映画評「イングロリアス・バスターズ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督クェンティン・タランティーノ
ネタバレあり
クェンティン・タランティーノの戦争サスペンス。
1941年ドイツ占領下のフランスの田舎ナンシー、ユダヤ人狩りで名を馳せる親衛隊の大佐クリストフ・ヴァルツがある農家を訪れ、言葉巧みに主人を追い詰めて近隣のユダヤ人一家を床下に隠していることを告白させる。激しい銃撃の中娘のメラニー・ローランがただ一人逃亡に成功する。
というのが第一章と呼ばれる事実上のプロローグで、ここのサスペンスは重量級である。本作のサスペンスは何気ない会話の中にじわっと醸成されるという形のものが多いのだが、この第一章が断然優れている。
また、最初フランス語で喋っていた二人がヴァルツの提案で英語で話し始める。アメリカ映画にありがちな“何ちゃって外国語”のパロディーなのかと深読みしたら実は床下にいるユダヤ人に聞かせない為の策略であると判明する辺りも優秀。気がつかなかった僕がうっかり者であるという説もある。
続いてはブラッド・ピットがリーダーを務めるアメリカの特殊部隊“イングロリアス・バスターズ”の紹介。彼がインディアンの血を引いているので捕まえたナチスドイツ兵の頭皮を剥ぐという残酷さを発揮するのが興味深い。但し、作り物としても露骨に見せなくもがな。
もう一つ面白いのは彼の役名がアルド・レインで、低予算のフィルムノワールや戦争映画によく出演した俳優アルド・レイのもじりになっていること。僕の勘ではあるが、B級映画好きのタランティーノだからオマージュと思って間違いない。ドイツ映画の戦前の名優“エミール・ヤニングス”が最終章に少し登場するのにもニヤニヤさせられる。
さて、メラニーが映画館主となって再び登場、孤軍奮闘して英雄になり自分の活躍を描く国威発揚映画「国民の誇り」に主演した軍人ダニエル・ブリュールと知り合いになったことから、彼女の映画館がナチス上層部がこぞって出席するプレミア上映館に選ばれる。それを知った彼女は上映中に映画館に放火して復讐する決意をする。
その一方、“バスターズ”の面々が映画館の爆破計画を相談する為にドイツ軍人に成り済まして酒場で英国の二重スパイであるドイツの有名女優ダイアン・クルーガーと接触することになるが、そこにドイツ兵の一団が陣取っていたことからややこしいことになる。
ここも言語の問題を交えて、タランティーノらしい駄弁と思わせつつ相手の様子を伺う面白い場面に仕立て上げられている。
かくしてヒトラーまで出席した試写会は一方で映画館側の放火、一方でバスターズの爆破作戦が並行して進行する大サスペンスになるが、ヒヤヒヤできるものの手に汗握るというところまで行かないのは残念でした。
配役陣では、憎たらしい親衛隊軍人を演じたヴァルツが絶品。
純粋な“アメリカ人”がなかなか死なない映画。
2009年アメリカ映画 監督クェンティン・タランティーノ
ネタバレあり
クェンティン・タランティーノの戦争サスペンス。
1941年ドイツ占領下のフランスの田舎ナンシー、ユダヤ人狩りで名を馳せる親衛隊の大佐クリストフ・ヴァルツがある農家を訪れ、言葉巧みに主人を追い詰めて近隣のユダヤ人一家を床下に隠していることを告白させる。激しい銃撃の中娘のメラニー・ローランがただ一人逃亡に成功する。
というのが第一章と呼ばれる事実上のプロローグで、ここのサスペンスは重量級である。本作のサスペンスは何気ない会話の中にじわっと醸成されるという形のものが多いのだが、この第一章が断然優れている。
また、最初フランス語で喋っていた二人がヴァルツの提案で英語で話し始める。アメリカ映画にありがちな“何ちゃって外国語”のパロディーなのかと深読みしたら実は床下にいるユダヤ人に聞かせない為の策略であると判明する辺りも優秀。気がつかなかった僕がうっかり者であるという説もある。
続いてはブラッド・ピットがリーダーを務めるアメリカの特殊部隊“イングロリアス・バスターズ”の紹介。彼がインディアンの血を引いているので捕まえたナチスドイツ兵の頭皮を剥ぐという残酷さを発揮するのが興味深い。但し、作り物としても露骨に見せなくもがな。
もう一つ面白いのは彼の役名がアルド・レインで、低予算のフィルムノワールや戦争映画によく出演した俳優アルド・レイのもじりになっていること。僕の勘ではあるが、B級映画好きのタランティーノだからオマージュと思って間違いない。ドイツ映画の戦前の名優“エミール・ヤニングス”が最終章に少し登場するのにもニヤニヤさせられる。
