映画評「キルショット」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督ジョン・マッデン
ネタバレあり
「決断の3時10分」といった西部劇や「ジャッキー・ブラウン」などの犯罪映画の原作者として知られるエルモア・レナードのサスペンス小説を「恋に落ちたシェークスピア」のジョン・マッデンが映像化しても世間様は心動かされることはないようで、アメリカでも細々と公開、日本ではお蔵入りになった。
別居中の妻ダイアン・レインが務める不動産屋に面接に来たトーマス・ジェーンが社長の不在中に恐喝しにやってきたマフィアの殺し屋ミッキー・ロークと相棒の若者ジョゼフ・ゴードン=レヴィットと接近遭遇する。顔を見られたもののその場は殺人哲学に合わなかった為に何もせずに去ったロークは態勢を整えダイアンが一人で暮らしている家に殺しにやって来るものの、猟銃を構えられてまたもや退散。
夫婦は政府の証人保護プログラムに入り別人として暮し始める。しかし、殺し屋たちもしたたかなもので前の家の電話に残された登録から母親の家を突き止め巧みに新しい電話番号を聞き出した上で、殺害されたふりをして保護プログラムを解除させ、ダイアンが一人でいる家に籠城、ジェーンが訪れるまで待つ。
一時ほどでないにしても時系列の入り組んだ作品が持てはやされる昨今だけにここまでシンプルだと地味に思われるので未公開もやむを得ない感じがするが、このシンプルさや正攻法は大変貴重であると思い、面白さ以上に☆を進呈する次第。小細工を弄するよりストレートな構成で面白く見せる方が難しいのだ。但し、殺し屋の描写のほうが多いくらいなのは観客をヒヤヒヤさせようとする映画の描写配分としては疑問。
その中で夫婦が別居中ということが重要なアングルになっていて、夫が部外者的に殺し屋に対峙することになるという辺りに工夫が見られる。殺し屋たちにとってもここに陥穽があるわけだ。
首を傾げたのは証人保護プログラムの効力である。売りに出した(と見せかけた)家に電話回線がそのまま残っているというのは日本の加入権システムでは考えられず、危機管理の甘そうな一人暮らしの母親が新しい電話番号を知っているのでは大分心許ない。これが実体に即しているものかどうか定かでないが、これが実体に近いものなら揶揄的な扱いと言いたいくらい。ともかく、お話としては、保護プログラムに入って安心と思っているところへ二人組が現われる方がショック度が高いように思われる。
しかし、演出はなかなか上首尾。暴力描写は即実的ながらパンチがあり、サスペンスも強烈とまでは行かないまでもじっくりと醸成、昨今の娯楽作品としては割合濃厚な映画的ムードを残す。変化球ばかり求めたがる若い人にはお薦めできませんが。
トーマス・ジェーンという名前は変てこ。阪神監督の真弓明信の親戚みたいなもんですかな。
2008年アメリカ映画 監督ジョン・マッデン
ネタバレあり
「決断の3時10分」といった西部劇や「ジャッキー・ブラウン」などの犯罪映画の原作者として知られるエルモア・レナードのサスペンス小説を「恋に落ちたシェークスピア」のジョン・マッデンが映像化しても世間様は心動かされることはないようで、アメリカでも細々と公開、日本ではお蔵入りになった。
別居中の妻ダイアン・レインが務める不動産屋に面接に来たトーマス・ジェーンが社長の不在中に恐喝しにやってきたマフィアの殺し屋ミッキー・ロークと相棒の若者ジョゼフ・ゴードン=レヴィットと接近遭遇する。顔を見られたもののその場は殺人哲学に合わなかった為に何もせずに去ったロークは態勢を整えダイアンが一人で暮らしている家に殺しにやって来るものの、猟銃を構えられてまたもや退散。
夫婦は政府の証人保護プログラムに入り別人として暮し始める。しかし、殺し屋たちもしたたかなもので前の家の電話に残された登録から母親の家を突き止め巧みに新しい電話番号を聞き出した上で、殺害されたふりをして保護プログラムを解除させ、ダイアンが一人でいる家に籠城、ジェーンが訪れるまで待つ。
一時ほどでないにしても時系列の入り組んだ作品が持てはやされる昨今だけにここまでシンプルだと地味に思われるので未公開もやむを得ない感じがするが、このシンプルさや正攻法は大変貴重であると思い、面白さ以上に☆を進呈する次第。小細工を弄するよりストレートな構成で面白く見せる方が難しいのだ。但し、殺し屋の描写のほうが多いくらいなのは観客をヒヤヒヤさせようとする映画の描写配分としては疑問。
その中で夫婦が別居中ということが重要なアングルになっていて、夫が部外者的に殺し屋に対峙することになるという辺りに工夫が見られる。殺し屋たちにとってもここに陥穽があるわけだ。
首を傾げたのは証人保護プログラムの効力である。売りに出した(と見せかけた)家に電話回線がそのまま残っているというのは日本の加入権システムでは考えられず、危機管理の甘そうな一人暮らしの母親が新しい電話番号を知っているのでは大分心許ない。これが実体に即しているものかどうか定かでないが、これが実体に近いものなら揶揄的な扱いと言いたいくらい。ともかく、お話としては、保護プログラムに入って安心と思っているところへ二人組が現われる方がショック度が高いように思われる。
しかし、演出はなかなか上首尾。暴力描写は即実的ながらパンチがあり、サスペンスも強烈とまでは行かないまでもじっくりと醸成、昨今の娯楽作品としては割合濃厚な映画的ムードを残す。変化球ばかり求めたがる若い人にはお薦めできませんが。
トーマス・ジェーンという名前は変てこ。阪神監督の真弓明信の親戚みたいなもんですかな。
この記事へのコメント
絶対借りて観ているはずの映画ですね。^^
(観たいのがなく最近全く借りてません)
アカデミー賞作「恋に落ちた~」の神通力は
もう無いのでしょうかね。
地道な演出・マッデンさん、いいと思いますけど。
「レスラー」人気で復活したM・ロークの
名前でも儲からないと判断されたのでしょうか。
E・レナードの書くものって
大体お話がねじくれているのね。(^ ^)
これもホンにした方、
たいへんだったと察しますが。
でもやっぱりマッデン節はそこかしこに
観られて私は最後までじっくり堪能しました。
ただね~若干モタつき加減に見える彼の演出には
この配役ではいかにも淡泊に見えましてね。
これだけに限らず
今更言っても仕方ないんですけれど
40年ほど前あたり活躍なさった役者さんですと
映画の中を流れている匂いや風まで
違ってくるような想像を盛んに巡らしながら
観てました~。
ハル・ホルブルック氏の遺作だったのですね~
やはりこの作品をご覧になりましたか。^^
半端な公開作品より注目すべき原作者や監督の作品の方が観る価値があるかもしれないですねえ。^^;
>「レスラー」
聞くところによると、そのヒットによりアメリカでもやっと公開に至ったくらいだとか。
ダイアン・レインも頑張っているのになあ。
>マッデン
最近流行の細切れ、寄り、揺れを使わない古典的なアクション演出に満足しました。寧ろ消去法みたいな評価の仕方ですが、それだけ見にくい撮影とカット割りが跋扈しているということ。もう嫌になってしまう。
>モタつき加減に見える
まあ正攻法かつご丁寧なんでしょうね。
これくらい衒いのない犯罪映画も近年珍しく、1970年代の映画を見ているよう。
>40年くらい前あたり活躍
トーマス・ジェーンがムード的にちょいと弱いと思いましたが、誰がよかんべかあ?(笑)