映画評「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年スウェーデン=デンマーク=ドイツ=ノルウェー映画 監督ニールス・アルデン・オプレヴ
ネタバレあり

スウェーデンの作家スティーグ・ラーソン(ラーション)が唯一残したミステリー・シリーズの映画化第一弾。

日本のTVでお安いミステリーが大量生産されているのに比べると、映画界で本格ミステリーは洋画・邦画ともそれほど多くない。そんな状況下では、ジャンルは問わないと豪語している僕も元来推理小説ファンなだけにミステリーには他ジャンル以上に食指が動く。

「ミレニアム」という月刊誌を発行するブルムクヴィスト(ミカエル・ニクヴィスト)が自らの記事により名誉棄損罪に問われて有罪になる。一方、大企業グループの元会長ヘンリク・ヴァンゲル(スヴェン=べルティル・タウベ)は探偵社のパンク美人リスベット(ノオミ・ラパス)から得た情報を信用して、収監されるまで間のあるブルムクヴィストに40数年前に起きた姪の死体なき殺人について調べて貰うことにする。
 リスベットはハッキング能力を発揮して彼のパソコンにアクセス、被害者が日記に残した暗号が「聖書」に絡んでいるようだとメールを送信する。以降この二人がコンビを込んで暗号を解き、事件の真相に接近していく。

全体の三分の二くらいまでは横溝正史ミステリーと似た構図、即ち名門一族の愛憎を見立て殺人の中に浮かび上がらせる話なので、古典ミステリー・ファンをわくわくさせるものがある。
 また、リスベットの言動を過去を交えて小出しに描き、終盤事件の真相を明らかにすることで、日本のミステリーで言えば松本清張よろしく人間存在のおぞましさが表現されると同時に、本作の通奏低音が女性の男性への反撃・復讐であることが明確になる。しかし、その関連で幕切れで苦味の代りに痛快さを打ち出す辺りは良くも悪しくも湿っぽくなりがちな邦画と違うところだろうか。

リスベット絡みのシンプルなフラッシュバックを別にすると、お話の進行が基本的に時系列に沿った正攻法なのも誠に有難い。ヒロインの複雑な内面、ゴシック・ファッション、物凄い映像記憶やハッキング技術といった能力面の面白さがなくても高得点を出したくなる。

金田一耕助はこの二人分の仕事を一人でします。

この記事へのコメント

ドラゴン
2010年07月25日 23:41
確かに、金田一シリーズに似た感じでしたね。映画館で観る前は、あまり期待していなかったのですが、面白くて満足しました。北欧のサスペンス映画なんてのも中々観られないので良かったです。続編もあるようですが、予告編を観る限り、一作目とはまた違った作りになっていそうですが。
オカピー
2010年07月26日 01:26
ドラゴンさん、こんばんは。

>金田一シリーズ
そうでしたでしょう。
見立て殺人自体は家族内では起こりませんけどね。

>北欧のサスペンス映画
確かに珍しいです。
1970年代の映画に「刑事マルティン・ベック」というのがあったくらい。
僕が割合好きだったボー・ヴィーデルベルイ監督(「みじかくも美しく燃え」)の作品です。

>続編
既に紹介されたヒロインの特徴がもっと発揮されるでしょうから、本体部分がしっかりしていればもっと面白くなりそうですね。
2010年07月26日 07:03
いつもの時間よりだいぶあれでしたから
きっとお時間とれないか体調不良なのかしら
と心配しておりました~。(^ ^);
かなり早い放映でしたね~本作。
こんな面白い正統派のミステリーが
たったの2~3週間だけ公開な上、
よくやってるな零細映画館上映・・・
著者の急逝で世間は別意味で騒いでいますが
そんなことでもなければ日の目を
見れなかったのかなぁ~なんて
邪推しそうになる風潮ですな全く。
リスベットの外見は奇でしたが
ミステリーの面白さとしては
語りがスムーズで至極まとも?(笑)

>「刑事マルティン・ベック」

観ましたよ。
薄い記憶の中にありました。^^
2010年07月26日 08:34
タイトルからして、魔法か超能力が出てくるCG満載のアクション映画と思っていました。
北欧の傑作サスペンスとして記憶しまっス!
ハイ、観ておりません

