映画評「女王陛下の007」
☆☆☆(6点/10点満点中)
1969年イギリス映画 監督ピーター・ハント
ネタバレあり
ショーン・コネリーが「007はもう御免」と退いた為にオーストラリアでモデルをしていたジョージ・レーゼンビーを大抜擢したシリーズ第6作。
スペクターの親玉ブロフェルド(テリー・サヴァラス)の捜査に行き詰った為に干されたジェームズ・ボンドが休暇中に気に留めた美女ダイアナ・リッグの父親がスペクターをライバルとしている大物ガブリエレ・フェルゼッティで、娘を再生させる交換条件でブロフェルドの動向を教えて貰う。彼が依頼している弁護士の事務所に侵入して英国の伯爵の継承権を主張していることを掴み、紋章官に化けてスイスのある山頂にあるアレルギー研究所実は細菌兵器及びテロリスト製造所に堂々と潜り込むが、被験者に色目を使ったことから正体がばれた為にスキーや車で必死に逃げ、同時に細菌兵器をばらまく計画を阻止すべく“義父”の軍隊を呼び出す。
事件後ボンドはダイアナと結婚するので“義父”と書いたのだが、スパイ映画である007シリーズの性格上独身を貫かねばならないので、第21作「カジノ・ロワイヤル」同様幕切れは推して知るべし。公開当時の評判はさんざんだった。最近は結構評価されている模様だが、どちらかと言えばカルト的な人気と言うべきで、冷静に判断すればシリーズ初期作品の中では余り上出来の部類ではない。
まずは前作「007は二度死ぬ」と違って研究所に乗り込むまで非常にスローかつ見せ場に乏しいこと。もう一つはレーゼンビーの魅力不足で、事実最初のうちは時々傍役かと勘違いしそうになったが、角度によってはクライヴ・オーウェンに似ていると思うとまずまず見られるようになるから現金なものだ。しかし、ショーン・ボンドのような慎重さや観察力が全く感じられないのは相変わらず不満。
その代りアクションの機敏さは歴代ボンドでも最高クラスで、冬季オリンピックもびっくりの、スキーにボブスレーに大いに生かされている。英米映画で本格的に観られた最初のスキー・アクションだったはずである。但し、ドイツ映画ではアーノルド・ファンクの山岳ものなどで戦前から観られたということは言っておく必要はあると思う。屋根をジャンプ台にするアクションはトニー・ザイラーの主演作品でも観られた。
そこに加えて雪道でのカー・アクションも楽しめる。進行中の雪上ストックカー・レースに紛れてしまうのも愉快。
監督は編集者上がりのピーター・ハントがこれまた大抜擢。本作では編集は担当していないが、当時の映画としてはかなり細切れのカット割りはご本人が担当した旧作007とさほど変らない。同じ細切れでもロングショットが入るので昨今の映画とは段違いにアクションの全体像がよく捉えられる。
しかし、進行するにつれて面白さを増していくものの、展開は全体的に鈍重。今回のWOWOW放映版は当初の日本公開版(130分)より12分長く、序盤が余計ルーズになっているらしい。
それからタイトルバックに旧作ボンドの場面が流れ、本編の途中で「ドクター・ノオ」の主題歌がかかることから、作者は本作をそれまでのショーン・ボンドに捧げるレクイエムのつもりで作ったのではあるまいか。序盤でボンドが干されるので益々そんな推測をしたくなる。原点回帰の意図も感じられる。
レーゼンビー007の最高傑作。^^ゞ
1969年イギリス映画 監督ピーター・ハント
ネタバレあり
ショーン・コネリーが「007はもう御免」と退いた為にオーストラリアでモデルをしていたジョージ・レーゼンビーを大抜擢したシリーズ第6作。
