映画評「劔岳 点の記」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2009年日本映画 監督・木村大作
ネタバレあり
大ベテランの撮影監督木村大作初メガフォン作。山岳文学でお馴染み新田次郎の同名小説の映画化である。
日露戦争直後、国力をさらに上げる為には高精度の地図を作ることが必須と前人未到とされる劔岳に登頂し三角点を設置せよと陸軍参謀本部陸地測量部の測量士・柴崎芳太郎(浅野忠信)が命じられ、案内人・宇治長二郎(香川照之)と共に時間を掛けて可能性を探るうちに、日本山岳会(中村トオルら)というライバルが出現、初制覇を巡って測量隊にプレッシャーを掛けていく。
最終的には国力向上も初登頂の名誉も関係ない柴崎の孤高な精神や山男同士の友情が浮き彫りにされていくお話だが、余りにドキュメント的なぶつ切り的な場面の扱いと主人公の性格故に次はどうなるかという劇映画本来の楽しみに欠ける。登山をやっているとか山に関心のある人にはまた別の感想もあると想像されるものの、僕みたいな凡俗なインドア派の輩には面白いと言い難い。
その意味で余り買わない一方で、本作を観た殆どの人が仰るように山岳を捉えた撮影は圧倒的に素晴らしい。その映像だけを集めて30分くらいの自然ドキュメンタリーとして見たらさぞかし満足しただろう。しかし、実際には139分もある長尺に加えリズムに欠ける展開ぶりにつき、BGMのバロック音楽を聞いているうちに睡魔に襲われること必定。半分冗談だが、BGMにピンク・フロイドの「エコーズ」でも使ってくれたら面白い効果が出たかもしれない。
僕が言いたいのは、商業映画は映像コンクールではなく総合芸術だから映像だけが突出していても、それをもって良い映画と言うのは甚だまずい、ということである。
映画を評価する時に気をつけなければならないことについてもう一点。
山岳地帯における撮影ではスタッフもキャストも苦労が強いられる。この作品が心血を注いだ労作であることは画面を見るだけでも解るし、昨年の今頃TVがしきりに苦労や努力を伝えていた。CG最盛期に実際の撮影に拘ったことには頭が下がる。観客におかれては関係者に大いに敬意を払うべし。
しかし、それと評価は全く次元の違う話で、一部の評者が行っているように苦労や目に見えない努力を作品の価値とするのは間違いである。小説家が苦労して書いても、画家が一枚の絵を生み出すのに難儀しても、それを慮って作品自体を評価する人がまずいないことを考えれば容易にご理解戴けるはず。映画だけを特別扱いをするのは変だし、映画を愛するならなおさら特別扱いすべきではない。
木村大作の大作。<(_ _)>
2009年日本映画 監督・木村大作
ネタバレあり
大ベテランの撮影監督木村大作初メガフォン作。山岳文学でお馴染み新田次郎の同名小説の映画化である。
日露戦争直後、国力をさらに上げる為には高精度の地図を作ることが必須と前人未到とされる劔岳に登頂し三角点を設置せよと陸軍参謀本部陸地測量部の測量士・柴崎芳太郎(浅野忠信)が命じられ、案内人・宇治長二郎(香川照之)と共に時間を掛けて可能性を探るうちに、日本山岳会(中村トオルら)というライバルが出現、初制覇を巡って測量隊にプレッシャーを掛けていく。
最終的には国力向上も初登頂の名誉も関係ない柴崎の孤高な精神や山男同士の友情が浮き彫りにされていくお話だが、余りにドキュメント的なぶつ切り的な場面の扱いと主人公の性格故に次はどうなるかという劇映画本来の楽しみに欠ける。登山をやっているとか山に関心のある人にはまた別の感想もあると想像されるものの、僕みたいな凡俗なインドア派の輩には面白いと言い難い。
その意味で余り買わない一方で、本作を観た殆どの人が仰るように山岳を捉えた撮影は圧倒的に素晴らしい。その映像だけを集めて30分くらいの自然ドキュメンタリーとして見たらさぞかし満足しただろう。しかし、実際には139分もある長尺に加えリズムに欠ける展開ぶりにつき、BGMのバロック音楽を聞いているうちに睡魔に襲われること必定。半分冗談だが、BGMにピンク・フロイドの「エコーズ」でも使ってくれたら面白い効果が出たかもしれない。
僕が言いたいのは、商業映画は映像コンクールではなく総合芸術だから映像だけが突出していても、それをもって良い映画と言うのは甚だまずい、ということである。
映画を評価する時に気をつけなければならないことについてもう一点。
山岳地帯における撮影ではスタッフもキャストも苦労が強いられる。この作品が心血を注いだ労作であることは画面を見るだけでも解るし、昨年の今頃TVがしきりに苦労や努力を伝えていた。CG最盛期に実際の撮影に拘ったことには頭が下がる。観客におかれては関係者に大いに敬意を払うべし。
しかし、それと評価は全く次元の違う話で、一部の評者が行っているように苦労や目に見えない努力を作品の価値とするのは間違いである。小説家が苦労して書いても、画家が一枚の絵を生み出すのに難儀しても、それを慮って作品自体を評価する人がまずいないことを考えれば容易にご理解戴けるはず。映画だけを特別扱いをするのは変だし、映画を愛するならなおさら特別扱いすべきではない。
木村大作の大作。<(_ _)>
この記事へのコメント
場面の扱いと~~次はどうなるかと
いう劇映画本来の楽しみに欠ける。
この気持玉というもの一人何個でもいいので
あれば当記事には10個くらい差し上げたい!^^
山岳シャシンに目くらましばかりさせて
何ですか、あのお話の面白くなさ加減は!
