映画評「シリアの花嫁」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2004年イスラエル=ドイツ=フランス映画 監督エラン・リクリス
ネタバレあり

ノー・マンズ・ランド」花嫁版である。

1967年以来イスラエルに占領されているゴラン高原のマジュダルシャムス村、25歳の娘モナ(クララ・フーリ)は半年掛けた許可がやっと下りて今日結婚するというのに浮かない顔をしている。相手が逢ったこともない男だからではなく、“境界”を超えてシリア側に入ったら(占領が解かれない限り)二度とこちらに戻って来られないからである。
 一途なシリア派である為に投獄されたことのある父親も姉アマル(ヒアム・アッバス)の奔走で辛うじて軍事境界線に接近することが許され、これで目出度く結婚できると思いきや、イスラエルが出国印を押したことにシリアの役人が反発、その間に入る国連の女子職員も右往左往するだけで力になれない。花嫁は国連車が入って来てゲートが開けられた時にシリア側へと歩み出す。

花嫁とその家族が形式的に作られた国境(軍事境界線)に翻弄される様子を戯画的に捉えた風刺作で、国連職員が無策のまま何往復もする様子に微苦笑が洩れるものの、主人公が同じように中立地帯に取り残されてしまう「ノー・マンズ・ランド」ほど強く諧謔を狙ったものではない模様。結果的にお役人仕事に義憤を感じてしまうのだが。

国境のシリア役人(軍人)が言うように「シリア人が国内を移動するだけ」だから彼女はシリアに入っても命に関わるような問題は起きないだろうが、法律的にどうなるのか解らない。
 いずれにしても彼女が自分の意思で歩き出したということが肝要であり、本作の女性映画としての側面がよく出た幕切れになっている。それは夫の束縛を振り切って大学へ入るというアマルの強い決意にも現れている。

また、妹娘の結婚騒動の中でロシア女性と結婚した為に父親と不和になった長男ハテム(エヤド・セーティ)と和解が進むのも微笑ましく、かく人間が寛容になれば全ての境界を越えることができるという作者の思いが感じられる。

心にしみる秀作と言うべし。

この記事へのコメント

2010年04月11日 20:01
こんばんは。
主演のヒアム・アッバスさん目当てで見たのですが、感動しました。
さりげない父子の和解シーンは思わず嗚咽。(見たときの気分にもよると思うのですけど。)
ラストも、すばらしかったです。
なんて、何のヒネリもない素直なコメントでした。
オカピー
2010年04月12日 01:13
ボーさん、こんばんは。

>和解シーン
僕も、じーんとしてしまいました。
泣かせるに人を殺す必要はないですよねえ。

>何のヒネリもない素直なコメント
コメントをするのもなかなか難しいもので、
場合によっては記事より考え込んでしまうことすらあります。

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