映画評「007/慰めの報酬」
☆☆★(5点/10点満点中)
2008年イギリス=アメリカ映画 監督マーク・フォースター
ネタバレあり
「007」シリーズ第22作にして、前作「カジノ・ロワイヤル」の続編。「007」史上初の現象だが、こういうのが起るのもDVDなどで気軽に旧作が見られる時代だからである。流行を追いかけ特定の映画・ジャンルしか見ない一般ファンはともかく、純粋な映画ファンにとって前作を復習してから観て評価するのは邪道だから、単独で観て楽しめないような作品は実力不足と思えば良い。本作も前作の固有名詞を忘れている観客を置いてきぼりにするところが多く、これが本作をつまらなくした第一の理由である。
ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)がハイチに飛んで、環境保護活動を隠れ蓑に暗躍するグリーン(マチュー・アマルリック)の様子を伺ううちに、男を利用して家族の仇である元ボリビア大統領の命を狙う美人カミーユ(オルガ・キュリレンコ)と知り合う。グリーンは元大統領に復職する為の資金を提供する代わりにボリビアの水資源の大半を独占して大儲けを企んでいるのである。詳細を確認しにボリビアの砂漠地帯に飛行機で赴いたボンドとカミーユは途中で襲撃され命からがら逃げのびる。
喧嘩友達的なCIAのフィリックス(ジェフリー・ライト)から最後の話し合いが砂漠の中にあるホテルで行われるという情報を得るとボンドは復讐のチャンスを狙うカミーユと共にホテルに乗り込む。
とお話を書いては来たものの、場面やシークェンスごとに説明不足気味で解りにくい点がままあり、こちらの頭が悪いのかと悩まされる。ボリビアの情報を提供してくれたイタリア人の元スパイ、マティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ)を巡るエピソードなどはその筆頭で、彼が車の中に潜り込んでいた理由ないし目的やあんな悲惨な最期を遂げなければならない理由が、推測ではなしに正確に解る人はいますか?
アクションは相当派手だが、屋根伝いの追い掛けなど序盤からポール・グリーングラスの「ボーン・アルティメイタム」に代表されるボーン・シリーズに似たアクションの連続で苦笑させられる。それは良いとしても、俊才マーク・フォースターがこの映画を真面目に撮っていないのが大変気になる。真面目に撮っていないというのは「作者の個性を全く出そうとしていない」という意味で、グリーングラスを真似たような細切れカット割りでお茶を濁して貰ってはフォースター贔屓の僕としてはちょっと困るのである。
しかも、一般論として細切れのカット割りは評価しないとは言え、グリーングラスの場合は細切れの中にもきちんと計算されたものがあるだけに比較的全体像が把握しやすいのに対し、今回のフォースターは本質的にそういうタイプの監督ではなく付け焼き刃なので殆どの場面で何をやっているのか正確には解らない。例えば格闘中に拳銃を拾って相手を撃つというシーンではボンドと銃と相手の位置関係がざっとしか示されない(寄りが多すぎる)のでサスペンスを感じる前に終ってしまう。本作ばかりでなく、最近の監督者にはアクションの中でサスペンスを生み出す為にはどんなカット割りがどんな長さで必要か一考を要求したいところだ。
「ジャンル映画では必要を越えた性格描写を含めてリアリズムを重視すべからず」というのが僕の持論だが、ある程度「カジノ・ロワイヤル」で書いたのでここでは省略。リアルさ追求の弊害でお話が陰にこもって気勢の上がらないこと甚だしく、がっかりさせられた。
これじゃ「想い出のグリーングラス」じゃよ。
2008年イギリス=アメリカ映画 監督マーク・フォースター
ネタバレあり
「007」シリーズ第22作にして、前作「カジノ・ロワイヤル」の続編。「007」史上初の現象だが、こういうのが起るのもDVDなどで気軽に旧作が見られる時代だからである。流行を追いかけ特定の映画・ジャンルしか見ない一般ファンはともかく、純粋な映画ファンにとって前作を復習してから観て評価するのは邪道だから、単独で観て楽しめないような作品は実力不足と思えば良い。本作も前作の固有名詞を忘れている観客を置いてきぼりにするところが多く、これが本作をつまらなくした第一の理由である。
ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)がハイチに飛んで、環境保護活動を隠れ蓑に暗躍するグリーン(マチュー・アマルリック)の様子を伺ううちに、男を利用して家族の仇である元ボリビア大統領の命を狙う美人カミーユ(オルガ・キュリレンコ)と知り合う。グリーンは元大統領に復職する為の資金を提供する代わりにボリビアの水資源の大半を独占して大儲けを企んでいるのである。詳細を確認しにボリビアの砂漠地帯に飛行機で赴いたボンドとカミーユは途中で襲撃され命からがら逃げのびる。
喧嘩友達的なCIAのフィリックス(ジェフリー・ライト)から最後の話し合いが砂漠の中にあるホテルで行われるという情報を得るとボンドは復讐のチャンスを狙うカミーユと共にホテルに乗り込む。
とお話を書いては来たものの、場面やシークェンスごとに説明不足気味で解りにくい点がままあり、こちらの頭が悪いのかと悩まされる。ボリビアの情報を提供してくれたイタリア人の元スパイ、マティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ)を巡るエピソードなどはその筆頭で、彼が車の中に潜り込んでいた理由ないし目的やあんな悲惨な最期を遂げなければならない理由が、推測ではなしに正確に解る人はいますか?