スペクターの親玉ブロフェルド(テリー・サヴァラス)の捜査に行き詰った為に干されたジェームズ・ボンドが休暇中に気に留めた美女ダイアナ・リッグの父親がスペクターをライバルとしている大物ガブリエレ・フェルゼッティで、娘を再生させる交換条件でブロフェルドの動向を教えて貰う。彼が依頼している弁護士の事務所に侵入して英国の伯爵の継承権を主張していることを掴み、紋章官に化けてスイスのある山頂にあるアレルギー研究所実は細菌兵器及びテロリスト製造所に堂々と潜り込むが、被験者に色目を使ったことから正体がばれた為にスキーや車で必死に逃げ、同時に細菌兵器をばらまく計画を阻止すべく“義父”の軍隊を呼び出す。
事件後ボンドはダイアナと結婚するので“義父”と書いたのだが、スパイ映画である007シリーズの性格上独身を貫かねばならないので、第21作「カジノ・ロワイヤル」同様幕切れは推して知るべし。公開当時の評判はさんざんだった。最近は結構評価されている模様だが、どちらかと言えばカルト的な人気と言うべきで、冷静に判断すればシリーズ初期作品の中では余り上出来の部類ではない。
まずは前作「007は二度死ぬ」と違って研究所に乗り込むまで非常にスローかつ見せ場に乏しいこと。もう一つはレーゼンビーの魅力不足で、事実最初のうちは時々傍役かと勘違いしそうになったが、角度によってはクライヴ・オーウェンに似ていると思うとまずまず見られるようになるから現金なものだ。しかし、ショーン・ボンドのような慎重さや観察力が全く感じられないのは相変わらず不満。
その代りアクションの機敏さは歴代ボンドでも最高クラスで、冬季オリンピックもびっくりの、スキーにボブスレーに大いに生かされている。英米映画で本格的に観られた最初のスキー・アクションだったはずである。但し、ドイツ映画ではアーノルド・ファンクの山岳ものなどで戦前から観られたということは言っておく必要はあると思う。屋根をジャンプ台にするアクションはトニー・ザイラーの主演作品でも観られた。
そこに加えて雪道でのカー・アクションも楽しめる。進行中の雪上ストックカー・レースに紛れてしまうのも愉快。
監督は編集者上がりのピーター・ハントがこれまた大抜擢。本作では編集は担当していないが、当時の映画としてはかなり細切れのカット割りはご本人が担当した旧作007とさほど変らない。同じ細切れでもロングショットが入るので昨今の映画とは段違いにアクションの全体像がよく捉えられる。
しかし、進行するにつれて面白さを増していくものの、展開は全体的に鈍重。今回のWOWOW放映版は当初の日本公開版(130分)より12分長く、序盤が余計ルーズになっているらしい。
それからタイトルバックに旧作ボンドの場面が流れ、本編の途中で「ドクター・ノオ」の主題歌がかかることから、作者は本作をそれまでのショーン・ボンドに捧げるレクイエムのつもりで作ったのではあるまいか。序盤でボンドが干されるので益々そんな推測をしたくなる。原点回帰の意図も感じられる。
レーゼンビー007の最高傑作。^^ゞ
この記事へのコメント
ですよね レクイエムでしょうね 「私を愛したスパイ」でも
今までの名シーンの登場 多々ありましたね
すべて異例ずくめの作品ですよね
>レクイエム
ご同意戴き、有難うございます。^^
>異例ずくめ
そうですね。
憂愁に沈むJ・ボンドなんて「カジノ・ロワイヤル」まで観たことがなかったですもんね。
レイゼンビー、ボンドとしては、まったりしているというか。逆に、このロマンスの一編には合っていたかもしれません。
ラストは悲しすぎますね。
>ラスト
「カジノ・ロワイヤル」が受ける時代ですから、全く評判の悪かったこの作品が一部で見直されているんでしょうね。
とは言え、ボーさんがご指摘されているように、途中での軽さと首尾一貫しませんけど。
この映画。スキーやボブスレー。そして雪上ストックカー・レースに紛れてしまう場面は素晴らしいです。
テリー・サヴァラスのブロフェルドも怖いし、強い感じでいいですね。最後にトレーシー(ダイアナ・リグ)を射殺する憎きオバタリアン(イルマ・ブント )を演じたイルゼ・ステパットがこの作品がイギリスで公開された3日後に急死と言うのも驚くべき話です!
