成が多くて、びっくりするどころか「ああ、またか」という印象になる三番煎じ的な弱さがあるが、途中まで狙いがなかなか解らない、本来なら困ってしまう作り方を含めて感興の湧く部類に入れて良いと思う。二重構造が前提なら、ヒロインの出て来る場面が浮いているのも作者の狙いだったと考えられないこともない。
びっくりが真木栗する・・・もとい、真木栗がびっくりする映画。
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