映画評「砂の器」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1974年日本映画 監督・野村芳太郎
ネタバレあり
松本清張の代表的ミステリーを橋本忍と山田洋次が共同で脚色、清張映画でおなじみの野村芳太郎が映像化した大作である。初めて観て以来30年以上も再鑑賞して来ず、実はDVDでも買おうかと思った矢先の、神様仏様WOWOW様である(意味不明ですが、適当に解釈してください)。
東京蒲田駅操車場で60代の男の殴殺死体が発見され、ベテランの丹波哲郎と若い森田健作両刑事が、遺留品から老人が犯人と推測される若い男と近くのバーに寄ったことを掴み、店で「カメダ云々」という“東北弁”でのやりとりがあったという証言を得る。
面白いのはこの“東北弁”で話された単語を巡る一連の推理と、犯人が返り血を浴びたはずの白いシャツをどう処分したのか、死んだ老人が何故二日続けて映画館に通ったのかという謎解きだが、白いシャツに関しては偶然に頼りすぎるところがあって不満。また幾つかの謎解き過程が原作に比べて簡略化されているものの、二人の地道な捜査はミステリー映画ファンならまず満足できる面白さと言うべし。
簡略したのには狙いがあって、原作では僅かに触れられるだけの少年とハンセン氏病の父親がお遍路をする場面を、丹波刑事の想像と回想形式により、少年の成人した姿である作曲家(加藤剛)による演奏会とカットバックしながら延々とおよそ40分間に渡って展開させるのである。21世紀の今日見ると多少大仰に感じないでもないのだが、石川県から島根県まで海沿いを旅する情景の美しさには圧倒される。
それに加え、加藤剛が作ったことになっている、実際には菅野光亮が作曲した交響詩「宿命」が物語の構成要素であると同時にお遍路の背景音楽としてダイナミックに情感を盛り上げ、父と子の断ち切りがたい“宿命”を観客に強く印象付けていく。映画芸術の粋を集めて構成されたこの40分は日本映画の金字塔と言って間違いない。好みから言えば、僕は原作に由来する推理の面白さの方を評価したいのですけどね。
島田陽子、山口果林、緒形拳、佐分利信、加藤嘉、渥美清、等共演陣も多彩。
東北弁とズーズー弁は違うっちゅう話。
1974年日本映画 監督・野村芳太郎
ネタバレあり
松本清張の代表的ミステリーを橋本忍と山田洋次が共同で脚色、清張映画でおなじみの野村芳太郎が映像化した大作である。初めて観て以来30年以上も再鑑賞して来ず、実はDVDでも買おうかと思った矢先の、神様仏様WOWOW様である(意味不明ですが、適当に解釈してください)。
東京蒲田駅操車場で60代の男の殴殺死体が発見され、ベテランの丹波哲郎と若い森田健作両刑事が、遺留品から老人が犯人と推測される若い男と近くのバーに寄ったことを掴み、店で「カメダ云々」という“東北弁”でのやりとりがあったという証言を得る。
面白いのはこの“東北弁”で話された単語を巡る一連の推理と、犯人が返り血を浴びたはずの白いシャツをどう処分したのか、死んだ老人が何故二日続けて映画館に通ったのかという謎解きだが、白いシャツに関しては偶然に頼りすぎるところがあって不満。また幾つかの謎解き過程が原作に比べて簡略化されているものの、二人の地道な捜査はミステリー映画ファンならまず満足できる面白さと言うべし。
簡略したのには狙いがあって、原作では僅かに触れられるだけの少年とハンセン氏病の父親がお遍路をする場面を、丹波刑事の想像と回想形式により、少年の成人した姿である作曲家(加藤剛)による演奏会とカットバックしながら延々とおよそ40分間に渡って展開させるのである。21世紀の今日見ると多少大仰に感じないでもないのだが、石川県から島根県まで海沿いを旅する情景の美しさには圧倒される。
それに加え、加藤剛が作ったことになっている、実際には菅野光亮が作曲した交響詩「宿命」が物語の構成要素であると同時にお遍路の背景音楽としてダイナミックに情感を盛り上げ、父と子の断ち切りがたい“宿命”を観客に強く印象付けていく。映画芸術の粋を集めて構成されたこの40分は日本映画の金字塔と言って間違いない。好みから言えば、僕は原作に由来する推理の面白さの方を評価したいのですけどね。
島田陽子、山口果林、緒形拳、佐分利信、加藤嘉、渥美清、等共演陣も多彩。
東北弁とズーズー弁は違うっちゅう話。
