映画評「007は二度死ぬ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1967年イギリス映画 監督ルイス・ギルバート
ネタバレあり
007シリーズ第5作は日本が舞台である。その余りに出鱈目な日本描写の為に日本では賛否両論渦巻く珍品扱いになっているが、冷静に判断すれば前作「サンダーボール作戦」より快テンポで展開、決して馬鹿にしたものでもない。個人的にも、少年時代自動車マニアだった僕はいつものアストン・マーティンの代りにトヨタ2000GTが見られるだけで嬉しかったりする。
米ソの有人衛星が何者かにより奪われ、どうもその隠し場所が日本にあるらしいという情報を掴んだ我らが007(ショーン・コネリー)が早速日本へ飛んで、丹波哲郎が指揮をする秘密機関の絶大なる協力を得て“大里”なる怪しげな企業や貨物船を調べるうちに、ある海浜地帯が浮かび上がった為に地元の若い海女・浜美枝と偽装結婚し、カルデラの地下に作られていた拠点に侵入、丹波の部下である忍者部隊と共に敵即ちスペクター一味に立ち向かう。
日本の出鱈目な描写については国辱などと思わずに英米人の知識の程度を笑ってしまえば却って面白く観られる。パラレルワールドだからと許されてしまう「ローレライ」における長髪の軍人の方が余程出鱈目で、あんな長髪の軍人が認められる国民性ならそもそも戦争になっていないと思うのである。
さて、1960年代他のスパイ映画が冷戦をストレートにテーマにすることが多かったのに対し、スパイ・アクションの御本家たる007が意外にも最初からテロをテーマにしていたというのは興味深い現象で、「サンダーボール作戦」でも本作でも冷戦が好きなようにスペクターに利用されている。その結果段々規模が大きくなって本作では遂に地球の外にまで出るSF的趣向になっているのがお楽しみで、そんな壮大な物語に時代錯誤的な忍者が出て来るという途轍もないギャップをゲラゲラ笑いながら見るのが一番。
まだイアン・フレミングの原作に基づいているが、脚色が「ヒッチコック劇場」に優れたお話を提供した短編ミステリーの名手ロアルド・ダールというのも注目したいところ。ルイス・ギルバートが監督として選ばれたのは1959年に「香港定期船」という不出来なアジアものを作ったことと戦争アクションに実績があったからだろうが、意外や小回りの利いた演出で見とおし良好、後年「私を愛したスパイ」という傑作を作ることになる。
以前は浜美枝が可愛いと思って殆ど無視していた若林映子(あきこ)もなかなかお綺麗で、途中で毒殺されてしまうのがお気の毒(あの殺し方は江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」に似たアイデアだから、フレミング氏若しくはダール氏が拝借したのかもしれない)。スペクター側の美女はカリン・ドールで、2年後のアルフレッド・ヒッチコック「トパーズ」同様これまた無残に殺されてしまう。
日本語で「二度しか生きない」「二度生きる」では締まらないので「二度死ぬ」という邦題にしたのでしょう。
1967年イギリス映画 監督ルイス・ギルバート
ネタバレあり
007シリーズ第5作は日本が舞台である。その余りに出鱈目な日本描写の為に日本では賛否両論渦巻く珍品扱いになっているが、冷静に判断すれば前作「サンダーボール作戦」より快テンポで展開、決して馬鹿にしたものでもない。個人的にも、少年時代自動車マニアだった僕はいつものアストン・マーティンの代りにトヨタ2000GTが見られるだけで嬉しかったりする。
米ソの有人衛星が何者かにより奪われ、どうもその隠し場所が日本にあるらしいという情報を掴んだ我らが007(ショーン・コネリー)が早速日本へ飛んで、丹波哲郎が指揮をする秘密機関の絶大なる協力を得て“大里”なる怪しげな企業や貨物船を調べるうちに、ある海浜地帯が浮かび上がった為に地元の若い海女・浜美枝と偽装結婚し、カルデラの地下に作られていた拠点に侵入、丹波の部下である忍者部隊と共に敵即ちスペクター一味に立ち向かう。
日本の出鱈目な描写については国辱などと思わずに英米人の知識の程度を笑ってしまえば却って面白く観られる。パラレルワールドだからと許されてしまう「ローレライ」における長髪の軍人の方が余程出鱈目で、あんな長髪の軍人が認められる国民性ならそもそも戦争になっていないと思うのである。
さて、1960年代他のスパイ映画が冷戦をストレートにテーマにすることが多かったのに対し、スパイ・アクションの御本家たる007が意外にも最初からテロをテーマにしていたというのは興味深い現象で、「サンダーボール作戦」でも本作でも冷戦が好きなようにスペクターに利用されている。その結果段々規模が大きくなって本作では遂に地球の外にまで出るSF的趣向になっているのがお楽しみで、そんな壮大な物語に時代錯誤的な忍者が出て来るという途轍もないギャップをゲラゲラ笑いながら見るのが一番。
まだイアン・フレミングの原作に基づいているが、脚色が「ヒッチコック劇場」に優れたお話を提供した短編ミステリーの名手ロアルド・ダールというのも注目したいところ。ルイス・ギルバートが監督として選ばれたのは1959年に「香港定期船」という不出来なアジアものを作ったことと戦争アクションに実績があったからだろうが、意外や小回りの利いた演出で見とおし良好、後年「私を愛したスパイ」という傑作を作ることになる。
以前は浜美枝が可愛いと思って殆ど無視していた若林映子(あきこ)もなかなかお綺麗で、途中で毒殺されてしまうのがお気の毒(あの殺し方は江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」に似たアイデアだから、フレミング氏若しくはダール氏が拝借したのかもしれない)。スペクター側の美女はカリン・ドールで、2年後のアルフレッド・ヒッチコック「トパーズ」同様これまた無残に殺されてしまう。
日本語で「二度しか生きない」「二度生きる」では締まらないので「二度死ぬ」という邦題にしたのでしょう。
この記事へのコメント
さすがのケネディ大統領も形無しですね。^^
お世辞も相手を選びましょうか?(笑)
若林映子さん、きれいですよ~。あきこさん、と名前を覚えるのが大変そうですが。(関係ない?)
