映画評「エレジー」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督イザベル・コイシェ
ネタバレあり
「さよならコロンバス」という40年くらい前の映画化作品が印象に残る純文学作家フィリップ・ロスの「ダイング・アニマル」をスペイン出身の女性監督イザベル・コイシェが映像化した純文学映画。
息子が35歳ということだから60歳くらいと思われる大学教授ベン・キングズリーが、前の妻と離婚後教え子パトリシア・クラークスンと20年近く性愛だけの割り切った関係を続けているある時、キューバ系美人の教え子ペネロペ・クルスに関心を覚え、持論の快楽主義を忘れて深入りし、過去の男性は勿論これから現れるであろう男性にまで嫉妬し始める。
その嫉妬は老境にある不安やコンプレックスの発露でもあり、恋愛もののように見える本作が本当に描きたかったであろう部分である。それは魂の触れあうような関係を求める彼女の「家族パーティーに参加してほしい」という要請から逃げ出す結果を生み出し、それに深手を負った彼女との別離を呼ぶ。かくして終ったこのロマンスは、しかし、2年後彼女の乳癌発症で、関係性を変えて再開される。
というお話で、原作についてはよく解らないが、この映画版はロマンスを通して教授の内省即ち心模様に迫る作品のように思える。彼の良き相談相手だった詩人デニス・ホッパーは途中病死してしまうものの、生前二人が話し合っていた場面も彼の内省と考えてそのまま通るような作り方がされていて大変興味深い。
さて、ストーリーの最後の部分に使った“関係性”で僕が言おうとしたのは、ゴヤの名画「裸のマハ」にも比肩すべき完璧な美しさを持つ乳房を失い、死の恐怖と向かい合うことになるペネロペ故に、年齢から衰えと死を意識せざるを得ない老教授が引け目も感じずに純粋に精神的に付き合えるようになったと想像される、ということである。
作劇に若干曖昧さを残すが、インテリの老境を描いてなかなか面白い映画と言えるのではあるまいか。
ペネロペは久しぶりに日本のCMに出ていた頃を思い出させる可憐さでしたね。
2008年アメリカ映画 監督イザベル・コイシェ
ネタバレあり
「さよならコロンバス」という40年くらい前の映画化作品が印象に残る純文学作家フィリップ・ロスの「ダイング・アニマル」をスペイン出身の女性監督イザベル・コイシェが映像化した純文学映画。
息子が35歳ということだから60歳くらいと思われる大学教授ベン・キングズリーが、前の妻と離婚後教え子パトリシア・クラークスンと20年近く性愛だけの割り切った関係を続けているある時、キューバ系美人の教え子ペネロペ・クルスに関心を覚え、持論の快楽主義を忘れて深入りし、過去の男性は勿論これから現れるであろう男性にまで嫉妬し始める。
その嫉妬は老境にある不安やコンプレックスの発露でもあり、恋愛もののように見える本作が本当に描きたかったであろう部分である。それは魂の触れあうような関係を求める彼女の「家族パーティーに参加してほしい」という要請から逃げ出す結果を生み出し、それに深手を負った彼女との別離を呼ぶ。かくして終ったこのロマンスは、しかし、2年後彼女の乳癌発症で、関係性を変えて再開される。
というお話で、原作についてはよく解らないが、この映画版はロマンスを通して教授の内省即ち心模様に迫る作品のように思える。彼の良き相談相手だった詩人デニス・ホッパーは途中病死してしまうものの、生前二人が話し合っていた場面も彼の内省と考えてそのまま通るような作り方がされていて大変興味深い。
さて、ストーリーの最後の部分に使った“関係性”で僕が言おうとしたのは、ゴヤの名画「裸のマハ」にも比肩すべき完璧な美しさを持つ乳房を失い、死の恐怖と向かい合うことになるペネロペ故に、年齢から衰えと死を意識せざるを得ない老教授が引け目も感じずに純粋に精神的に付き合えるようになったと想像される、ということである。
作劇に若干曖昧さを残すが、インテリの老境を描いてなかなか面白い映画と言えるのではあるまいか。
ペネロペは久しぶりに日本のCMに出ていた頃を思い出させる可憐さでしたね。
この記事へのコメント
ペネロペは可愛いですねぇ。
教授の狂いようもなんとなくわかりますねぇ。
老境論として面白いところもあるけど、自分なんかは「枯山水」の世界にこもっています(笑)
拙記事勇気を持ってTBさせていただきました。
イザベル・コイシュ、
いい仕事をする監督だと思います。
>ペネロペ
ここのところはスペイン人らしく豪快だったり、可憐な役が余りなかったですが、今回は(僕らが勝手にそう思っている)ペネロペの原点に戻った感じで、嬉しかったです。
>「枯山水」の世界
僕はまだそこまで割りきれません(笑)。
>"齟齬"
その際にはご迷惑をお掛けいたしました。
今後も努力致しますが、また大失敗をしでかすかもしれません。その時にはお手柔らかに叱って下さいませ。<(_ _)>
>イザベル・コイシェ
僕が観た三本の作品はいずれも繊細な作品でした。
多少不満が残るところもあるので、もう一つ突き抜けて傑作を作って欲しいと思います。