この記事へのコメント
ねっ?・・・偶然・・でしょう~~?(笑)
やはり
山田さんと橋本さんのホンの勝利でしょうね。
名脚本家二人の目のつけどころが、日本人の
感性にピタッと呼応したんでしょうね~。
これ原作がけっこう入り組んでますからね。
でも読み応えありましたね。^^
作家が、これでもかって書き込んだところを
いかにわかりやすくビジュアル的に大衆を
感動させるか・・・それはきっとスリリングな
脚本家としての腕の見せ所であり映画的プラン
だったと思いますよ~~~(^ ^)
その重厚さがまたいい味です
お遍路のシーンはよかったです
最近ドラマで中居君主演で放映されましたが
当たり前ながら作られた時代の違いもそのまま出ていましたね
>紙ふぶき
きっかけが弱いですよね。
刑事がたまたまコラムで見つける・・・これが犯人と結びつくのはさすがに。
>日本人の感性
良くも悪しくも。
原作に近いバランスでも違った意味で傑作になったのではないかと思いますが、わが国にはテーマ性・メッセージ性を求める評論家や映画ファンが多いですから、それではダメなんでしょうね。
>ビジュアル的に大衆を感動させるか
映画ですから、文学的な部分でいくら感動させても力不足と言われかねないわけで、常連の撮影監督川又昴のカメラが素晴らしく、脚本の卓越した意図を見事に実現していましたね。
>重厚さ
今の日本の映画は重厚な作品はまずないです。
「北の零年」なんて大作らしく作ろうと努力していますが、空回りしている感じでした。
>中居君
終盤だけ少し観ました。
ふーむ、TVドラマはビデオ撮影という時点が余り観る気が起らないんですよ。
尤も最近は映画もHD撮影が殆どで、フィルムに定着させて初めて若干ニュアンスが出てくるわけですが。
普段バラエティに出ている人が大真面目な映画やTVドラマに出ると人情としてやはりマイナス面は否めませんかね。
>石川県
友達が石川にいますので、北陸が良く出てくる清張さんの映画を観ていると懐かしくなります。
>架空の地名
日本ではどうしても固有名詞は本当のものをなかなか使えないという精神性があるようですね。
しかし、撮影した場所に行くのも楽しいでしょう。^^
>四季表現
お遍路は長い旅だったんですね。
フォトジェニックな撮影に陶然としました。
これは「ゼロの焦点」もあわせ原作も地図、時刻表、訛り、風土といった要素も面白く夢中になって読んだ記憶があります。ローカル線の駅、寒々とした日本海沿岸、戦後日本の高度経済成長に隠れた陰の部分を強烈に感じさせる作品でもあるでしょうね。それから今では喪われつつある里山がみせる美しい景色。
>映画芸術の粋を集めて構成されたこの40分は日本映画の金字塔と言って間違いない
彼は今父親と会っているんだ。音楽の中でしか父親と会えないんだ。そう言った丹波哲郎扮する刑事の胸に去来する思い。「宿命」という曲に托した英男少年が断ち切ろうとした父から自分へと受け継がれた血。それでも経ちがたい宿命ともいうべき絆。「部落」「在日」という言葉とともに「癩」という言葉もまた日本人の意識の中にどれほどの重さだったのか。
数年前に舞台を現代に置き換えてTVドラマ化されたけれど、まことにお寒い限りでした。「ゼロの焦点」もリメイクされて映画公開されているけれど、松本清張作品に流れるこの時代感覚を抜きにしては作品がはなつ強烈な個性は描き得ないでしょうね。時代とそこに生きる人間の本質を生々しく描いているからこそ時代を超える作品として原作も素晴らしいし、映画もまた素晴らしいんでしょうね。
今回WOWOWで鑑賞していく松本清張作品の感想は、こうやってP様んとこへのコメントで十分だわって気がするわ(笑) どっかでまとめて記事にしたらまたTBもってきますね。
森田健作ってここでもやっぱり「これが青春だ!」(こんなTVドラマのタイトルでしたよね?…P様と世代が違う?)ばりに下手な演技を熱血ぶりでフォローして演じてましたね。おかしくって。こんなのをみていると、最近の若手俳優のオーバーな、いさかさ感情露出傾向の演技って下手の裏返しなんだなって再認識。
軽くはなりますね
日本海側の海岸線は 独特のきれいさ 厳しさ 寂しさを・・・
静かです 某国の工作員が日本人を拉致できるのもわかります
たまたま「水戸黄門」を見ていましたら どっかで見た景色に??
