映画評「正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督ウェイン・クラマー
ネタバレあり
「グラン・トリノ」、「扉をたたく人」に続いてアメリカにおける移民問題をテーマにした秀作。
ロサンゼルス、臨機応変に不法移民に対処している移民税関捜査局(ICE)の捜査官ハリスン・フォードは若い女性アリシー・ブラガを見逃すことに失敗、その息子を発見してメキシコの実家に送り届けるが、彼女は再びアメリカに向かったと言われる。
その彼の相棒であるアラブ系捜査官クリフ・カーティスは韓国人不良グループによる強盗に遭遇、初犯らしい少年を逃してやる。彼自身が移民だから市民権を得る直前の彼にシンパシーを覚えたのであろう。
その直後彼の妹が殺害され、不審に思ったフォードが独自に捜査を進め、意外な人物を行き当たる。これは移民を巡る不条理を描く本作の狙いに必ずしもそぐわないが、アメリカ文化にイスラム教徒が向き合おうとする時に発生する歪みが浮かび上がっている。
9・11以降そのイスラム教徒に向けられる偏見に満ちた視線と理不尽な扱いを嫌というほど体験するのが女子高校生サマー・ビシル。誰でも受け入れられる移民の国、どんな発言も許される自由の国のはずであるアメリカにおける不条理が見事に浮き彫りにされるのが彼女とその一家を巡る挿話である。
長いこと移民鎖国である(であった?)日本は今のところ問題外だが、実際には移民を巡って恐らくこの映画以上の出鱈目が行なわれているにちがいないだろうから、アメリカも現状に胸を張ることは出来まい。
イスラム教徒の彼女の一家とは対照的にユダヤ人の青年ジム・スタージェスがグリーンカード(永住権)をいんちき紛いな手で得るのはユダヤ系に有力者が多いアメリカならではと皮肉りたくもなるが、韓国少年やナイジェリアの少女のエピソードを含めて、自身南アからの移民であるという脚本・監督ウェイン・クラマーはアメリカは“運の国でもある”ということを示したかったのではあるまいか?
また、グリーンカードが問題になるのは白人も同じ。オーストラリアからの女優志願アリス・イヴは移民判定官レイ・リオッタと交渉して“さもありなん”の展開に進展していく。リオッタ氏の細君が移民を専門にしている弁護士アシュリー・ジャド。彼女の有能さを見れば、他の女性に手を出したくなる夫君の無能さに多少同情心が湧かないでもない。
最後に再びフォード氏。不法移民にも色々な人生がある。彼のように一人一人アナログ的に接することができれば移民が遭遇する不条理も減って行くであろうという希望を馳せながら、アメリカの移民を巡る現実を多面的に反映して見応えあり。優等生的であることを嫌わなければ観て損はないと思う。
ICE(アイス)のように冷たくないハリスン・フォード。
2008年アメリカ映画 監督ウェイン・クラマー
ネタバレあり
「グラン・トリノ」、「扉をたたく人」に続いてアメリカにおける移民問題をテーマにした秀作。
ロサンゼルス、臨機応変に不法移民に対処している移民税関捜査局(ICE)の捜査官ハリスン・フォードは若い女性アリシー・ブラガを見逃すことに失敗、その息子を発見してメキシコの実家に送り届けるが、彼女は再びアメリカに向かったと言われる。
その彼の相棒であるアラブ系捜査官クリフ・カーティスは韓国人不良グループによる強盗に遭遇、初犯らしい少年を逃してやる。彼自身が移民だから市民権を得る直前の彼にシンパシーを覚えたのであろう。
その直後彼の妹が殺害され、不審に思ったフォードが独自に捜査を進め、意外な人物を行き当たる。これは移民を巡る不条理を描く本作の狙いに必ずしもそぐわないが、アメリカ文化にイスラム教徒が向き合おうとする時に発生する歪みが浮かび上がっている。
9・11以降そのイスラム教徒に向けられる偏見に満ちた視線と理不尽な扱いを嫌というほど体験するのが女子高校生サマー・ビシル。誰でも受け入れられる移民の国、どんな発言も許される自由の国のはずであるアメリカにおける不条理が見事に浮き彫りにされるのが彼女とその一家を巡る挿話である。
長いこと移民鎖国である(であった?)日本は今のところ問題外だが、実際には移民を巡って恐らくこの映画以上の出鱈目が行なわれているにちがいないだろうから、アメリカも現状に胸を張ることは出来まい。
イスラム教徒の彼女の一家とは対照的にユダヤ人の青年ジム・スタージェスがグリーンカード(永住権)をいんちき紛いな手で得るのはユダヤ系に有力者が多いアメリカならではと皮肉りたくもなるが、韓国少年やナイジェリアの少女のエピソードを含めて、自身南アからの移民であるという脚本・監督ウェイン・クラマーはアメリカは“運の国でもある”ということを示したかったのではあるまいか?
また、グリーンカードが問題になるのは白人も同じ。オーストラリアからの女優志願アリス・イヴは移民判定官レイ・リオッタと交渉して“さもありなん”の展開に進展していく。リオッタ氏の細君が移民を専門にしている弁護士アシュリー・ジャド。彼女の有能さを見れば、他の女性に手を出したくなる夫君の無能さに多少同情心が湧かないでもない。
最後に再びフォード氏。不法移民にも色々な人生がある。彼のように一人一人アナログ的に接することができれば移民が遭遇する不条理も減って行くであろうという希望を馳せながら、アメリカの移民を巡る現実を多面的に反映して見応えあり。優等生的であることを嫌わなければ観て損はないと思う。
ICE(アイス)のように冷たくないハリスン・フォード。
この記事へのコメント
ドタドタ走って八面六臂の活躍をする映画
かと思ってボサ~ッと観始めましたが
いやはやなかなかの出来ではなかったでしょうか。
レイ・リオッタらしい(笑)エピソードを含めて
いわばフォード以外の各々の挿話がちゃんと
立っていて結構良かったと思いますよ~
画面に勢いもありましたしね。^^
>ドタバタ走って
邦題は明らかにミスリードを狙って付けられていますよね。
サブタイトルがなければ、ちょっと正体不明な感じになりますけど。
>なかなかの出来
良いですねえ。
非常に優等生的ですが、物凄くきちんとまとまっています。
なるべく現状を伝えるだけにして主張を押し付けないという作り方も好感が持てますね。^^
まじめに作られている映画でしたね。
日本も北朝鮮が崩壊したら、何百万人の難民を受け入れることになるかもしれませんね。
北朝鮮は2000万程度の人口を抱えているようですから、1割でも200万人くらいになりますね。
しかし、敵国思想を叩きこまれた彼らは怖がらずに日本に来られるかしら?