ギルバート監督、アジアものを撮っていたんですね。ふむふむ。
「サンダーボール作戦」は要素は揃いながらも鈍重なんですね。
そこへ行くと、こちらは珍奇さが手伝って小気味よく展開、非常に面白い。
結果的に採点は同じにしましたが、厳密に言えばやはり違う。
>若林映子さん
ふーむ、なかなかでしたね。
この間にTVがハイビジョンになった効果があるみたいですなあ。(笑)
これは彼が27歳の時。チョイ役?
https://www.youtube.com/watch?v=Dh_RH6i6UU8
>途轍もないギャップをゲラゲラ笑いながら見るのが一番。
僕はコネリーの007作品の中では「007が二度死ぬ」が一番好きです。もちろん傑作かどうかは別として(笑)。
>カルデラの地下に作られていた拠点
ルイス・ギルバート監督が好みそうなセットです。
>定年退職をした男性が何をしていいのか当惑する
1970年代後半に青春スターとして若い女性から人気があった草刈正雄と三浦友和。年を取って良い役者になりました。
>母への恩は返し切れなかった。
オカピー教授がこれから良き人生を送る事が恩返しではないでしょうか?
>ショーン・コネリー死去。とうとうこの日が来てしまったか・・・と思いました。ご冥福をお祈り致します。
そうでしたか。今朝の新聞にはまだ載っていないので、知りませんでした。90歳。西洋人としては長生きの部類でしょうか。
合掌!
>僕はコネリーの007作品の中では「007が二度死ぬ」が一番好きです。
僕も好きです。コネリー・ボンドの中では一番コミカルかな?
>草刈正雄と三浦友和。年を取って良い役者になりました。
同感です。三浦氏には成長ぶりには吃驚します。
>オカピー教授がこれから良き人生を送る事が恩返しではないでしょうか?
そう思うしかないですね。頑張ります。
浜美枝と若林映子は最初は逆の役柄。浜さんがあまり英語が得意ではないから?でもこの配役で良かったと思います。毒殺される酷さ。若林さんがうまく演じました。
>三浦氏には成長ぶりには吃驚します。
やはり「台風クラブ」からです。鴻上尚史が絶賛していました。また若山富三郎が「彼は将来日本の映画界を背負って立つ男だ」と。
>頑張ります。
オカピー教授の子供さんもうまく育っていてうらやましいです。我が家はこれからどうなる事やら・・・。そして夫婦喧嘩も多くなりました。
https://www.youtube.com/watch?v=9i4JG-8RlsY
長さんが唄う5番の歌詞を思い出します(苦笑)。
そして6番の歌詞は悲しくて切ない・・・・。
>浜美枝と若林映子は最初は逆の役柄。浜さんがあまり英語が得意ではないから?
>でもこの配役で良かったと思います。
そうですか。
理由はともかく、成功した配役だったと僕も思います。
>やはり「台風クラブ」からです。
相米慎二監督の演出ばかり観ていて、よく憶えていないなあ。多分マイ・ライブラリーにあるから見なけりゃいけませんね。
>オカピー教授の子供さんもうまく育っていてうらやましいです。
隣の芝生はグリーン(笑)というやつですよ。
>長さんが唄う5番の歌詞を思い出します(苦笑)。
この歌のような人は多いですよねえ。やれやれ。
>そして6番の歌詞は悲しくて切ない・・・・。
これはオリジナルの歌詞そのものですよね。これからの戦争は、かりにあったとしても、ああいうことにはならない。しかし、戦争はあってはならないですねえ。だから、野党や学者やジャーナリストが政府に意見をするわけですが、政府に異を申すと、反日だのと馬鹿なことを言う輩がいまして。国を愛するから異論を出すのでしょうに。
菅氏は、予想以上に答弁能力がなく、「美しい国へ」のような一種宗教的なバックボーンがないので、支持率は案外早く下がるような気もしています。
そんなことを考えておりましたら、新聞広告に出ていた、書店で売っていない雑誌【選択】に、安倍の再々登板の可能性に触れる見出しがありました。僕は“さすがにない”と踏んでいましたが、またやる気でしょうか? 二回も続けて病気で退場した人が・・・確実に命を縮めますよ。蟷螂の斧さんの懸念が現実化しないように祈ります。
大統領選挙。バイデンが勝利でしょうか?菅総理はどうするんでしょうか?
安倍さんが3回目の登板。それは酷いです・・・。
>これからの戦争は、かりにあったとしても、ああいうことにはならない。
さすがに特攻隊はないでしょう。そして戦艦が沈められる事も。
>本作では遂に地球の外にまで出るSF的趣向
「ムーンレイカー」でも。さすが!ルイス・ギルバート監督。妙な日本人が出てくるし(苦笑)。
>長谷川和彦監督作品「青春の殺人者」を見ました。
DVD か何かですか?
TVにはなかなか出て来ない珍品でして、死ぬまでにもう一度見ておきたい秀作です。監督も文字通り伝説的になっていますね。
>大統領選挙。バイデンが勝利でしょうか?菅総理はどうするんでしょうか?
今の情報を信ずれば、バイデンが勝ちそうです。トランプの抵抗も空振りに終わる可能性が大。
菅氏はどっちでもやりにくいでしょうね。安倍っちならトランプが良いでしょうが。