よく釣りに行く京都の丹後半島の間人(たいざ) の海岸をご老公
歩いていました
>デジタル・リマスター
今回のハイビジョン放送はノイズが殆どないところを見ると、そのバージョンだったのでしょうね。
若干黄色が強く出ていましたが(画像は少し修正)、美しい映像でした。
>「ゼロの焦点」
映像作家もそうですが、松本清張氏も「ゼロの焦点」のパンパンをハンセン病患者に置き換えスケールアップして作り直したのが「砂の器」なんでしょうね。
到着点と出発点という違いこそあれ、石川県が絡んでくるのも・・・
>断ちがたい宿命
これはいずれUPする「鬼畜」とも共通しますね。
こちらも福井・石川が最終の舞台。
清張氏の作品は人間の本質を描こうとしていますが、その時代に見ないと解らない若しくはピンと来ない部分もあり、現在リメイクするのは実は非常に冒険なんですね。
「砂の器」ではハンセン病は勿論、原作が書かれた時代のハンセン病に対する認識も織り込んで描かないとならず、背景となる時代を変えようが変えまいが、リメイクは非常に難しいものになる。余程の才能が必要となるでしょう。
却って時代劇の方が大胆に翻案できるから良いような気ます。
最初の映画化で十分と思えるのは、その時代の映画には時代の気分がよく織り込まれているからですね。
>森田健作
いや、僕らの世代ですが、タイトルは「俺は男だ!」です。^^
彼は地と演技が全く変わらないですよね。
知事になっても基本的に小林君のまま。(爆)
「疑惑」にも出ていたなあ。野村監督、案外お気に入りだったのかも。
友達が石川にいますので、福井の千里浜や東尋坊に行ったことがあります。
確かに寂しく厳しいですね。
清張ものには石川・福井が良く出てきますが、その経験のおかげで感覚が掴みやすいです。
>「水戸黄門」
東野英治郎版でしょうか?
里見浩太朗のバージョンは、余りロケを敢行しないんですよ。
カメラマンだけが行って後で合成したり・・・甚だ興ざめします。
ここは以前からロケ地として有名です
大きな岩と砂浜ですぐにわかる景色です
東尋坊といえば 友人が記念に撮った写真に幽霊が 海の上を
飛んでる写真が 青白い不気味な顔の・・・・
テレビ版で気になったシーンは お遍路のたびのシーンは
親子連れのお遍路と山で出会って その後お遍路に・・・
想像するにあの親子 服などを奪われているのでしょうね
残酷なシーンのような
>里見浩太郎版
では、評判が悪いので、ロケを敢行したようですね。^^
結構なことです。
何年か前のシーズンで、天橋立が出てきた時に合成だったのにがっかりしたので、よく憶えているんですよ。
>東尋坊
怖いですねえ。
大槻教授なら「あんなもん、光でも入ったんじゃないの」と言うでしょうが。
>テレビ版
は、この映画版が原作になっていると考えた方が良いかもですね。
清張の小説には3行くらいしか旅の模様はないですから。
さて、この「砂の器」。あれこれ言われてしまう主人公の苦悩。彼に殺された男が何とも気の毒。それを思いました。
>実話から離れて、神話的にこれを扱おうとしたのだと思いました。
ギリシア神話・ローマ神話・聖書を題材にした映画が多い。そう言う本を読んだ事があります。
>権力に相手にされないことは、なかなか意味深長です。
逮捕されない。でも虚しい・・・。
>間違いなくウィルスより危険といいうことはないでしょう。
参考にします。いつもありがとうございます。
>野村芳太郎監督作品「しなの川」
昔観たはずですが、憶えていないですねえ。
野村監督の作品ですから、もう一度観てもいいですね。
>彼に殺された男が何とも気の毒。
社会派作推理と言われる所以です。
>ギリシア神話・ローマ神話・聖書を題材にした映画が多い。
>そう言う本を読んだ事があります。
本も想像以上に多いですよ。驚くほどです。
>参考にします。いつもありがとうございます。
僕は門外漢ですので、総合的にご判断ください。ただし、専門家でも(半ば意図的に嘘をつくなど)信用できない人がいますので、理性的に考える必要がありますよね。
>社会派作推理と言われる所以です。
そう言えば「飢餓海峡」も自分の過去を知られたくない男が人を殺しました。
>本も想像以上に多いですよ。驚くほどです。
長男と次男の中の悪さを題材にした作品もあるでしょうね。
>理性的に考える必要がありますよね。
そう思います。
ところで新聞によると昨年の死者が11年ぶりに減。新型コロナウイルスが流行したが、肺炎による死者数が減った。コロナ対策でマスクをつけ、手洗いを徹底するようになったからだそうです。
>降旗康男監督、高倉健主演映画「ホタル」を先ほど見ました。
コンビ作の多い二人の作品。
