映画評「007/私を愛したスパイ」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1977年イギリス映画 監督ルイス・ギルバート
ネタバレあり
「007」シリーズ通算第10作はジェームズ・ボンドがロジャー・ムーアに代って3本目である。ムーア以降のシリーズの中ではこの作品が一番面白く作られていると思う。前の2本はつまらないので、今回は割愛。
英国の原子力潜水艦が突然行方不明になり、オーストリアで休暇を楽しんでいたボンドが急遽呼び出され、何者かが発明したらしい原潜追尾システムの設計図を追ってエジプトのカイロに飛ぶ。
同じ頃ソ連の原潜も姿を消していた為KGBの美人スパイ、アニヤ(バーバラ・バック)が敵の正体を掴む為にボンドと呉越同舟することになり、二人は敵方の繰り出す数々の妨害をはねのけ、海洋学者夫婦に偽装して謎のドイツ人(クルト・ユルゲンス)が作り上げた海洋研究所に乗り込む。
というお話で、シリーズをずっと見て来た人はシリーズ・パロディーのオンパレードになっているのに気付かれるはず。
英ソの原潜が何者かにさらわれるというのは、本作を監督したルイス・ギルバートが10年前に作った「007は二度死ぬ」と同じ図式で、スキーでの脱出劇は「女王陛下の007」、列車内の対決は「ロシアより愛をこめて」、裏切者の始末の仕方や幕切れのズッコケは「サンダーボール作戦」といった具合である。
前期007総集編と思われる所以だが、それだけで高評価しているわけではなく、見せ場を出し惜しみしない作劇に好感が持てるのである。例えば、偽夫婦が車に乗っていると、サイドカー付きのバイクが現れ、さらに車、それを平らげると大型美女キャロライン・マンローの操縦するヘリコプターが追い掛けて来る。こうしたアクションの畳み掛けが見事で、水陸両用の車で海中からヘリコプターを仕留める一幕がご機嫌。
留めを刺すのが「ジョーズ」のヒットを受けて現れる人間ジョーズことリチャード・キールで鋼鉄製の歯で色々な見せ場を繰りひろげた挙句に幕切れ寸前本物のジョーズ(つまり人食いサメですな)と食い合うというおとぼけで大笑いさせてくれる。その他にも「アラビアのロレンス」の音楽がパロディー的に流れたり、ロジャー・ボンドの落下傘が開くと英国国旗になっているなど随所に笑いを交えて誠に楽しい。
「007」シリーズでは世界征服を企む悪党の為に東と西が歩調を合わせるというパターンが多いが、本作では実際に呉越同舟するという初めての展開となっているのがデタント(雪解け)末期時代をいかにも感じさせて興味深い。その後ソ連のアフガン侵攻を巡っての睨み合いはあったが、12年後所謂冷戦は終わる。
正確には「愛したスパイを殺したスパイを愛した女スパイ(私)」ですね。
1977年イギリス映画 監督ルイス・ギルバート
ネタバレあり
「007」シリーズ通算第10作はジェームズ・ボンドがロジャー・ムーアに代って3本目である。ムーア以降のシリーズの中ではこの作品が一番面白く作られていると思う。前の2本はつまらないので、今回は割愛。
英国の原子力潜水艦が突然行方不明になり、オーストリアで休暇を楽しんでいたボンドが急遽呼び出され、何者かが発明したらしい原潜追尾システムの設計図を追ってエジプトのカイロに飛ぶ。
同じ頃ソ連の原潜も姿を消していた為KGBの美人スパイ、アニヤ(バーバラ・バック)が敵の正体を掴む為にボンドと呉越同舟することになり、二人は敵方の繰り出す数々の妨害をはねのけ、海洋学者夫婦に偽装して謎のドイツ人(クルト・ユルゲンス)が作り上げた海洋研究所に乗り込む。
というお話で、シリーズをずっと見て来た人はシリーズ・パロディーのオンパレードになっているのに気付かれるはず。
英ソの原潜が何者かにさらわれるというのは、本作を監督したルイス・ギルバートが10年前に作った「007は二度死ぬ」と同じ図式で、スキーでの脱出劇は「女王陛下の007」、列車内の対決は「ロシアより愛をこめて」、裏切者の始末の仕方や幕切れのズッコケは「サンダーボール作戦」といった具合である。
前期007総集編と思われる所以だが、それだけで高評価しているわけではなく、見せ場を出し惜しみしない作劇に好感が持てるのである。例えば、偽夫婦が車に乗っていると、サイドカー付きのバイクが現れ、さらに車、それを平らげると大型美女キャロライン・マンローの操縦するヘリコプターが追い掛けて来る。こうしたアクションの畳み掛けが見事で、水陸両用の車で海中からヘリコプターを仕留める一幕がご機嫌。
留めを刺すのが「ジョーズ」のヒットを受けて現れる人間ジョーズことリチャード・キールで鋼鉄製の歯で色々な見せ場を繰りひろげた挙句に幕切れ寸前本物のジョーズ(つまり人食いサメですな)と食い合うというおとぼけで大笑いさせてくれる。その他にも「アラビアのロレンス」の音楽がパロディー的に流れたり、ロジャー・ボンドの落下傘が開くと英国国旗になっているなど随所に笑いを交えて誠に楽しい。