さて、メラニーが映画館主となって再び登場、孤軍奮闘して英雄になり自分の活躍を描く国威発揚映画「国民の誇り」に主演した軍人ダニエル・ブリュールと知り合いになったことから、彼女の映画館がナチス上層部がこぞって出席するプレミア上映館に選ばれる。それを知った彼女は上映中に映画館に放火して復讐する決意をする。
その一方、“バスターズ”の面々が映画館の爆破計画を相談する為にドイツ軍人に成り済まして酒場で英国の二重スパイであるドイツの有名女優ダイアン・クルーガーと接触することになるが、そこにドイツ兵の一団が陣取っていたことからややこしいことになる。
ここも言語の問題を交えて、タランティーノらしい駄弁と思わせつつ相手の様子を伺う面白い場面に仕立て上げられている。
かくしてヒトラーまで出席した試写会は一方で映画館側の放火、一方でバスターズの爆破作戦が並行して進行する大サスペンスになるが、ヒヤヒヤできるものの手に汗握るというところまで行かないのは残念でした。
配役陣では、憎たらしい親衛隊軍人を演じたヴァルツが絶品。
純粋な“アメリカ人”がなかなか死なない映画。
この記事へのコメント
何故かよくわかりませんが、友人達といたくこの映画を気に入ってしまって、何度も映画館に通っては、登場人物を真似し合ったりしてました(お子ちゃまですね・・・・)。
それはさておき、この作品でも、タランティーノがよくやる旧作へのオマージュが垣間見えて面白かったです。確かにアルド・レインはアルド・レイへのオマージュで間違いなさそうです。他にも『特攻大作戦』『追想』『暁の七人』など多くの作品へのオマージュがあるようです。
劇中の音楽も、ほとんどが旧作からの拝借のようで、その選曲がタランティーノならではのセンスで、特にモリコーネの音楽の使い方は絶妙に思いました。
出来はともかく、タランティーノは本当に映画が好きで仕方ないんだなぁと感じました。タランティーノの映画が嫌いになれない理由もそこにあります。
タンティーノ節は今回も色濃い濃い。
この人のご面相と話し方を見るたび
例えがちょっとわるいですけれど
昔呑んで絡んでいちゃもんつけてきた
やたら弁の立つ若いあんちゃんを彷彿。(笑)
>ここのサスペンスは重量級である。
>ヴァルツが絶品。
饒舌狡猾悪役部門としてはダントツにあの方。
無口無鉄砲強烈部門としては
「ノーカントリー」のハビエル君?
これ関連でロベール・アンリコの「追想」も観ました。鏡が歪んでフィリップ・ノワレが持つ火炎放射が鏡を撃ち破り、炎がドイツ将校を包み込み…こんなシーンも劇場スクリーンのシーンに使われたのかしら。フランスのとある村で境界に閉じ込められた村人達がドイツ軍によって焼き殺されたという悲劇とも重なる。
いろんな思いが込められて、でも最終的にはタランティーノ流の「映画に愛を込めて」を強く感じた一作でした。
>お子ちゃま
そういう乗りで作られた作品ですから良いんじゃないでしょうか。^^
大学生の時、友人が俳優になると言い出し、突然「太陽にほえろ」の真似をしたのを思い出しましたよ。
結局彼は製薬会社に入りましたけど(笑)。
>『特攻大作戦』『追想』『暁の七人』など
詳細は解りませんが・・・
確かに「特攻大作戦」の幕切れも婦人(夫人)たち共々蒸し焼きにされるので、通底しますね。
「追想」は家族を殺され、復讐するというところなのかな。
>劇中の音楽
最初の「アラモ」が印象的でした。
後はモリコーネではないけれど「荒野の1ドル銀貨」。これは好きで今でもよく口ずさんでいます。
>タランティーノは本当に映画が好き
デヴュー作の「レザボア・ドッグス」からしてキューブリック「現金に体を張れ」の現代版焼き直しでしたものね。
>タランティーノ節
近年残虐度が増しているのがちょっと嫌なんですが(笑)。
>ご面相
あのおでことあごがいかにもマンガ的ですね。
>饒舌狡猾悪役部門
あははは。
あんまり憎らしいので、劇中人物なのに殺したくなりましたよ。^^;
>無口無鉄砲強烈部門
ハビエル君・・・映画史に残る不気味な悪党でしたなあ。
>言語
戦争映画ではやはりその国の言葉で喋ってくれないと、観ていてよく解らないことになりかねない。
実際には複数の言語が絡まない限りどこの国民のどこの言語を喋ろうが良いんです。ムードが出ないのは承知で映画化しているわけで、評価的に損をするのは作る側なんですから。
本作なんかスパイが出てくるので余計言語は大事ですね。
「バルジ大作戦」というかつての戦争大作で僕が困ってしまったのは、本作とは逆に英軍兵に化けるドイツ兵士が出てくるんですが、ドイツ語で喋っているはずの部分も殆ど英語で喋っているので、こやつらの英語が上手いのか下手なのか皆目見当がつかない。こういうのは“映画的に”ダメなんです。
タラちゃんの良い意味でのアンチ・ハリウッド主義が良く出た部分ですね。
仰るように、タラちゃん、あんたはえらい!