降旗監督は少し格好を付けたがる悪い癖がありますが、それでも彼の作品にしみじみとしてしまう日本人は多いでしょう。日本人のDNA (そんなものがあるか知りませんが・・・笑)に訴えるのですかねえ。
>そう言えば「飢餓海峡」も自分の過去を知られたくない男が人を殺しました。
松本清張が「砂の器」を発表したのが1961年。水上勉が「飢餓海峡」を発表したのが1963年。
元々二人は色々と関係し合った仲なので、多分後輩に当たる水上は「砂の器」のような社会派ミステリーを書こうと思ったと推測しています。
>昨年の死者が11年ぶりに減。新型コロナウイルスが流行したが、肺炎による死者数が減った。
毎年インフルエンザ(による肺炎)で1万人、その他を含めて10万人が亡くなると言われていますが、今回コロナの死者は1年経ってもインフルエンザの死者に及びませんし、気を付けたことで肺炎になる人が減ったということですね。
僕の今後の予測ですが、ワクチン製造が遅れているので、ファイザー製に関しては二回打つところを一回になるのではないでしょうか。一回でも75%くらいの効果(インフルエンザ・ワクチンより効果が高い)があるそうで、そのほうが集団免疫に近い状態に早く到達し、日本全体としてはベターかも。引き続きマスクなどは必要としても、営業自粛要請など必要でなくなるはず。
それから年月が過ぎて転勤して自転車通勤になってから。テレビからこの映画を録画して見ました。やはり凄い作品でした。スタッフもキャストも素晴らしい。総力戦と言った感じです。
>二人の地道な捜査はミステリー映画ファンならまず満足できる面白さと言うべし。
昭和の時代の名刑事って感じです。先日見たドラマ版「砂の器」(昭和52年製作)では仲代達矢と山本亘。いい感じでした。
>プロはプロであって良いわけですが、それで追い詰められて不幸や悲劇が起きるのは避けたいものです。
スタローンの息子の人生も可哀想です・・・。
>砂の器」を読みました。どうしても変えられない過去。何とも残酷でした。
清張の小説群は、人間存在の切なさにぐっと来る作品が多いです。そこが人気の一因と思います。
>スタッフもキャストも素晴らしい。総力戦と言った感じです。
刑事二人。
丹波哲郎はこの後スピルチュアルのほうに行ってしまいますし、森田健作は政治家になって、若い頃の爽やかさを棒に振りました。政治家にもなるものではありませんね(笑)
脚本を橋本忍と山田洋次が担当していますが、山田洋次の監督で観たいなあ。「男はつらいよ」などコメディーや人間劇のイメージが強いですが、この人はカット割りが天下一品なので、それをサスペンスで生かしてもらいたい。高齢なので、もう作らないだろうな。
>スタローンの息子の人生も可哀想です・・・
全く知りませんでした。
ウィキペディアがこの件に全く触れていないので、他のサイトに当たったところ、亡くなったと書いてありました。原因ははっきりせず、歯を一遍に抜き過ぎたっせいかも、云々。ふーむ。
>清張の小説群は、人間存在の切なさにぐっと来る作品が多いです。
「遠い接近」も切なかったです。小林桂樹が主演のドラマ版も良かったです。
>政治家にもなるものではありませんね(笑)
晩節を汚しました・・・。
>カット割りが天下一品
天性の素質なのでしょう。
>歯を一遍に抜き過ぎたっせいかも、云々。ふーむ。
他にも色々な説がありますが、亡くなった人は戻ってきません・・・。
二世以外にも子役時代にスターだった人のその後も気の毒な例がたくさんありますね。その点「仮面の忍者赤影」で青影を演じていた人は堅実で立派です。
>それ以降のドラマ版もライ病(ハンセン氏病)以外の設定にしているようです。映画のように描くのは無理だったのでしょうか?
特に当時は無理だったかもしれませんね。
今は、ハンセン病も国の扱い自体が変わっていますし、元通りにできるかもしれません。厳密に言うと、ハンセン病でないと、その切なさは伝わって来にくいのですけどね。
TVと映画は色々と違いまして、例えば肖像権でも、ドキュメンタリーなどで偶然写り込んだ人は(許可が取れていなければ)ぼかしています。映画はその必要がありません。
昨年わが高校を扱ったTV番組で、何と僕が映っている写真が登場しましたが、ぼかされていました。許可なくても映して良かったのに(笑)
>「遠い接近」も切なかったです。小林桂樹が主演のドラマ版も良かったです。
清張は物凄い数の小説を書いていますので、この作品はタイトルも知りません。TVドラマの方も観ていません。映画至上主義だったもので(苦笑)。
井上陽水ではありませんが、「人生が二度あれば」ですね。
>「仮面の忍者赤影」で青影を演じていた人は堅実で立派
金子吉延。23歳で引退とか。
子供の頃見ていましたけど、名前は初めて知りました。