映画評「大奥」

☆☆★(5点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・林徹
ネタバレあり

フジテレビ系列のTVドラマの映画版で、江戸時代七代将軍徳川家継の時代に起きた有名な江島(絵島)生島事件に材料を求め、映像化している。

1714年、六代将軍家宣の正室・天英院(高島礼子)が、跡継ぎの家継を産んだ為に権勢を持つようになった側室・月光院(井川遥)とそのグループを権謀術数で追い詰めようと、月光院を守ろうとする大奥総取締・絵島(仲間由紀恵)に売れっ子歌舞伎役者の生島新五郎(西島秀俊)を近づけて陥れる陰謀を画策する。幼い家継の摂政役を務め月光院と恋仲の側用人・間部(及川光博)の失脚を図る秋元(岸谷五朗)がこれをバックアップする。が、絵島の身持ちが堅い為に事はすんなりとは進まない。

実際にはここまで明確な姦計はなかったようで、殆どが脚本家・浅野妙子の創作らしい。その一方で、権謀術数がテーマのようでいて実はそれほどでもなく、絵島が生まれて初めて恋した男を処刑で失う悲恋を描くのが眼目と理解される構成になっている。従って、天英院の姦計はこの恋を導き出すモチーフのような印象に留まり、激しいパワーゲームを期待すると肩透かしを食らう可能性が高い。

恋愛ドラマとしては恋の幸福を味わう一点を以って月光院と絵島の心理が共鳴し合うところはそれなりの工夫だが、天英院の使い走り・宮路(杉田かおる)の嫉妬を入れたことでお話が極めてご都合主義的な展開になっていくのは戴けない。

興醒めさせることを申せば、史実では生島は遠島になったものの死刑には処されていないし、絵島の減刑を頼んだのは幼い将軍ではなく月光院との由。つまり、浅野女史は観客の関心を引く為にかなりの部分で史実について劇的な変更を行なったことになる。史実の改変については江戸時代を舞台にしたメロドラマに過ぎないのだからとやかく言うのは野暮であろう。

映画的な面に関しては、開巻直後のミュージカル・レビューのような演出が面白いものの、総じてクロースアップ中心の絵面(えづら)は平凡で退屈させられる。

配役陣では、仲間由紀恵は声がこもって聞き取りにくいのが難点。

絵島が「全部まるっとお見通しだ」と言いはしないかとヒヤヒヤしながら(期待して?)ご覧になったTVファンも多いでしょう。

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