>何故なら渥美清が寅さんなのだから。
荻昌弘氏は「ショーン・コネリーこそ本物のジェームズ・ボンドだ。」といつも言ってました。
>ダイアナ・リグに対する敬意が感じられました。
亡くなりましたねえ。映画ファンになりたての頃に憶えた女優ですので、感慨深いものがあります。
>イルゼ・ステパットがこの作品がイギリスで公開された3日後に急死と言うのも驚くべき話です!
偶然でしょうが、興味深い。
「ポルターガイスト」シリーズでは複数の関係者が次々とおかしな死に方を死、話題になりましたね。
そう思ったらブロフェルドとオバタリアンの襲撃!ボンドとトレーシーが追いかけて二人を仕留めると思ったら、トレーシーの死・・・。本当に驚きました!
バイクでその場に来た警察官にボンドが広川太一郎さんの吹替えで「大丈夫だ。疲れて眠っているだけだ。僕らにはいくらでも時間があるんだ。」悲しかったです。
>「ポルターガイスト」シリーズ
第1作ではお母さん役の女優が本物の骸骨と格闘。撮影後に監督から「本物だよ」と知らされたとか。
>トレーシーの死・・・。本当に驚きました!
あの流れで亡くなるのは、本当に予想外でしたね。シリーズを続ける為に必要だったのかもしれませんが、スパイに夫人がいても何らおかしくありませんよね。あるいは、ロマンスを展開させる時にまずいと思ったか(笑)。
>僕らにはいくらでも時間があるんだ。」悲しかったです。
しくしく。
しかし、よく憶えていらっしゃいますねえ。
>>「ポルターガイスト」シリーズ
>第1作ではお母さん役の女優が本物の骸骨と格闘。
>撮影後に監督から「本物だよ」と知らされたとか。
ジョベス・ウィリアムズ。あの頃割合よく見ました。現在はTV が多いようですね。
>ロマンスを展開させる時にまずいと思ったか(笑)。
昭和57年の放映で荻昌弘氏が「監督は何でこんな結末にしたんでしょうか?」と言いました。昭和61年の放映ではこちらです。
https://www.youtube.com/watch?v=itQYkYD0sUE
>ボブスレー
https://www.youtube.com/watch?v=CJUaCxfC_Ow
ブロフェルドの方が腕力が強い!そういう描き方がいいですねー!
>ジョベス・ウィリアムズと言えば「
>ダスティン・ホフマンが奥さんに逃げられた後の彼女?
僕の好きなジェーン・アレクサンダーも出ていますが、年齢的にそうかな?
>昭和57年の放映で荻昌弘氏が「監督は何でこんな結末にしたんでしょう
そう仰るでしょうねえ。むべなるかな。
>ブロフェルドの方が腕力が強い!そういう描き方がいいですねー!
何と言ってもテリー・サヴァラスですからねえ(意味不明)。カット割りがわりと(ダジャレ?)良いです。
ジェーン・アレクサンダーは「クレイマー、クレイマー」でメリル・ストリープの友人役ですよね?「大統領の陰謀」ではアカデミー助演女優賞にノミネートされたそうですが、どんな役だったか忘れてしまいました(すみません)。
>カット割りがわりと(ダジャレ?)良いです。
ほのぼの・・・です(笑)。
テリー・サヴァラスの次に「ダイヤモンドは永遠に」でブロフェルドを演じたのがチャールズ・グレイ。迫力がないです。
「007は二度死ぬ」でジェームズ・ボンドに協力するヘンダーソンを演じたのですが、早く退場・・・。
>ジェーン・アレクサンダーは「クレイマー、クレイマー」でメリル・ストリープの友人役ですよね?
そうなりますねえ。実年齢は10歳くらいありますが。
>「大統領の陰謀」ではアカデミー助演女優賞にノミネートされた
>そうですが、どんな役だったか忘れてしまいました(すみません)。
好きだとか言いながら、僕も憶えていません。結構いい加減(笑)
>チャールズ・グレイ。迫力がないです。
多分若すぎたんですね^^