>「追想」
録画しておりますが、“再会”しておりません。“追想”だけしております・・・なーんちゃって。
30年以上前に観たきりで殆ど憶えていないです・・・
タラちゃんは「特攻大作戦」と同じように、特殊部隊がドイツ軍将校をぎゃふんと言わせて(特に)アメリカ人をご機嫌にする映画を作ろうとしたんでしょうね。「特攻大作戦」よりその目的をうまく実現しているような気がします。
ご無沙汰しておりました。
最近は、少々忙しかったことに加え、so-netブログの調子が悪く、都合のいいときに作業できないという悪循環に陥っております。^^;
本作はタランティーノらしく面白い話でしたが、見終わった後は妙に疲れました。
そんな中、昨年はヒトラー暗殺映画が2本公開されましたが、史実に忠実な作品よりも、フィクションの方が評価(オスカー候補)されたという点が興味深いです。
>都合のいいときに作業できない
webryも以前はよくありましたが、最近はTBの相性などを含めて相当改善されていますね。
>見終わった後
ヒロインは生き延びるべきではなかったか、と。
>ヒトラー暗殺映画
正統派サスペンスが好きな僕は、やはり、「ワルキューレ」に軍配を上げますが、こちらも面白かった。
>フィクションの方が評価
世間が趣味的な作品に流れている時代の趨勢や、アメリカがやや自信を失っている時代性がもろに反映されているかもしれませんね。
自分はタランティーノが苦手だとわかりました orz
プロローグはよかったんですよね。クリストフ・ヴァルツもよかった。
でも私にはそこまででした。
地下室で撃ち合いになる場面など、「仁義なき戦い」シリーズなど東映の実録ヤクザ映画を思い出させるところがあり、しかし、東映のヤクザ映画観てるときみたいに自然におかしがれない。
なんでなのかはわからないんだけれども、私にとっては、それはタランティーノだから、となってしまう。
他の人が書いた解説を読むと、ああこういう楽しみ方があるんだな、と気がついたりして、そういうのがおもしろいといえばおもしろいですね。
>タランティーノが苦手
僕は苦手というより世間ほどは評価していませんね。彼は模倣大王ですね
本作は割合ストレートで面白い部類とは思いました。
ついでに、同様にゴダールは苦手です。
>「仁義なき戦い」
「キル・ビル」でもヤクザ映画(とブルース・リーのカンフー映画)にオマージュを捧げたB級映画好きのタランティーノですから、またやらかしているかも。
>他の人が書いた解説
僕のも少しは参考になりましたか(笑)。
それを聞いて勇気づけられました。日本で特にそうなのかもしれませんが、ものすごく評価も人気も高くて、映画ファンの前ではつまらないと言いにくい雰囲気すらあるんですね。
イーストウッドやウッディ・アレンの映画は地方のシネコンまで来ませんので、全国一斉ロードショーになる洋画で、監督の名前が宣伝に使われるのは、もうスピルバーグとタランティーノだけでしょう。でも、タランティーノはどっちかというと、B級映画を偏愛するようなマニアックな映画ファン向けの監督なんじゃないでしょうかね。
スピルバーグよりは、ジョン・ウォーターズと比べられた方がしっくりするし、私はタランティーノよりは、ずっとジョン・ウォーターズのほうが好きだったりします。
>映画ファンの前では
いかにタランティーノのファンと雖も、「評価できない」といった冷静な表現なら何とかなると思ってその旨記述しております。
但し、ある種の系列の日本製アニメの悪口だけは言わないように、その前に観ないことにしています。観ると書かずにいられないもので。
>監督の名前
実際、監督で映画を観ているブログ管理人というのは僕が読んでいる中では非常に少なくて、10人に1人くらいでしょうか。
逆に、スピルバーグ、タランティーノ、イーストウッド、アレン、シャマラン程度になると監督の名前を出すのがブログではマストになっている感じがある一方、仰る通り監督名が宣伝に使われるのはご指摘の二人だけですね。
ギャラが一番高いと言われているピーター・ジャクソンでさえ、「ロード・オブ・ザ・リング」の監督という表現になってしまう。
>タランティーノ・・・マニアックな映画ファン
同意です。
6年くらい前僕が大いにずっこけて酷評した日本の迷作「吸血ゴケミドロ」がタランティーノのご贔屓映画と喧伝された為彼のファンにおいてはこの映画を絶賛している人が多いのですが、あの映画を作られた時代(1968年頃)の映画環境をよく考えれば、楽しむことは出来ても評価してはいけないでしょう。
当時新米ブロガーだったので、調子に乗って他人の家に土足で上がるような真似をしてしまって後悔していますが、記述した内容自体は正論であると今でも思っています。
>ジョン・ウォーターズ
そうでしょうね。
僕自身はそれほど観ておりませんが、「クライ・ベイビー」には良い印象が残っています。
学生時代即ち70年代末から80年代にかけて自主上映で「ピンク・フラミンゴ」がよく上映されていた記憶がありますが、当時は関心がなくて結局観ませんでした。
どうもすみません。