アクションは相当派手だが、屋根伝いの追い掛けなど序盤からポール・グリーングラスの「ボーン・アルティメイタム」に代表されるボーン・シリーズに似たアクションの連続で苦笑させられる。それは良いとしても、俊才マーク・フォースターがこの映画を真面目に撮っていないのが大変気になる。真面目に撮っていないというのは「作者の個性を全く出そうとしていない」という意味で、グリーングラスを真似たような細切れカット割りでお茶を濁して貰ってはフォースター贔屓の僕としてはちょっと困るのである。
しかも、一般論として細切れのカット割りは評価しないとは言え、グリーングラスの場合は細切れの中にもきちんと計算されたものがあるだけに比較的全体像が把握しやすいのに対し、今回のフォースターは本質的にそういうタイプの監督ではなく付け焼き刃なので殆どの場面で何をやっているのか正確には解らない。例えば格闘中に拳銃を拾って相手を撃つというシーンではボンドと銃と相手の位置関係がざっとしか示されない(寄りが多すぎる)のでサスペンスを感じる前に終ってしまう。本作ばかりでなく、最近の監督者にはアクションの中でサスペンスを生み出す為にはどんなカット割りがどんな長さで必要か一考を要求したいところだ。
「ジャンル映画では必要を越えた性格描写を含めてリアリズムを重視すべからず」というのが僕の持論だが、ある程度「カジノ・ロワイヤル」で書いたのでここでは省略。リアルさ追求の弊害でお話が陰にこもって気勢の上がらないこと甚だしく、がっかりさせられた。
これじゃ「想い出のグリーングラス」じゃよ。
この記事へのコメント
たしかにね、マークフォスターは器用な監督ですからね。
ちょっと今回は、次作のためのお金稼ぎなのかしら(笑)
>器用な監督
そう思いますね。
色々なタイプを上手く作ってきました。
それにはどこか一貫したものがあったと思うのですが、本作からはフォースターらしいテクニックが感じられなかったなあ。
次は自分らしいのをちゃんと作ってね、と言っておきましょう。(笑)
アクション面はこれまでの007シリーズと
比較すると格段にUpしていて満足度も高いですが
いつもながら、なぜ簡単に女性はころっと
落ちてしますのか・・・ボンドの魅力の秘密を
知りたいところです(笑)
今度、訪れた際には、
【評価ポイント】~と
ブログの記事の最後に、☆5つがあり
クリックすることで5段階評価ができます。
もし、見た映画があったらぽちっとお願いします!!
>女性
しかし、クレイグ氏はショーン・コネリーあたりと比較すると、貞操観念が強くストイックな感じがしますね。
ボンドは誰がよいかというようなことは言えない程度のファンなのですが
>クレイグ氏はショーン・コネリーあたりと比較すると、貞操観念が強くストイックな感じがしますね
これは同感です。フェミニズムの影響もあり、娯楽映画の中でも女性の扱いに気を配らないといけなくなってるせいもあるんじゃないでしょうか。ボンドといえども相手女性の人格と意志を尊重して、みたいなね。
大きな声では言えませんが、昔に比べて娯楽映画が貧乏くさくなってるのはそのせいかもしれないと思うことがありますよ。ここだけの話ですが(笑)
>時事的なトピック
ショーン・コネリー時代の「007」が凄いなあと思うのは、冷戦激しい時代に、米ソを対立させずに常に地球規模のテロリストや野心家を敵役にし、その為に時に米ソを接近させた作劇ですね。ロジャー・ムーアの「私を愛したスパイ」で本当に米ソがくっついた時は何だか感激したなあ(笑)
時事というより30~50年後先を読んでいました。
>フェミニズム
だから、何だか寂しいものがありますよね。
自由が拡大しているようでいて、芸術・娯楽分野では案外ご法度が多くなっているのかもしれません。大衆映画にそんな堅苦しいことはいらんと思いますけど、これも時代ということで・・・