映画評「エスター」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督ハウメ・コジェ=セラ
ネタバレあり
デビュー作「蝋人形の館」では突然の大きな音で驚かすというこけおどしを繰り返してうんざりさせたハウメ・コジェ=セラとしては上出来と言うべきサイコ・スリラーである。今回も誰もいないのに後ろに誰かいるように思わせる主観ショットもどきのトリックを繰り返すのは戴けないが、それほど大きなマイナスではない。
雪の多い田舎町、三番目の子供を死産した主婦ヴェラ・ファーミガは夫ピーター・サースガードと相談してある教会系の孤児院から絵の上手い利発そうな少女イザベル・ファーマン(邦題になっているエスター)を養女に迎えるが、彼女は父親にべったり、母親に対してはわざと嫌がることをする。
しかし、これはほんの序の口で、クラスメートを高所から突き落としたり、過去に問題のあることを告げに来たシスターCCH・パウンダーの車の前に口のきけない妹アリヤーナ・エンジニアを押し出し、車から出てきたシスターを撲殺、妹を脅迫して口を封印し凶器を一家のツリーハウスに隠す。
妹の乗った車を操作して坂道を滑走させた頃からヴェラはイザベル即ちエスターの犯行であることを確信するものの、アル中だった過去のある彼女の発言は夫にもカウンセラーにも信用して貰えず、遂に長男ジミー・ベネットがツリーハウスごと燃やされそうになる。
というお話は少女が殺人を犯して母親を苦しめる半世紀前の恐怖映画の佳作「悪い種子(たね)」を彷彿とする。参考にした部分もあると思われるが、時代故にあの作品が抑えた残虐場面を明確に描写することができるようになった分サスペンス度は優っていると言っても良い。
特に大きな事件の起こらない前半頗る丹念に布石を敷き伏線を張って観ているこちらの肩が凝るほどだ。彼女が入浴を見せなかったり首や手首にリボンを巻いているのも見事な伏線となっている。
思い込みを排除できない大人と直感で判断する子供との対照は鮮烈で、これも考え方によっては重要な伏線だ。
僕が一番ショックを受けたのは母親が死産した子供の為に咲かせていた薔薇の花をエスターが切ってプレゼントとして贈る場面である。精神的にこれほど残虐なことはあるまい。サスペンスは本来かくあるべし。
一方、終盤鑑賞者の思い込みを利用してミステリー的に面白くした工夫が、ホラー映画としてはがっかりする結果をもたらしている。つまり、子供なのにあんなことまでするのかというショックが薄められてしまっているのである。
妻を信じない夫は罰を受ける。世の亭主諸君は肝に銘じておきましょう。
2009年アメリカ映画 監督ハウメ・コジェ=セラ
ネタバレあり
デビュー作「蝋人形の館」では突然の大きな音で驚かすというこけおどしを繰り返してうんざりさせたハウメ・コジェ=セラとしては上出来と言うべきサイコ・スリラーである。今回も誰もいないのに後ろに誰かいるように思わせる主観ショットもどきのトリックを繰り返すのは戴けないが、それほど大きなマイナスではない。
雪の多い田舎町、三番目の子供を死産した主婦ヴェラ・ファーミガは夫ピーター・サースガードと相談してある教会系の孤児院から絵の上手い利発そうな少女イザベル・ファーマン(邦題になっているエスター)を養女に迎えるが、彼女は父親にべったり、母親に対してはわざと嫌がることをする。
しかし、これはほんの序の口で、クラスメートを高所から突き落としたり、過去に問題のあることを告げに来たシスターCCH・パウンダーの車の前に口のきけない妹アリヤーナ・エンジニアを押し出し、車から出てきたシスターを撲殺、妹を脅迫して口を封印し凶器を一家のツリーハウスに隠す。
妹の乗った車を操作して坂道を滑走させた頃からヴェラはイザベル即ちエスターの犯行であることを確信するものの、アル中だった過去のある彼女の発言は夫にもカウンセラーにも信用して貰えず、遂に長男ジミー・ベネットがツリーハウスごと燃やされそうになる。
というお話は少女が殺人を犯して母親を苦しめる半世紀前の恐怖映画の佳作「悪い種子(たね)」を彷彿とする。参考にした部分もあると思われるが、時代故にあの作品が抑えた残虐場面を明確に描写することができるようになった分サスペンス度は優っていると言っても良い。
特に大きな事件の起こらない前半頗る丹念に布石を敷き伏線を張って観ているこちらの肩が凝るほどだ。彼女が入浴を見せなかったり首や手首にリボンを巻いているのも見事な伏線となっている。
思い込みを排除できない大人と直感で判断する子供との対照は鮮烈で、これも考え方によっては重要な伏線だ。
僕が一番ショックを受けたのは母親が死産した子供の為に咲かせていた薔薇の花をエスターが切ってプレゼントとして贈る場面である。精神的にこれほど残虐なことはあるまい。サスペンスは本来かくあるべし。
一方、終盤鑑賞者の思い込みを利用してミステリー的に面白くした工夫が、ホラー映画としてはがっかりする結果をもたらしている。つまり、子供なのにあんなことまでするのかというショックが薄められてしまっているのである。
妻を信じない夫は罰を受ける。世の亭主諸君は肝に銘じておきましょう。
この記事へのコメント
僕はこの映画は、怖くて怖くて、思い出すとブルっとするので、レヴューにしてないんですよ(笑)
SAWなんてメじゃないね。
でもこれ、ジャパンホラーでは、もしかしたら制作自粛になってしまうような内容かもしれません。
>SAW
“そう”ですね(笑)、確かに精神的にこんなに怖い映画はなかなか類がないです。
ヒロインの正体が判明したところで多少興醒めしますが、それでも怖いことには変わりがないですね。
日本人は生真面目すぎて極端な反応を示すから、実名を挙げて映画化するのも殆どないですし、子供が絡んだこういう映画は確かに自主規制してしまうかもしれません。やだやだ(笑)。