映画評「ワルキューレ」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督ブライアン・シンガー
ネタバレあり
最近は戦争大作はあってもリアリズム基調の為に面白味が薄くて不満が残る中、本作は戦争サスペンスとして実に上手く作られている。実話ベースのお話としてはジョン・フランケンハイマーの傑作「大列車作戦」(1964年)以来の面白さと言ったら大げさにすぎようか。「日本のいちばん長い日」を思い出すオールド・ファンも多いだろう。但し、本作では観客は前述作と違ってクーデター派を応援することになる。
反ヒトラー的な思想を持っているシュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)が北アフリカ戦線で重傷を負って帰国して退院するや否や、ヒトラー暗殺を画策している軍隊上層部グループに招聘される。
暗殺だけでなくその後の政治体制も新規に作り直す必要があると主張した彼は、妻子と過ごした実家で聞いたワーグナーの「ワルキューレの騎行」から、クーデター阻止の為に発案されたワルキューレ作戦を逆手に取りドイツ予備軍(保安大隊)を親衛隊(SS)抑え込みなどに使う妙案を思い付く。
これにより作戦指導者的な立場に立つとワルキューレ作戦の司令書を改竄してヒトラーにサインさせることに成功、いよいよ幹部が集結する作戦会議に自ら実行犯として参加するが、ヒトラーに次ぐ重要人物たる親衛隊総司令ヒムラーが不在だった為に延期、1944年7月20日遂に実現の運びになる。
この正に“ドイツの一番長い日”とでも言うべき7月20日を描いたシークェンスは、突然の会議室変更やゲートでの足止め、上役の逡巡に、予備軍や通信室の動向を絡めて、久しぶりに良質な(時限)サスペンスになっていて見応え十分。残念ながら史実として結果が解っている分超弩級とまでは言えないかもしれないが、逆に考えればそれでもここまでハラハラさせてくれるクリストファー・マッカリーとネーザン・アレクサンダーの共同脚本は大したものだ。ブライアン・シンガーもまやかし的な演出に走らず堂々たるもので、結論は解っているなどと覚めた気持ちで観なければ高い入場料金でもお釣りが返って来る。
また、言語の問題について批判的な人もいるようだが、ドイツ人が英語を喋ると映画的に問題になるのは、ドイツ語以外に外国語特に英語の出て来る場面がある映画である。本作はドイツ語しか出て来ないから、英語でも特段の問題はない。なお良いことに、最初ドイツ語から始まって次第に英語になる方法により、序盤のうちにそれが観客との約束事であることをちゃんと示している。言語独自のムードはこの際忘れた方がお得。
ルネ・クレマンの力作「パリは燃えているか」はこのクーデターの失敗からお話が始まっている。
2008年アメリカ映画 監督ブライアン・シンガー
ネタバレあり
最近は戦争大作はあってもリアリズム基調の為に面白味が薄くて不満が残る中、本作は戦争サスペンスとして実に上手く作られている。実話ベースのお話としてはジョン・フランケンハイマーの傑作「大列車作戦」(1964年)以来の面白さと言ったら大げさにすぎようか。「日本のいちばん長い日」を思い出すオールド・ファンも多いだろう。但し、本作では観客は前述作と違ってクーデター派を応援することになる。
反ヒトラー的な思想を持っているシュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)が北アフリカ戦線で重傷を負って帰国して退院するや否や、ヒトラー暗殺を画策している軍隊上層部グループに招聘される。
暗殺だけでなくその後の政治体制も新規に作り直す必要があると主張した彼は、妻子と過ごした実家で聞いたワーグナーの「ワルキューレの騎行」から、クーデター阻止の為に発案されたワルキューレ作戦を逆手に取りドイツ予備軍(保安大隊)を親衛隊(SS)抑え込みなどに使う妙案を思い付く。
これにより作戦指導者的な立場に立つとワルキューレ作戦の司令書を改竄してヒトラーにサインさせることに成功、いよいよ幹部が集結する作戦会議に自ら実行犯として参加するが、ヒトラーに次ぐ重要人物たる親衛隊総司令ヒムラーが不在だった為に延期、1944年7月20日遂に実現の運びになる。
この正に“ドイツの一番長い日”とでも言うべき7月20日を描いたシークェンスは、突然の会議室変更やゲートでの足止め、上役の逡巡に、予備軍や通信室の動向を絡めて、久しぶりに良質な(時限)サスペンスになっていて見応え十分。残念ながら史実として結果が解っている分超弩級とまでは言えないかもしれないが、逆に考えればそれでもここまでハラハラさせてくれるクリストファー・マッカリーとネーザン・アレクサンダーの共同脚本は大したものだ。ブライアン・シンガーもまやかし的な演出に走らず堂々たるもので、結論は解っているなどと覚めた気持ちで観なければ高い入場料金でもお釣りが返って来る。
また、言語の問題について批判的な人もいるようだが、ドイツ人が英語を喋ると映画的に問題になるのは、ドイツ語以外に外国語特に英語の出て来る場面がある映画である。本作はドイツ語しか出て来ないから、英語でも特段の問題はない。なお良いことに、最初ドイツ語から始まって次第に英語になる方法により、序盤のうちにそれが観客との約束事であることをちゃんと示している。言語独自のムードはこの際忘れた方がお得。
ルネ・クレマンの力作「パリは燃えているか」はこのクーデターの失敗からお話が始まっている。
この記事へのコメント
そう、はじめはドイツ語で始まって英語に。この映画は英語にしますよ、って、ちゃんと説明してるんですよね。
中身については、楽しまれたようですね。私はそれほどでもなく…。うらやましいです。
トム・クルーズがどうみても質実剛健なる愛国者ドイツ人に見えなかったからというのは論外かしら。暗殺計画のシリアスさがどうも実感として伝わってこなくって。
「将軍達の夜」でもこの暗殺計画も絡めて描かれていて、結構ハラハラしながら見ていたんだけど…。本作はさほどハラハラしなかった。ここまで来たら感覚の違いになるんでしょうけどね。
やっぱ私の場合、原因はトム・クルーズかな(笑)
、
>ドイツ語で始まって英語に
そういう映画はありそうで余りないので、評価しても良いのではないかと思います。
「ニュールンベルク裁判」という戦争法廷映画があり、これは序盤のうちはドイツ語を一々英語に通訳する場面が入っていなのですが、見ていて煩わしいというので、同じ方式で英語での台詞で統一されて行きました。
これは二つの言語が英語に統一しながらも上手く処理した例として、強く印象に残っています。
>中身
ボーさんがそうだと申すつもりはありませんが、余りハラハラできなかった人の中には、華美なサスペンスに慣れ、想像力でハラハラさせる映画を見る力が落ちているが故に楽しめないというケースが結構多いのではないでしょうか。
そういう人には昔のサスペンスの傑作を見せても同じような反応でしょう、きっと。^^;
映画には色々目的があることを前提に、僕はこれを人間追求のドラマではなく、あくまで作戦がどう遂行されるかというサスペンスとして観ていたので、楽しめました。
それも実に地道に上手く作っていると感じましたが。
若い人が楽しめないとしたら、華美なサスペンスに感性が狂わされている結果でしょう。
>トム・クルーズ
どうなんでしょうかねえ。
本作においては特に問題を感じなかったので、解らないなあ。
>「将軍たちの夜」
“異常心理”と“人間”に立脚したサスペンスの傑作ですから、比較したら分が悪いです。^^