映画評「さらば友よ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1968年フランス映画 監督ジャン・エルマン
ネタバレあり

本作の評価としてよく言われるのが「チャールズ・ブロンスンがアラン・ドロンを食った映画」という表現である。翻せばドロンはそれだけ二枚目であり、人気があったということだから、ドロン・ファンとしては溜飲を下げるべきなのであろう。いずれにしてもブロンスンは本作でスターになった。

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アルジェリア戦争から帰還した軍医ドロンが、知り合いの軍医を探すオルガ・ジョルジュ=ピコと知り合って、その人物の代理として彼女が勤務する広告会社の健康診断をする合間に金庫室の様子を探り、クリスマス休暇の間に金庫に債券を返すという変な仕事を依頼される。
 それに気付いた外人部隊のアメリカ人軍曹ブロンスンが金庫に納められている大金も奪ってしまおうと勝手に仕事に加わるが、苦労して金庫を開けた時には既に大金はなくしかも金庫室に閉じ込められてしまう。やっと外に出るとガードマンが一人射殺されていて吃驚、ドロンを逃す為にブロンスンはベルナール・フレッソンが指揮する警察に逮捕される。ドロンは強盗殺人容疑者として逃走しながら調査を開始、医務室で助手を務めたブリジット・フォッセーに詰め寄って真相に肉薄すると、真犯人を逮捕させるべくフレッソンを動かそうとするが・・・。

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最初は互いに出し抜こうとした二人が罠に嵌められたと知って協調を取るうちに友情が芽生えるという図式の犯罪映画で、特に捕まったブロンスンがにやけつつも終始一貫「あの男は他人で、事件とは関係ない」と主張し続ける辺り男気に胸が熱くなる以上に誠に爽快な気分にさせられる。

日本映画を含めてアジア映画に模倣した感じの作品が幾つもあるが、どうしても必要以上に情を絡め過ぎて重くなったり様にならなかったりするのに対し、その点ご本家は情の中に軽妙さがあり、見事に絵になる。その典型が幕切れで、連行されるブロンスンの煙草にドロンがあくまで他人として火を付けるところには毎度痺れますなあ。

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ミステリー的に観ていくと金庫の組合せ番号の設定など腑に落ちない点が幾つかあるものの、友情を軸に考えれば他に余り良い映画のないジャン・エルマンとしては最初で最後の三塁打的会心作と言うべし。

今回の放映版は残念ながら英語版、しかし、吹替えは非常に上質だった。口の動きが英語の台詞にあっているのは何故でしょう?

フランス警察がこの時代のどの映画にでも見せる人権無視の犯人へのアプローチに苦笑が洩れる。

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この記事へのコメント

2010年09月11日 00:32
このレビュー、楽しみにしていました!!
この映画、以前からこちらでオカピーさんとやりとりさせて頂く中で、たびたび話に出ていましたね。わたし的にも☆4つ献上で一緒です。

本作の魅力はなんと言ってもやっぱりアラン・ドロンですよね!!
ブロンスンが食った、食ったとみんな言いますが、そんな発言、うちの母が認めませんっ 笑
アラン・ドロンは本作にしても、「ボルサリーノ」、「冒険者たち」、「地下室のメロディー」にしても、意外と「男の友情」を軸に持った作品の方が、女性を絡めた作品よりも、彼の魅力が発揮される気がします。
煙草の火をつけるシーンとか、ほんと何度観ても「キターーーーー」って叫びたくなって刺さりますよっ!!!(←もはや冷静さ喪失 汗)

ちなみに高校生の時に、NHK-BSで観たこの映画と、父親の書棚から見つけて読んでみたレイモンド・チャンドラーの小説が、私にとっての「男のカッコ良さとはこれだ!」的デフォルトになった気がします。
オカピー
2010年09月11日 18:22
RAYさん、こんばんは。

最近時間が限られているので簡単に済ませてしまいましたが。

本文でも書いたように、一歩譲って「ブロンスンに食われた」と認めるにしても、それだけドロンの人気が凄かったという証左でもあるわけで、がっかりすることはないのでしょう。^^
やはりドロンは格好良いですしね。

>男の友情
その通りでしょうね。
ヌーヴェルヴァーグに好まれたベルモンドと違って極めてストイックな感じがしますから。
友情についてはジャン・ギャバン以来の伝統でもあるのでしょう。