「007」シリーズでは世界征服を企む悪党の為に東と西が歩調を合わせるというパターンが多いが、本作では実際に呉越同舟するという初めての展開となっているのがデタント(雪解け)末期時代をいかにも感じさせて興味深い。その後ソ連のアフガン侵攻を巡っての睨み合いはあったが、12年後所謂冷戦は終わる。
正確には「愛したスパイを殺したスパイを愛した女スパイ(私)」ですね。
この記事へのコメント
これは、わたしが中学2年のときに友人と行った想い出の作品・・面白かったあ。最近の007は観ていませんが、ロジャー・ムーアのころは好きでした。わたしとしては前二作も楽しめましたが、ショーン・コネリー=007になっちゃってたんで、作品制作は苦しかったんでしょうね。
この作品では、バーバラ・バックが、とても素敵でこのころファンになってしまってましたし、このような娯楽大作がヨーロッパ(イギリス)で製作されていたというのも魅力的です。
では、また。
>前2作
35年くらい観ていない計算になるので、どんなもんだったか正確に憶えていないですが、007ファンは「なかったことにしたい」作品群らしいですよ。
双葉さんの評価も芳しくなかった。
それに比べると本作は断トツに面白く、「ユア・アイズ・オンリー」の評価も通の間では高いですね。
「ムーンレイカー」はとんでも映画という評判ですが、僕は割合好きでした。
>ロジャー・ムーア
スマートなのは良かったけど、コネリー氏より年上だったのが惜しい。(笑)
>バーバラ・バック
リンゴ・スターの二番目の奥さんですよね。
調べてみたらまだ婚姻生活が続いていて、何だか感動しました。^^
ジョーズ役最初 ジャイアント馬場にオファー来たとか・・・・
断ったようですが
水上バイクなんかも 最新兵器として登場しましたね
クルト ユルゲンス貫禄ですが やや歳をとりすぎですか
いまいちだったような・・・・
面白かったですねえ。
公開当時「マンガ」といった評もありましたが、概ね好評でした。
>ジャイアント馬場にオファー
ふーむ、動きがどうだったでしょうか?(笑)
>クルト・ユルゲンス
調べてみたら、当時62歳。
ムーア氏も50歳で、実はボンド役にはちょっと年齢が行きすぎていた感はありましたが、スマートなのは良かった。
ジョーズを筆頭に漫画チックともいえますが、楽しめればいいのです。
実際、本作の前2本も私はわりと面白かったです。
昨今の作品は何でもかんでもリアリズムでね、面白くないです。
前の二作に比べると密度が濃くて、ロジャー・ボンドでは僕は断然これをお薦めしますね。
前の二作はジャングルと東洋が舞台で、邪劇ムードが濃厚で有難くなかった・・・
>ルイス・ギルバートが10年前に作った「007は二度死ぬ」と同じ図式
ルイス・ギルバード監督が好みそうな巨大なセットでした。また多数対多数の撃ち合いや手榴弾なども「007は二度死ぬ」みたいです。
>僕はスタジオ・ジブリの素人起用が嫌いではないです。
僕の弟が子供の頃からアニメが大好きですが、「となりのトトロ」及び素人起用が嫌いだと言ってました。映画の好みは十人十色なんですね。
>断然時間が足りないように思えてきました。
ひたすら読書をする人もいます。「残された時間を読書で費やしたい。」と。
>僕がこの作品を見たのはその時以来です。
完全版は初めてだったわけですね。30分くらいのカットがあると本当の面白味が分らないでしょう。子供の頃見た作品を完全版で再鑑賞したいのはそういう事情があります。
>素人起用が嫌いだと言ってました。映画の好みは十人十色なんですね。
他人の好悪についてはあれこえ言えませんが、一般論として、正しい理解なしにダメ出しをしてはいけませんね。弟さんの話ではないですよ(笑)
僕は、現実的な話の場合、うますぎる声優より、俳優より素人のほうが本当らしさを感じることが多いのですよ。
>ひたすら読書をする人もいます。「残された時間を読書で費やしたい。」と。
僕も読書(大半が大古典ですが)には相当時間をかけています。
とにかく多趣味なので大変です^^;
>30分くらいのカットがあると本当の面白味が分らないでしょう。
タンカー内部の戦闘場面を見て思った事。勇敢にも闘って死んでいく仲間たち。あるいはボンドたちが潜水艦に乗って脱出する時に、まだ外にいるままの仲間たち(見殺し?)。悲しく思いました。
>一般論として、正しい理解なしにダメ出しをしてはいけませんね。
僕なんぞは映像が楽しめればよいと思っています。
>とにかく多趣味なので大変です^^;
素晴らしいです!
>12年後所謂冷戦は終わる。
現在の米中の争いはまた違うパターンですね。
>僕なんぞは映像が楽しめればよいと思っています。
そういうポジティブなのは大いに結構ですが、作品の狙いも理解していないで貶す人の何と多いことか by チコちゃんの森田美由紀アナ?(笑)
>現在の米中の争いはまた違うパターンですね。
その一方で、ロシアはソ連時代のしがらみから全く抜け出ていず、アメリカが敵視する国家ばかり応援する。
話は少し変わりますが、コロナのせいで中国と北朝鮮間の貿易が殆どストップしているので、坊得駅は中国頼りの北朝鮮の内情はどんでもないことになっているのではないでしょうか。