映画評「ベルサイユの子」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2008年フランス映画 監督ピエール・ショレール
ネタバレあり

失業中のニーナ(ジュディット・シュムラ)が6歳くらいの息子エンゾ(マックス・べセット・ド・マルグレーヴ)を連れて町を彷徨しているうち、ホームレスの支援団体に保護されてヴェルサイユ宮殿の近くにある施設に送られる。翌朝そこを出た二人は森で掘立小屋を作って暮している三十代の男性ダミアン(ギヨーム・ドパルデュー)と巡り合うが、ニーナは息子を置いて出て行ってしまう。彼女には高齢者介護施設で自立して引き取りに戻る目論見を持っているが、勿論エンゾにはその思いは伝わらない。
 一度は腹を立てたダミアンも慕って戻って来た少年と暮し始め、それはやがてこの子供を何とかしようという思いに進化し、断絶していた父親(パトリック・デカン)の元に戻ってから、エンゾの父親を名乗って親権を取り小学校に通わせるが、仕事を続けることが出来ず失踪してしまう。
 七年後ダミアンの父に育てられているエンゾにニーナから手紙が届く。

ピエール・ショレールという新人のデビュー作。寄りの映像を多用したセミ・ドキュメンタリーで、社会の下層部で苦闘する人々を接写するというポジションはダルデンヌ兄弟の影響を受けているかもしれない。

ただ、些か描写に舌足らずなところがあって一人合点になっているところがある。
 例えば、社会の底から何とか抜け出そうと施設で鍛錬し働き始めたニーナが何とか目鼻がついた頃息子を置いてきた森に出かけ、発見できずに夜を明かしてしまう場面が挿入されている。ちゃんと仕事を得たはずの彼女が森の中で一晩明かす理由が解らず、そそっかしい人なら彼女が再びドロップアウトしたのかと勘違いしてしまう。
 その時点で目鼻が付いていたのなら7年放置したのは何故か。この辺りの描き方が不足していて、発見するまでに7年かかったと解釈したとしても説得力がない。省略は大きな武器だが、仕方を誤っては元も子もないという典型例と言うべし。

彼女以上にダミアンには社会に適合しにくい性格があるようで、どんな事情があったか正確には解らないものの仕事を辞めて父親夫婦(父の連れ合いは若い後妻)に預けて家を出る。
 彼が無責任な人間であることをベースに作品を批判する方がいらっしゃるが、映画で大事なのは扱われる人物像が一貫しているか、若しくはその変化が解るように描かれているかであって、主人公が立派な人間か否かにあらず。

ダミアンがエンゾと一緒に暮し始めるのは再鑑賞したばかりの「犬の生活」でチャップリンが野良犬に自分の分身を見るのと同種の思いからと思われる。彼が少年に「勇気を証明しろ」と言うのはそのまま自己への言葉である。だから、「勇気を証明しろ」と言った本人こそ勇気がないではないかと批判するのは洞察が足りない。
 また、野良犬が財布を発見することも、この少年がダミアン(やニーナ)を社会に復帰する意気込みを促進することも大きな枠では同じ役割と言えるかもしれない。逃避性向の強い彼は再び挫折して姿を消すが、それでもエンゾが一番慕うのはダミアンである。幼年時に覚えた愛情はそれほど強いのだ。

という具合にホームレスの問題を通して人間の絆を描こうとしたのだろうが、幕切れの扱いなど気取りすぎてピンと来ず、少年が何を考えているかもよく解らない。しかし、感覚は悪くないので、もう少し描写の出し入れがきちんと出来れば将来ダルデンヌ兄弟のような評価を得ることができるだろう。

この記事へのコメント

2010年05月24日 23:54
こんにちは。
僕は、この映画がわりと好きなんですね。
社会不適合者の両親はどうしようもないですね。
でも、その不器用さに、応援したくもなります。
不幸な家族ですが、模範的家族なんかは逆に少ないですからね。
多かれ少なかれ、僕たちもまた不器用なところもあります。
いく
2010年05月25日 00:43
凄く的確な評価です!素晴らしいです。

正に、中盤~終盤にかけて各々の心情が把握しずらく、かつ終わり方があの様な感じなので、『えっ、これで終わりか…』と少々ガッカリでした。

中盤までの流れが面白かったので、ご想像にお任せします的な感じではなく、ハッキリ伝えて欲しかったです。

というド素人の意見でした。
オカピー
2010年05月25日 01:07
kimion20002000さん、こんばんは。

僕も嫌いではないですが、技術的には問題が多い作品でした。
デビュー作ですから、仕方がないでしょう。

kimionさんのご意見には全く賛同いたします。
少年の母とダミアンは確かにダメ人間ですが、僕らも彼らを批判できるほど立派ではないですものね。
オカピー
2010年05月25日 01:11
いくさん、初めまして。
コメント有難うございます。

弊記事に対する高いご評価については、誠に恐れ入ります。
相当まだるっこい言い方をしていますが、平易に述べれば、いくさんの仰るそのままの意見です。
僕も「お任せします」タイプは余り好きではないですね。それは作者の逃げである場合が多いです。
シュエット
2010年05月25日 10:09
P様の指摘されるように技術的な問題はあるものの、胸に響くものがあり、それとこの映画の公開の前にギヨーム・ドパルデュー死亡のショックと、彼と父親との確執なんかも作中の彼と重なったりして、感情移入してしまったかな。
ただ、こういうテーマの映画をみると、親と子とか、社会と自分との関係とかの在りようとかの描き方とか捉え方をみているとキリスト教世界というか欧米社会だなって思うし、先進諸国が生み出した病だなって思うし、そのことをこうして映画(「路上のソリスト」もそうだし)にしろ真摯にストレートに描き出そうとする意識も健全にあるというところも人間ありきのヨーロッパだなって思う。最近の日本って安易なレベルでセンチメンタルか楽天的かに走っていて、人間をきちんと描いていないって思う。
オカピー
2010年05月26日 01:18
シュエットさん、こんばんは。

内容については仰る通りですが、僕の場合映画からいかに情報を得るかというのを重要な評価ポイントにしていますから、解らないところが多いと作品としては評価しにくいです。
勿論全体の構成からシュエットさんの仰ることは感覚として捉えられますけどね。

>最近の日本って
全部が純文学やドキュメントでなくても良いとは思うので、甘っちょろいなりに上手く作っていれば僕は許してしまいますが、TV局が絡んだ作品の作りのひどさには呆れてものが言えません。

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