>チャンドラー
先日村上春樹訳による「さよなら、愛しい人」を読みました。
通常知られる「さらば愛しき女(ひと)よ」のタイトルのほうがピンときますが、時々返答が暴走する青年探偵フィリップ・マーロウが面白かったなあ。
年齢等は書かれていませんが、映画版のロバート・ミッチャムに比べると随分若そうですね。
そろそろ村上氏自身の小説も読まないと。^^
2010年09月12日 11:28
オカピーさん、どうも。
昨日は、TBした後、来客があって、コメント書き込みできませんでしたあ。すみません。
さて、この作品のオカピー評、待ってました、ですよ。8点か、まずまずですね。
>アラン・ドロンを食った映画
これって、主演二人以上のドロン主演作品、ほとんど、そうですよね。一貫してます。逆に考えれば、ドロンの特徴・・・わたしは、共演者の魅力を最大限引き出してしまう名優だったと、未来の映画俳優史に記録されるのではないか、と思っているほどです。
単独主演で素晴らしいものも多いですけれど、「太陽がいっぱい」「若者のすべて」「サムライ」「パリの灯は遠く」・・・多作の割には少ないですかね。
>男の友情>チャンドラー
ハード・ボイルド、フィルム・ノワール・・・男の規範を徹底している作品は大好きです。損得なしで自らの生き方を規定する・・・人としての真実のあり方のひとつが、かっこよさに結びついているんじゃないでしょうか?
「タフでなければ、生きていけない。 優しくなければ、生きていく資格がない。」
なんちゃって・・
では、また。
オカピー
2010年09月13日 01:26
トムさん、こんばんは。

なかなかドロンに注力できませんですみません。

>8点
相当良いですよ。^^
本文でも書いたように、金庫の組合せ番号が何故犯人側に関係あるのかよく解らなかったりするので、これくらいで良いかと。

>ドロンの特徴
そういう言い方もできるかもしれませんし、「レッド・サン」なんかでは明らかに、出演者というより製作者的に、ブロンスンと三船敏郎を客的に大事に扱っている感じが出ていましたね。

>ハードボイルド
フランスの犯罪映画は全体的になかなかハードボイルドなんですが、アメリカのハードボイルド映画が切れ味が良いのに比べると、どうも鈍重ですね。僕は決してその鈍重さは嫌いではないのですが、最近の若い人は退屈しちゃうだろうなあとは思います。

>チャンドラー・・・男の規範
RAYさんと話が合いそうですなあ。^^
2010年09月13日 22:24
再び、お邪魔します。

>そろそろ村上氏自身の小説も読まないと。^^

チャンドラーの村上春樹訳、読まれたんですね!
ハルキ氏はチャンドラー「ロング・グッドバイ」、ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」、フィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」が人生の「三大洋書」らしいです。ちなみにこの3冊は私も大好きですが。

オカピーさん好みに当てはまりそうなハルキ作品は「風の歌を聴け」のような気がしますが、意外と映画的・人間ドラマ的で面白いと思われるのは「ねじまき鳥クロニカル」かもしれません。
気が向きましたら、ぜひ!

>RAYさんと話が合いそうですなあ。^^

はい、僭越ながら私もトムさんのコメントを拝見して、そう思いました 笑
私、アラン・ドロン好きでヴィスコンティ好きで、ルイ・マル好きな母に育てられましたので。
あと「世にも怪奇な物語」を観て、フェリーニの3話より、ルイ・マル作&アラン・ドロン主演の2話が刺さったワタクシですので。ふふふ。
オカピー
2010年09月14日 18:24
RAYさん、こんばんは。

>「カラマーゾフの兄弟」
何と、このヘビーな小説がお好きとな!(笑)
三兄弟の関係は大変面白いですけどね。

>ハルキ作品
田舎の図書館にもあることはありますが、どうも管理が当てにならないので、確実に手にしようと思ったら都会(笑)まで繰り出す必要がありますかなあ。
年内の目標にしましょうか。

>トムさん
遅れてきたドロン世代(?)の僕より5つくらいは若そうな、ポスト遅れてきたドロン世代くらいでしょうが、ドロンにかけては日本一の情熱を持っているのではないかというくらい凄い。
僕もドロンは好きですが、基本が広く浅くなのでトムさんのような真似はできません。
ドロンから教養を広げて行ったという感もあるくらいで、こういう映画との接し方もあるのかとびっくりしましたね。

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