>「刑事マルティン・ベック」

これも未見のままですが、小説の方は読みましたよ。
シリーズは10作あったはずですが、8作くらいは読みました。きっかけは映画の元ネタ「笑う警官」。そういえば、同名の映画がどこぞの国でも作られたような・・
オカピー
2010年07月27日 00:23
vivajijiさん、こんばんは。

昨日は珍しく山に(住んでいるところも山ですが^^;)ドライブなどに出かけまして、帰りに元サナトリウムだったという病院に寄って父親を見舞って帰ったら夜。その後映画を観ましたから、変な時間になりました。
また、この辺は連日雷雨なのでその時間帯はパソコンが使えない状態になるので、それで遅れる場合もあるかもしれません。

心配をお掛けいたしました。<(_ _)>
昨日もおなかの調子はいま一つでしたが、強行してしまいました。^^;

>正統派
内容は正統派、作りは正攻法で、それだけでも有難い時代になってしまいましたねえ。
時系列操作やどんでん返しもたまにあれば嬉しいですが、サスペンス映画=どんでん返しのような風潮になって、それを想定してみますからどんでん返しの効果が薄く、ない映画が「ダメ映画」みたいな烙印を押されかねない。
最近は正攻法が多少復権しつつあるような気がしないでもないですが。

>別意味で騒いでいます
自分を持っている人が、殊に日本は少ないですから、そうした話題性がないと未公開に終わったかもですね。
オカピー
2010年07月27日 00:33
十瑠さん、こんばんは。

>魔法か超能力
ミレニアムなんて横文字がいかんです。^^
ドラゴンなんてのもファンタジーを思わせますね。

>「刑事マルティン・ベック」
渋い映画でした。凄く面白いとは言えないですが、味が良いんですな。

>「笑う警官」
おおっ、そんなに原作を読まれていますか。
僕は比較的最近のミステリーやサスペンスは読んでいないです。古典は読破しましたが。
同名の映画、ありますね。^^;
このくらいの特徴的なタイトルですと、著作権があってしかるべきです・・・
シュエット
2010年08月23日 14:18
劇場公開時は気になりつつも都合がつかなくてスルーした映画。録画したもののようやく鑑賞しての記事アップです。
喋りすぎない、説明しすぎないのがいいですねぇ。北欧映画って概して寡黙な作品が多い。内部でじっと熟成させる。熟成の過程を黙ってじっと見詰めつづけて描いている。
本作で面白いなって思ったのが、ハッキングの情報収集するといったデジタルな一方で、事件の真相に迫る手がかりとなるのは、カメラで撮ったネガフィルムで連射された一連の画像だったり、ペーパレス時代と逆行して、会社の資料室に長年にわたり年次別に保管されていた資料だったりといったアナログ的なものであり、地道で根気の要る作業からというところが、案外と作者のもう一つのメッセージであるようにも思えました。
原作者は左翼ジャーナリストで、ここに描かれた内容はスウェーデンの現実でもあるんでしょうね。またもやハリウッドがリメイクするとか…。ったくリメイクばかりのハリウッドってどうなるんでしょうかしらね。
先日同じくスウェーデン映画「ぼくのエリ 200歳の少女」観てきました。人間の1少年とヴァンパイアの少女の、残酷だけど、でも12歳の二人の小さな恋のメロディでもある映画。良かったです。
北欧映画ってやはり良質な作品を出していきますねぇ。
オカピー
2010年08月24日 00:41
シュエットさん、お久しぶりです。
このところコメント欄が閑古鳥でした。^^;

>北欧映画って概して寡黙な作品が多い
何しろベルイマンを生んだ戦前からの映画先進国スウェーデンが中心ですから。
スウェーデンはとにかく観客を甘えさせないお国柄。
対照的に昔からアメリカは饒舌で合理的、昨今の邦画は説明過剰てなもんで、何だか味気ないです。

>デジタル・アナログ
この辺りを上手く表現すると今の娯楽映画は面白くなりそう。
「ダイ・ハード4.0」が結構楽しめたのもそこを強調していたからでした。

>ハリウッドでリメイク
リメイクにシリーズ、まともな新作の方が少なく感じられるくらいで、うんざりです。
ハリウッドは中年以上が眼中にない気がしますなあ。

>「ぼくのエリ 200歳の少女」
1年後の為に記憶に留めておきますね。^^

>北欧映画ってやはり良質な作品を出していきますねぇ。
米国映画よりスクリーニングされているので有利と言えども・・・ですね。

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