(山岳学芸会ですか!)
クラシック苦手でも唯一バロックはOKの
私でもあれは使い過ぎプラス耳障り。
風の音や自然音など巧くもっと入れられ
なかったものか、無音の効果が全く
考えられていない上に
山岳撮影隊のご苦労には
いたく頭が下がりますが・・・・
“景色良くてもそれだけじゃ飽きるよ”
(- -)^^
>気持玉
制限なしです。いくつでもどうぞ。<(_ _)>
>あのお話の面白くなさ加減は!
最初と最後の30分はしゃんとしていましたが、間の1時間くらいは睡魔と闘っておりました。
で、幸いにも録画していたので、その間の1時間をもう一度観てみましたが、やはり眠くなる。
つまり体調だけでなく、実際に眠気を誘う映画なんですわいな。
この映画を高く評価している人々特にベスト10で上位に挙げたプロの評論家にお伺いしたいくらいですが、本当にお話まで楽しめたんでしょうかねえ。
彼らのコメントは、お話については殆ど触れず、映像の迫力や苦労という文字ばかりが躍っている。推測するに、実際に面白いと思っている人はごく僅かでしょう。
>無音の効果
Sound of silence!
的確かつ素敵な表現ですね。
確かに自然音は全く印象に残っていないです。
僕は20分に編集しなおして、フロイドの木村大作おっと間違えた、大作「エコーズ」を本当にかぶせたくなりました。
測量と地図作りのことなんか全く判らずしまいの映画で、なんでこの映画が受賞するほどの評価を受けるのか…
>冗談だが、BGMにピンク・フロイドの「エコーズ」でも使ってくれたら面白い効果が出たかもしれない
キューブリックの「バリー・リンドン」には良くぞこの楽曲をとピッタシカンカンの「サラバンド」を、その「サラバンド」を面白みもなく悲壮感溢れるばかりに当たり前に使っちゃってね…憤慨してます。冗談でなくってピンク・フロイド面白いかも。
これは全く意見が一致しました。^^)v
大体公開前に映画製作の裏話をするのはどうかって思いますね。
例えば、「七人の侍」製作には大変な苦労があったと関係者から語られたのは製作後何年も経ってからです。
誉めている人の大半は、確かに素晴らしい映像美と、聞かされた若しくは想像される苦労にすっかりやられたという感が否めませんなあ。
>ピンク・フロイド
の「エコーズ」は文字通り木霊がテーマで、30年くらい前にロック評論家の渋谷陽一氏が「ヒマラヤに登ったらこの曲の真価が解る」みたいなことを仰っていたのを思い出しまして・・・
この本編、ストーリー、展開は単調で、正に退屈でしたね。
ただ、私は、最近のアクション系の米映画の目のいたくなるような画が多い中、撮影の苦労がどうこうは関係なく、すべて実写で撮ったという事実、これは決してその苦労をたたえるのではなく、CGのたぐいを使わなかった点において、これは大きなスクリーンでみる画だなと感じました。久々に。
そして、市川監督の“映画にならない題材はない”との職人としての言葉を想いだし痛感させられた作品でした。ある意味、すごいと思いました。
“撮っちゃうかね~”と。
ただ、映画とは一般公開する以上、興行ですからね、そしてこれもくどいと思われるかもしれませんが、私の純粋な想いとして娯楽である映画としては、評価はね・・・・。
しかし、私の映画評ではない、単純な感想としては、これが映画かもしれないと個人的に強く想わされた作品でした。
普段の反動でしょうかね・・・・。
私は、けっこう夢中で見てしまいましたよ、つまらないなりに。
では、また。
本当の実写映画が少なくなった現在では実に貴重な作品でしたね。
映像も苦労の結果に値する素晴らしいものでした。
しかし、それで良い映画になるなら撮影以外の才能は要らないということにもなるわけで、映画批評とはどうあるべきかという視点が要求された作品です。
良い話が良い映画になるとは限らないと同じ理屈ですね。良い話=良い映画なら映像にする必要はなく、脚本を読めば良いわけですから。
寧ろこの後に続く本当の実写映画が出て来ないかなあと待望してしまいますね。
観ていてストーリー的にもっと力の入る実写映画。